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襲撃

 携帯電話が鳴り出した。


 駿河は正直言ってあまり役に立たない松田巡査に断りを入れて、着信を押す。

『葵か?』父親からだ。

「今、勤務中なので切ります」

『待て。お前、彩佳さんとのことはどうなってる?』

「だから、勤務中だと言ってるじゃありませんか。その話は後にしてください」

『向こうはいつでもいいと言っている。後はお前の都合次第だが、できる限り早い方が良いだろう』

 人の話を聞いているのか?


 駿河は苛立って思わず、

「その話は昨夜、本人にはっきりとお断りしました! もう終わりです」と叫んだ。

 少しの沈黙。それから父親は溜め息交じりに言った。

『お前……あの女に今でも会ってるそうだな?』

「あの女?」美咲のことだとすぐにピンと来たが、敢えて問い返す。

『寒河江美咲のことだ』

「会ったりしていません」

 偶然に出会ったことは何度かあった。


 しかしそれも今思えば、本当に偶然だったのだろうか……?

『嘘じゃないんだな?』 

「ご自分の息子が信じられないなら、何も言うことはありません」

 駿河は思い切って通話を切った。


「なんすか? 何か、深刻そうな話っすね」

 なんちゃって敬語を使っている後輩刑事の松田巡査のことが、駿河はどうしても好きになれないでいた。

 別に好きにならなくてもいいが、コンビを組んだ以上は息を合わせなければ仕事に支障が出る。

「何でもない。聞き込みを続けるぞ」


 ところで松田はやたらに話し好きで、歩いている間ずっとしゃべっていた。


 自分語りが終わると今度は駿河のまったく知らない警察学校の同期生の話や、学生時代の友人の話にまでおよび、うんざりしかけていたところへ、黒い野良猫が通り過ぎた。

「それにしても、この島ってほんと猫が多いっすね」

 そうだな、と返事をしている傍から、縞模様の野良猫がにゃーんと甘えた鳴き声ですり寄ってきた。


 もとは飼い猫だったのだろう。随分と人に慣れている。何かくれ、と言っているように思えたが、あいにく何も持っていない。

 ごめんな、と駿河が頭を撫でると、それなら用無しだよ、と去っていく。

 

 その時だった。

 一台の黒い、明らかに違法改造車が二人のすぐ傍に停まった。

 

 降りてきたのは5人の男達で、皆一様に黒い目出し帽を被っている。男達は黙ったまま駿河を取り囲む。

 

 その内の一人は何も言わずに、いきなり棍棒のようなもので駿河に殴りかかってきた。

 

 高岡警部に連絡を! と、すんでのところで最初の攻撃をかわしてから、駿河は松田に叫んだ。

 

 多勢に無勢の情況で、それでも彼は何者かを確かめようと車や男達の様子を冷静に観察した。

『宮島を守る会』と書かれた旗が荷台に載せられている。


「なぜだ? なぜ僕を狙う?!」

 男の一人が答えて言った。

「お前はスパイだ!」

「スパイ……?」

「そうだ、あの女の回し者だ!!」

 それからは何が何だかわからなくなってしまった。


 男達の怒号が響き、殴られたり突き飛ばされたり、蹴られたりと、もみくちゃにされ、力が抜けて行く。


 地面に膝をつき、駿河は班長の顔を思い浮かべた。


 僕が倒れたりしたらあの人、きっと泣いてしまうな……。


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