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ただの痴話ゲンカ

 駿河が襲われたのはちょうど桑原圭史郎の事件が報道された翌日のことだ。桑原は反対派に所属していた。

 だから推進派への見せしめ、もしくは報復のためだったのではないだろうか。


 彼が推進派の筆頭である建設会社社長の息子であることを知っており、その上、性質の良くない仲間達と付き合いがある……そういう点で孝太しか考えられなかった。

「……なるほどね。それで、どうなんだ?」

 孝太は激しく首を横に振った。

「違う! 俺はそんなこと、何も知らない!!」

 美咲は申し訳なさそうに目を伏せ、黙っている。

「そういう自分こそどうなんだよ?! 今でもこいつと時々会ってるって噂、本当だったら俺達、全員路頭に迷うことになるんだぞ?!」

 どういうことだ?

 駿河は思わず手を伸ばして、今にも逃げ出してしまいそうな美咲の手を掴もうとした。


「ストーっプ!! だから、話を逸らすんじゃねぇ!!」

 友永が大きな声を出すと全員が動きを止めた。

 彼は髪をぼりぼりと掻き回し、

「とにかく、こいつが襲われた事件に関しては、あんたはまったく身に覚えがないって言うんだな?」

「……はい。そんなことがあったなんて、今初めて知りました」

「で、桑原圭史郎を殺したのは自分だって主張してる訳だ」

「……そうです……」

「残念だが、あんたを逮捕する訳にはいかない。犯人は女だってはっきり判明してるんだからな」

 駿河は思わず友永の横顔を見つめた。


 いいから話を合わせろ、とその眼が語っている。

「とにかく、くだらんことで警察を振り回すのはやめろ。いいな?」

 行くぞ、と友永は駿河の腕を掴んで事務室を出て行く。


 納得した訳ではなかった。

「友永さん……」

 駿河はぐんぐん前を歩いて行く刑事の後ろ姿に声をかけた。


 旅館の表玄関を出たところで、ようやく彼は足を止めた。そして、

「バカ野郎! あんなのは事情聴取じゃねぇ!! ただの痴話ゲンカだ!!」

 返す言葉もない。駿河は黙っていた。


「班長も、こうなることを見越してお前がここに行くのを許してくれたんだろうけどよ」

 そうだろうと思います、と駿河は小さい声で同意を口にした。


 友永は苛立たしげにポケットから禁煙用ガムを取り出した。

「……にしたってよ、なんなんだ? いったい……前の事件の時もそうだったけど、どう考えても誰かが彼女と、そのまわりの人間を巻き込んで騒動を起こそうと仕向けているような気がしてならないんだよな」

「どういう意味ですか?」

 その話は後だ、と彼は車の鍵を寄越してきた。


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