ひそひそ話
行きずりの男女が一夜限りの関係を持ってトラブルになるとしたら、どんなケースが考えられるだろう?
こいつなら詳しそうだ……と、聡介は息子の横顔を見た。
「何です?」
「いや、実は……」
そこでたった今考えたことを和泉に話すと、彼は眼を丸くして、それからなぜか聡介の両肩に手を置いた。
「聡さん……大人になりましたねぇ」
「お前、俺をバカにしてるのか?」血圧が上がる。
「僕は猛烈に感動しているんですよ。聡さんの口から、そんな発想が出てくるなんて」
どれだけカタブツだと思われていたのだろう。
和泉は真面目な表情に戻り、
「その可能性は大きいです。しかし、そうなると犯人を特定するのはかなり困難ですよ」
わかっている。既に犯人が島を出てしまっている可能性もある。
「考えられるトラブルとしては、写真か動画……行為そのものを撮影されたり、裸の写真を撮られたりして、ネットにアップしてやると脅された、などが考えられますね」
「ネットにアップ……?」
よくわからない横文字を使われるとそれだけで混乱してしまう昭和生まれの聡介は、未だにパソコンがイマイチよく理解できない。
「平たく言うとですね、お前の裸の写真をインターネットって言う、世界中誰でも見ることができるところに公開してやるって脅したんじゃないかって。一般人だって嫌でしょうけど、もしも有名で社会的な立場もある人間だったらなおさら……ね」
そういえば、被害者が持ち歩いていたはずのカメラは見つからなかった。
「なんでそんなくだらないことを考えるんだ?」
「僕に訊かないでくださいよ」
そこへ友永がやってきた。
「班長、ちょっと」
もう少し清潔にしたらもっと見栄えのする男なのに、どうしてこうだらしない格好をしているのだろう? と、聡介はいつも思う。
「駿河のやつ、眼を離さない方がいいですよ」
「何故だ?」
「実は……」