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本音

 美咲が返事をしないでいると、彼は言った。

「……だったらそう言ってくれれば良かったんだ」

「話してどうなるの?」

「美咲……?」

「刑事を、警察を辞めるつもりだったとでも言うの?」


 駿河は少しの間を空けてから答える。

「少なくともその覚悟はある」

「嘘を言わないで! できるわけないじゃない。それに、もしそんなことになったら私は一生、あなたに負い目を感じて生きていかなければならない。あなたはそれでもいいかもしれない。けど、そんなのはただの自己満足だわ!!」

 酷いことを言っている自覚はある。けれど、いっそ憎まれた方が楽かもしれない。


 駿河は傷ついた顔をしている。

 ほとんど内心の感情を表に出さない彼の胸の内が美咲には理解できるようになったから、申し訳ないと心から思う。


 美咲は呆然としている駿河の手を振りほどいて歩き出す。

「待ってくれ!!」

 切実な響き。

 だけど、これ以上何を聞き、何を言わせたいというのだろう?

 

 それでも足を止めずにはいられなかった。

「答えて欲しい。君はあの人……藤江賢司氏を愛しているのか? 今、幸せなのか?」

 その名前が出てきた瞬間、自分を抑えることができなくなった。


 美咲は振り返って心の限りに叫ぶ。

「そんな訳ないでしょう?! 今でもあなたのことが好き。あなたのことを考えない日なんて1日だってない!!」

 駿河は驚き戸惑っている。

「だったらどうして……!」

「生まれる家を、親を選べないのと同じ。どんなに努力しても、自分ではどうすることもできないことがあるの。私が、あなたを忘れることができないように……」

「美咲!!」

 苦いものが込み上げてくる。言わなければ良かった。


 言ったところでどうなる訳でもないのに。愛する人を余計に苦しめるだけだ。でも、言わずにはいられなかった。

 今でも愛している。


 そのことだけはどうしても伝えたかった。


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