捜査本部は縮小されました
昨夜遅くに駿河が捜査本部に顔を出した。
とはいうものの、既に事件発生から時間が経過しているため本部は縮小。
尾道東署の刑事達は元々抱えている事案のため、台風が来る前に地元に戻った。
聡介達捜査1課の刑事達は引続きこの事案を扱うようにとの上からの指示があったが、因島西署の会議室を追い出され、生口島駐在所の2階という狭いスペースで額を突き合わせていた。
ちなみに応援で呼んだ佐伯南署の稲葉結衣巡査は、本人の希望もあって引続きこの事件捜査に参加することになっている。
「こりゃ、台風が抜けるまで待機ですよね? 班長」
心なしか嬉しそうに、窓から外を見ていた友永が言った。
「そうだな……」
その時、へぇっ?! と友永が妙な声を挙げた。
「どうしたんだ?」
あそこ……と彼が指をさす先には、この暴風雨の中を歩いている一人の人物。
「テレビの台風中継か? それにしちゃ人数が少ないな。一人ってことはないよな」
「怪しいですよ、職質かけますか?」
「ああ、そうしよう。彰彦、お前が行ってこい」
聡介が命じると和泉は黙って立ち上がり、部屋を出て行った。
「……大丈夫ですかね? 和泉さん。あんまり回復してないみたい」
結衣が気遣わしげに問いかける。
「気にするな、時間が解決するだろう」
とは言ったものの、聡介も心配ではあった。
心配と言えば駿河もそうだ。本人がもう大丈夫だと申告をしている以上、疑う訳にはいかない。
確かに怪我の具合はそれほどでもなさそうだ。
が、心配なのは感情面の方である。
この頃ようやく、聡介も駿河の表情が読めるようになってきた。
彼は何かに戸惑っている。
和泉と違って仕事に私情を挟むような真似はしないだろうが、捜査資料を読み込んでいる彼は、しかしどこか上の空のようにも感じられた。
お茶をどうぞ、と結衣が気をきかせて全員に配ってくれる。
「……石岡孝太……?」不意に駿河が声を出した。
聡介は彼の傍に寄った。
「班長、彼に嫌疑がかかっているのですか?」
「ああ。タレコミがあった」
聡介は駿河にタレコミの件を話した。
「知り合いなのか? 葵」
「ええ。でも、まさか……」
「タレコミの情報元は不明。指紋は検出できなかった。けど、彼に近しい人間の仕業には間違いないだろうな」
駿河は資料を卓袱台の上に置いて緑茶を一口飲んだ。
「彼は……確かにかつては、何かと問題を起こしていたかもしれません。でも、今は真面目に働いています。それに……」
「それに?」
「彼が自分の働く旅館に、美咲に迷惑をかけるような真似はしないと思います」
「……どういう意味だ?」
班長、と駿河は真っ直ぐに聡介を見つめて言った。
「自分を宮島に行かせてください。彼と、石岡さんと話がしたいのです」
止める理由があるとすればそれは、
「わかった。ただし、台風が去ってからだ」