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捜査会議:1

 この島ではここ何十年も殺人事件は起きていないらしい。


 就任して初の捜査本部の立ち上げに記者会見だという因島西署長は、先ほどから緊張のためか会議室の中をウロウロ歩き回っている。

「……報告は以上です」

 捜査会議が始まる少し前、駿河は聡介の元に寄って事情を説明してくれた。


 彼は松田巡査が言うように捜査を放り出して女性と二人で逃げた訳ではない。

 そんなことはわかっていたが、本人の口からあらためて真相を聞くと安心する。


「わかった。けどな、葵」

 聡介は駿河の肩に触れて、じっと眼を見つめる。

「今後、絶対に一人では行動するな。いいな?」

 わかりました、と彼は返事をして、もう一度申し訳ありませんでした、と謝罪する。


 会議が始まり、最初に司法解剖の結果が出た、と刑事の1人が報告する。


 捜査指揮を取るのは県警捜査1課長の大石警視と、管理官の横尾警視。

 この管理官は聡介と和泉が尾道東署にいた頃、県警捜査1課強行犯係長に就いており、管内で殺人事件が発生した時に部下を連れて尾道にやってきたことがある。正直言ってあまり仕事のできる刑事ではなかった。


 向こうもやはり聡介達の印象は良くなかったようで、会議の場に高岡聡介警部率いる強行犯係がいることに気付き、ゲンナリした顔を隠そうともしなかった。

「死因は後頭部を鈍器のようなもので殴打されたことによる脳挫傷。死亡推定時刻は昨夜8月8日午後9時から翌1時の間。肺にほとんど水が溜まっていないことから死後、海に投棄されたものと考えて間違いありません」

「殺害現場は特定できたのか?」署長が訊ねる。

「朝から鑑識が頑張っていますが、何しろ雨で足跡もタイヤ痕も流れてしまっていますからね……相当難しいと思われます」

 尾道東署の本田巡査部長が答える。

「おいおい、それじゃ困るんだよ。テレビも来るんだろう? 詳しいことはよくわかりませんなんて、恥ずかしいじゃないか」 

 署長が気になるのはそこのようだ。

「鋭意捜査中です、でいいんじゃないですか?」

 和泉が口を挟んでジロリと睨まれる。しかし、彼の言う通り他に言いようがないのは確かである。


「目撃情報は?」

「被害者は元々生口島の出身で、3日前に帰省したのは島民全体が知っています。その後は毎晩、夜の10時頃一人で歩いているところを目撃されています。どこに行くのかきいても、笑って答えなかったと」

「……女のところか?」

 横尾管理官が嬉しそうに言う。

 昔から下世話な話が好きな刑事だった。

「おそらくそう考えて間違いないと思います。被害者が掌に握りしめていたチェーン状のものですが、特に中高生女子を対象にしたアクセサリー店に卸されている量産品だそうです。全国に出回っているため、購入者を特定するのは困難です」

 すると今度は顔をしかめる。

「さっきから相当難しいとか、困難を極めるとか、そんなのばかりじゃないか! お前ら全員、やる気があるのか?!」

 管理官は机を叩いて怒鳴る。

「事実なんだから仕方ないじゃないですか」

 またも和泉が余計な一言を挟んだ。

 普段なら肘で突いて黙らせるところだが、今日は許してやることにする。

「それとも管理官自ら現場に出向いて、暑かったり、雨の降る中で中腰になって、証拠品の採取でもすればいいんじゃないですか?」

 管理官は黙りこんだ。


「とにかく、被害者の足取りを引続き洗え!! それから交友関係、特に女の線を慎重に調べろ、いいな?!」

 結局、因島西署長には悪いが、結局マスコミに対して話せることはほとんどない。

 あまり実のない捜査会議は終了となり、刑事達はそれぞれ再び散って行く。


 被害者の異性関係はいたって真面目だったと、新聞社の上司は言っていたが……聡介は言おうと思ったが水をさすのはやめることにした。

 上司が知らないだけかもしれない。  

 かくいう自分だって和泉以外、部下達のプライベートについてはあまり知らない。


 駿河に悲しい過去があったことは聞いているが。


 それにここは観光地であり、他所者が出入りする場所だ。


 旅先の解放感に浸り、その場限りで簡単に関係を持ってしまう男女はいるだろう。

 被害者もやはり観光で来ていた女性の1人とそういうことになったとしても、不思議ではない。


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