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おっさんとは呼ばれたくない

 身元は判明したが、いつ何の目的で被害者が島に戻ってきたのかはわからない、と島民達は口を揃えて言う。


 駿河が組んだ所轄の松田巡査は、今年刑事になりたての新人らしい。ひょろっと背の高い彼は、先ほどからしきりにハンカチで汗を拭いている。


 少し休憩しようか、と駿河は声をかけた。


 道を挟んだ向かいにスーパーがある。弁当や惣菜など買ったものをその場で食べられるスペースがあるので、松田に座っているよう勧めて、彼は2本、よく冷えた麦茶のペットボトルを購入した。


 その内一本を松田に手渡すと、新人刑事はしきりに恐縮しつつ、ポケットから小銭入れを出した。


 かつて駿河が所轄の刑事課にいた頃、県警捜査1課からやってきた刑事と組んだことがある。 

 典型的な体育会系の声ばかりやけに大きい男だった。

 

 当時まだ刑事になりたてだった駿河は、その男に言われるまま雑用をこなした。

 

 先輩の言うことは絶対であり、所轄の刑事は県警から来た刑事の言いつけを聞いていればいい。

 納得がいかなかったが揉め事は面倒だ。

 

 いずれ自分が県警に配属になって、所轄の刑事と組むことがあったら、同じ振舞いは決してするまい。彼は心にそう決めていた。

 

 スーパーの客はまばらで、店内は静かなものだ。

 しかし、急に入り口の方が騒がしくなったかと思うと、3人組の若い男女が買い物カートを押しながらやってきた。

 

 派手な身なりに下品な言葉遣い。彼らはカートに片足を乗せて、ひゃっほぅと叫びながら店の中を走り回り出した。

 危ないなと思っていたらやはり、すぐに近くにいた高齢の女性にぶつかってしまう。女性はうめきながら床に倒れ込んだ。


「大丈夫ですか?!」

 駿河は駆け寄って女性を起こし、救急車を呼ぶよう松田に言った。

 当の若者達はしばらくして立ち止まって顔を見合わせていたが、そのまま黙って逃げようとした。

「待て」

「なんだよ、おっさん」リーダー格と思われる男が言った。

「警察だ。傷害の現行犯で逮捕する」

 刑事事件にするほど大げさなことではない。


 しかし、こういう奴らは放っておくとまた同じことを繰り返し、他人に迷惑をかけるだろう。 

 最寄りの駐在所に連行し、事情聴取をすることにした。


 全員、広島市内からやってきたという若者達の目的はマリンスポーツと、デザインのためだった。

「デザイン?」

「俺達、画とか彫刻とかを勉強中なんです」

 さきほど駿河をおっさん呼ばわりした若い男が悄然として答えた。

「責任者は?」

「亜由美さん……」

「亜由美さん? ここに呼んでもらおうか」

 しばらくして駐在所にやって来たのは、二人組の女性だった。


 一人が亜由美さんと呼ばれる女性だろう。そして一緒にやってきたもう一人は……。

「駿河さん?!」

 先日の見合い相手である女狐だ。どうしてこんなところに?!

「彩佳ちゃん、知り合いなの?」

「社長、彼です。先日お話しした……」

 彼女はポロシャツにジーパンという格好で、明らかにプライベートだ。

「あらそうなの? 確かにイケメンねぇ」

 年齢不詳の女性が駿河を頭から爪先まで眺めて言う。

「そんなことよりも、あなた方がどういうご関係か知りませんが監督不行届きですよ。聞けば、海にゴミを捨てたり、夜中に大声で騒いだりと随分やりたい放題だそうですね?」

 それは駐在所の巡査部長から聞いた話だ。

 つい昨日からこの島にやってきた彼らについて住民からの苦情が絶えないと言う。


「ごめんなさいね、この子達にはきつく叱っておきます」

「失礼ですが、身元を証明するものを見せていただけますか?」

 亜由美さんと呼ばれた女性はバッグから名刺を取り出し、駿河に渡した。


 MTホールディングス代表取締役社長、高島亜由美。その名前には聞き覚えがある。

 彼らは昨日からこの島にいたという。


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