聞き込み
結局、最寄りのスーパーまで歩いて30分は要した。
さっきまでの雨はどこへやら、日差しが容赦なく照りつけてくる。こんなことなら義姉に言って車で連れて行ってもらえば良かった。兄に電話して迎えに来てもらおうか。
その時、すぐ傍をオープンカーが通り過ぎた。
サングラスをした若い男女が奇声を上げながら。続いてグレーのワゴン車。見るからに改造車で、派手な排気音を鳴らしながら駆け抜けて行く。
嫌だなぁ、あんなのが近くに泊まらなきゃいいけど。
やっぱり迎えに来てもらおう。
美咲に電話をして日陰で待っていると、二人組の中年男性が家々を回っているのを見かけた。すぐに刑事だとわかる。
いったいどんな事件が起きたのだろう?
周は携帯電話でニュースをチェックしたが未発表のようだ。
そうだ、あの刑事が来ているということは、和泉もここに来ているに違いない。電話してみようか。
しかしすぐに兄の言ったことを思い出す。
でもまさか、そんなこと……。
「お待たせ」美咲が迎えに来てくれた。
車に乗ると涼しい風が心地よい。
「お腹空いたでしょ? 帰ったらすぐに食べられるわよ」
さっきまでの沈んだ顔はどうしたのか、ずいぶん明るい表情をしている。
「義姉さん、なんかあったの?」
「何かって?」
「朝よりも元気そうだからさ」
「うん……長い間転職活動をしていた友達がね、ついに新しい職場が決まったんですって! さっきメールが来たの」
へぇ、と返事をしながら周は義姉にも友人がいたんだなどと考えてしまった。
彼女にも友人がいれば、両親がいる。
もしかしたら恋人だって……いたかもしれない。
お祝いしなくちゃ、と美咲はハンドルを握る手も軽やかだ。
良かった。どんな理由にせよ、笑顔を見られるのは嬉しい。
車を降りると玄関先で知らない女性が立って、賢司と話をしていた。
誰だ?
「ただいま……」
「あ、それじゃ私はこれで失礼するわね」
女性の顔を見た途端、美咲の表情がすっ、と曇る。
「今の、誰?」
「覚えておいた方がいいよ、周。高島亜由美さんだ」
どこかで聞いたような気がするが思い出せない。
「MTホールディングスって聞いたことあるだろう?」
「ああ、あのレストランとか居酒屋のチェーン店の……でもなんで、飲食店の経営者が知り合いなんだ?」
「僕の母の友達でね。彼女もこの島の出身で、祖父とも知り合いなんだ」
賢司の母親の友達ということは、だいたい同年代と考えても、外見は30そこそこにしか見えない。
「いったい何歳なんだよ、あのオバさん」
彼女は若く見えるからね、との兄の言葉には軽い揶揄が含まれているように聞こえた。