表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/119

素人が首を突っ込む

 彼は恐らく、美咲が自分を裏切って他の男と結婚した理由を知っている。それが旅館のため、家族同然に思っている仲間達のため、自分を犠牲にしたのだと。


 もしも今、藤江賢司の機嫌を損ねて援助を打ち切られたりしたら、ましてや、いくら弟のような存在とは言え、他の男が原因でそんなことになるとしたら……。


 美咲は泣き出しそうな顔をして周を見つめてきた。


「義姉さん、こいつの言う通りだよ、あとは俺達に任せて」

「俺達……?」

「こまめに連絡するから」

「何を言っているんだ、君も家に帰れ」

「嫌だね。俺はたまたま出かけた先で、偶然刑事に会ったってことにする。前の事件の時もそうだったけど、俺、絶対役に立つぜ! 足を引っ張ることだけはしない。義姉さん、ここは女優になりきって、賢兄には適当なこと言ってごまかしてよ。二人揃って留守にすると怪しまれるけど、俺一人ならたぶん大丈夫。またケンカして飛び出したことにすればいいじゃん」

 美咲は困惑した顔で、それでも頷いた。


「……勝手にしろ」

 それから駿河は運転席に回り、

「美咲、一つだけ言っておく。最悪のケースもあり得るということだけは覚悟しておいてほしい」

 周は苦いものを飲み下したような顔の義姉を車に残し、急ぎ足でアパートへ向かう刑事の後を追いかけた。

 そうして感情の薄い横顔に向かって問いかける。


「なんであんな余計なこと言うんだよ?!」

 ドアをノックしようとする手を止め、駿河は真っ直ぐに周を見つめて言った。

「下手な慰めや気休めは何の益にもならない。現実は思うようにはならないことを、この仕事を通して嫌というほど思い知らされた。警察も僕も万能ではない」

「そうかもしれないけど……」

 二人がそんな遣り取りをしている内に、ドアが内側から開いた。


「ママー、誰か来た!!」幼い子供の声。3歳か4歳ぐらいの男の子がドアをいっぱいに開いて、見知らぬ二人の訪問者を見つめている。奥から女性の怪訝そうな声。

「……何ですか?」

 駿河は警察手帳を示して言った。

「広島県警捜査1課の駿河と申します、こちらは藤江。突然ですが、石岡孝太さんをご存知ですね?」

 長い髪を金色に染め、長い爪にはキラキラした数多の装飾。


 いったいどんな素顔なんだというほど厚い化粧をして、少したるんだ脇腹を恥ずかしげもなく晒すような短い丈のタンクトップにショートパンツ。かつての暴走族ヘッドの元彼女は、今もあまり変わっていないようだ。田中景子で間違いないだろう。


「孝太……ああ、あいつがどうかしたの?」

「最近、連絡はありましたか?」

「ないわよ。あいつがゾクをやめてからはさっぱりね」

 ゾクって何~? と、幼い子供は興味津々に母親を見上げる。あんたは奥に引っ込んでなさい、と言われ、幼子はつまらなそうに部屋の奥へ引っ込んだ。

「どこか彼との思い出の場所だとか、大切な場所だとかご存知ありませんか?」

「……さぁ?」

「よく思い出してください」

「何、あいつ何かやったの? もうとっくに足を洗ってまっとうな人間になったと思ってたけど」


「彼は……今も昔も、真面目な人間です」駿河は言った。

 田中景子はふぅん、と返事だか何だかわからない反応を返して、それからしばらく黙って空を見つめていたが、

「あれ……何島だったかな? 孝太の弟が亡くなったの、バイクの事故で。毎年欠かさずに命日にはお花を供えに行ってるみたい」

 それだ!! 素人の周でさえそう考えたのだ、刑事である駿河だって同じことを考えたに違いない。死亡事故であれば必ず警察に記録が残っているはずだ。

「友永さん、駿河です! 大至急調べて欲しいことがあります……!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ