島猫
遅めの昼食を終えると、賢司は少し休みたいと2階の部屋へ引っ込んでしまう。
後片付けを終え、これからどうしようかと周は美咲と相談した。観光施設はいくらかあるようだが……。
「お土産物屋さんでも見に行こうか?」
「そうだな、そうしようか」
二人は猫達を置いて外に出た。
朝の雨雲はどこへやら、夏の暑い日差しが降り注ぐ。
この島の特産物はミカンやレモンなど柑橘系果物だとガイドブックに書いてあった。お土産にジャムやスイーツでも買って帰ろう。
「この島にも、猫ちゃんがたくさんいるのね」
美咲が呟いた。
漁村には必ずと言っていいほど猫がたくさんいる。
周は以前テレビで、どこかの漁師さんが、漁を終えて帰ると必ず、売り物にならない傷のついた魚を野良猫達に分け与えているという話を見たのを思い出した。だから猫達は船の音が近付くと一斉に港へ集まるのだ。
「ケンカしなきゃいいけどな……プリンは大丈夫だろうけど、メイはなぁ……」
「和泉さんがいてくれたら良かったのにね」
美咲の口からその名前が出たので、周はドキっとした。
「な、なんで?」
「だってメイちゃん、和泉さんが大好きでしょう。和泉さんの言うことなら聞くんじゃないかしら」
なんだ、そういうことか。
不思議そうな顔の美咲をできるだけ見ないようにし、海沿いをしばらく歩いているとガラス張りでお洒落な外観の建物を見つけた。
カフェリモーネという看板があり、MTホールディングス傘下であることを示すマークが描いてあった。なんとなく、さりげなく店内の様子を見て周はギョっとした。
不本意にもまた見つけてしまった。義姉のストーカー刑事。
しかし女性と二人連れである。
一緒にいるのは確か先日の見合い相手だ。
なんだ、上手く行ったのか。
まぁ、これで奴もめでたくストーカー卒業たろう。
「周君、どうしたの?」
美咲は周の肩越しに店内を見回して、それから棒を飲んだように立ち竦んだ。
「……どうしたんだよ?」
「何か、事件でもあったのかしらね?」
「プライベートだろ」
「どうして?」
「だって、刑事は二人一組で行動するもんだろ。それにあいつ、こないだあの女の人とお見合いしてたぜ」
「お見合い……」
「ま、あんなやつどうでもいいじゃん。早く土産物を見に行こうよ」
周は義姉の手を取ってスタスタと歩き出す。
普段からあんな力仕事をしているわりにはほっそりとした華奢な手首だった。
なんとなく、だけれど。周は以前から秘かに感じていた。
美咲とあの刑事の間には過去に何かあったに違いない。
あまり考えたくなくて故意に頭の隅に追いやるようにしていたけど。
しばらく歩いていると、お洒落な外観の洋菓子店が見つかった。レモンを使った焼き菓子にレモンのジャム。
自転車でしまなみ海道を渡るサイクリスト達が、オープンテラスでコーヒーを飲みながら談笑している。
明るく綺麗な店内では店員さんが笑顔で迎えてくれる。
周が振り返ると、美咲はもういつもの表情に戻っていた。