グリーンリバー
被害者が毎晩、人目を避けるようにして通っていたのは間違いなく女性のところだ。遺体の手に握られていたアクセサリーの欠片がそれを雄弁に物語っている。
島の住人とは考えにくかった。
島の住民にはいくらか若い女性もいるが、ほんとが主婦である。若い独身女性と言ってもそれこそ中高校生が2、3人ぐらいで、被害者がロリコンでもない限り考えにくい。
となると観光客の誰か、ということになる。
しかし被害者を知る人間達は口を揃えて、彼が見知らぬ女性に声をかけてナンパするなんて考えられない、と言う。
逆ならありうるだろうけど。
逆、つまり女性の方から声をかけられればおそるおそるついていくかもしれない。
どうしても痴情のもつれにこだわりたい横尾管理官の命令で、和泉と聡介のコンビは島中の宿泊施設を巡り、被害者と接触したであろう若い女性を探していた。
被害者はもともとこの島の町興しを取材するために来ていたのだ。
カメラを持って被写体を探す際、絵になりそうな若くて綺麗な女性を探したことだろう。
写真を撮って連絡先を交換、親しくなって旅の思い出に、何度か行動を共にしているうちに……。
その逆も考えられる。
シャッターを押して欲しいと被害者に女性から声をかけたとしたら?
今どきは自撮り棒なるものもあるが、好みの男性を見かけて思わず声をかけるきっかけにするかもしれない。
好みにもよるかもしれないが、被害者はなかなかの好男子である。
二人は海沿いに建つスカイブルーの壁をしたペンションの前に到着した。
今までいろいろな旅館やホテルを巡って聞き込みをしたが、被害者のことは知っていても彼が誰かと連れだって行動していたところを見たものはない。
ここもダメかな、と半分あきらめの気持ちで入り口のドアを開こうとした時、中からドアが開いた。
「おっと、失礼」
白髪頭の男性が両手で大きなバッグを抱えて出てきた。
彼はすぐ脇に停めてある白いバンのトランクに荷物を積み、運転席に乗り込もうとした。
「お父さん、忘れ物!」
そこへ中から小柄なのに丸々とした恰幅の良い婦人が急いで出てくる。
すまん、と白髪の男性は忘れ物を受け取って、急いで車に乗り込む。
「あら、いらっしゃいませ」
二人の刑事に気付いた婦人は、愛想よくそう言ってくれたが、
「すみません、お客ではないのです。実は……」
警察の訪問はたいてい歓迎されない。
しかしこの婦人は、客だろうと刑事だろうと扱いは同じにしてくれるようだ。中に入るよう勧められ、ロビーに設置されているテーブル席に腰を下ろす。エアコンが効いていて気持ちがいい。
おまけにアイスコーヒーまで提供してくれた。
ちょっと休憩しよう、と父子は目で語り合い、いきなり核心に触れる質問はせず、世間話のように事件のことを持ち出した。