検問
職場へのお土産が足りないと言い出した義姉のために、帰る途中で土産物を販売している店に寄ることにした。
昨日見つけた洋菓子店とは別の、地元で採れた野菜などを販売しているちょっとした商店街に向かうことにする。
目的地に近付くと、やたらにパトカーが止まっており、規制線が張られている。
検問が行われており、賢司の運転する車も制服警官に呼び止められた
「何かあったんですか?」
警官はそれには答えず、無愛想に免許証の提示を求める。
「理由を教えていただけないのなら、こちらも免許証を提出したくはありません」
確かに居高丈な警官の態度には腹が立つが、周はまさか賢司がそんなことを言い出すとは思わなかった。
賢司さん、と助手席の美咲が袖を引っ張るが、兄は態度を変えない。
困った警官は近くを通りかかった上司に相談している。
「……実はですね、この付近で障害事件があったんですよ」
年嵩の警官はにこやかに理由を教えてくれた。
「どなたが被害に遭われたのですか? もしかしたら知り合いかもしれません」
その時、周は車窓から見知った顔を見つけた。
高岡さんだ!
急いで車から降りて走って行く。
制止する警官を振り切って、呆然としている聡介に周は近付く。
「高岡さん! どうしたの?」
周の突然の出現にびっくりしたようだが彼は、
「……周君か。葵が……」
「葵って、あの駿河っていう刑事のことですよね?! あいつがどうかしたんですか?」
周は思わず聡介の腕を掴んで問い詰めた。
「……何者かに襲われた。怪我をして病院に運ばれたんだ」
「どこの病院ですか?!」
隣の因島にある総合病院だと聞いた。
周は急いで車に戻り、因島の病院へ向かって! と、賢司に叫んだ。
「どうしたの、周?」
「いいから早く!」
「周君、いったいどうしたの? 何があったの……」
美咲が心配そうに尋ねる。
「あいつが、襲われて怪我をしたって」
「あいつ?」
「あの、駿河っていうストーカー刑事だよ!!」
さーっ、と美咲の顔から血の気が引く。
賢司は何も言わず、病院に向けて車を走らせてくれた。
周は自分でもなぜこんなことをしているのか不思議だった。
診療所の受付に駆け込んで駿河の名前を出すと、まだ治療中だとのことだ。
とにかく中に入りウロウロする。
「……周君?」
年配者でごった返している病院の中でも、聞き覚えのあるその声はすぐに識別できた。
「……和泉さん!」
周は和泉の傍に駆け寄った。
「どういうことだよ、あいつ無事なのか?!」
「……命に別条はないみたいだけどね、今は検査中だよ」
命が助かったと聞いて、周はほっとして緊張が緩んだ。
思わず和泉の腕にすがりつく。
「周君達もこっちに来ていたんだね。驚いたよ」
うん……と周はその時ばかりは賢司に言われたことを忘れ、いつも通り接している。
「何があったの?」
「それが、僕らにもよくわからないんだ。詳しいことは本人から聞くしかない」
周は初めて見る、和泉の真面目な横顔に少し驚いていた。