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猫も風邪を引く

 起き上がって、散歩にでも行こうかと思ったが、外は台風による暴風雨である。

 昨日この別荘に到着した晩から、雨風は激しく、フェリーもすべて欠航だとニュースが言っていた。


 こんな日には旅行客も来ないだろう。来たくても来れない。


 ふと、プリンがベッドに飛び乗ってきて、周の膝の上で丸まった。めずらしい。

 三毛猫のプリンは美咲には無条件に懐いていて、彼女にはいつも甘えて擦り寄るが、周にはあまり近寄って来ない。

 なんの気まぐれだろう?


 周が手を伸ばして頭を撫でると、喉を鳴らして目を閉じる。


 ふと、メイの方はどうしているだろう? と気になった。

 日頃からテンションが高く、常に部屋の中をうろちょろ、じっとしていることが少ない猫だが、少しも物音がしない。


 気になって起き上がり、一階のリビングに降りてみる。すぐに見つかった。彼女は床の上に丸まってじっとしていた。

「どうしたんだよ?」

 近づくとメイはぐったりして目を閉じていた。

 すぐ近くに嘔吐した形跡がある。背中に触れると熱があった。


 周は急いで床を拭き取り、それから近くの動物病院に電話をかけた。


 ほとんどつながらず、やっとつながった医院では、この台風の中で猫を連れてこられたら診てやるという返事だった。

 応急処置の仕方を聞いて実践してみる。


 それから兄に電話する。

 今日仕事は休みのはずだ。

『周? どうしたの』

 電話はすぐにつながった。

「賢兄、メイが……!」周は現状を説明した。

『今からそっちへ行くの? 無理だよ。タクシーを呼べばいいじゃないか』

 まだ運転免許の取れる年齢ではない周は、兄に来てもらって動物病院まで連れて行ってもらいたいと考えていた。タクシー会社はどこもつながらない。

『明日には台風も抜けるだろうから、明日連れて行けばいい』賢司はそう言ったが、

「間に合わなかったらどうするんだよ?!」周は気が気ではなかった。

 ところが兄の答えは、弟の期待していたものとは大幅に異なっていた。

『寿命だったんだよ。二匹もいるんだからいいじゃないか』

「……そういう問題じゃない」

『だったら、次の猫をもらってくればいい。以前君が言ったんだよ、保健所には毎日殺処分を待っている犬や猫が何万匹といるんだって』

 それは確かにそうだ。

 でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「もういい、自分でなんとかする」

 周は電話を切って物置からレインコートを取りだし、猫が濡れないように工夫をして外に出た。雨風が容赦なく頬を打ち付ける。


 真っ直ぐ歩くのもままならない状況だが、じっとしてはいられなかった。


 心細いが前に進むしかない。

 待ってろよ、かならず医者に見せてやるからな。


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