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岡山との県境

 名前とおよその住所は聞いたが、さすがにそれだけでは該当の女性を見つけるのは不可能だ。その上、福山市内に知人はいない。

 

 そこで周は通りがかりに見つけた交番に入ってみることにした。

「田中景子っていう女の人を探しているんですが……」

 交番勤務のゴマ塩頭をした警官は、胡散臭げに周の全身をじろじろと眺めた。

「どういう関係?」

「人を探しているんです」

 するとゴマ塩警官は大きく溜め息をつく。

「昨今、個人情報の保護だとか、ストーカー規制だとかで、そういうのはおいそれと教えられないんだよね」

 それはそうだろうと納得した。それでも周は食い下がってみる。


「友人が行方不明なんです! この辺に知人がいるって聞いて、その人なら何か知ってるかもって……」

「じゃあ、捜索願いを書いて」警官は引き出しから書類を取り出した。


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃない!だいたい、ちゃんと警察が見張っていないからこんなことになったんだろ?!」苛立って思わずそう叫ぶ。

「何……!?」

「もういい、他で聞く」

 周が車に戻ると、義姉の姿はなかった。


 驚いて辺りを見回すと、彼女は見知らぬおばちゃんに礼を言って頭をさげていた。

「周君、わかったわ。このすぐ近くみたい」

 交番から5分くらいのところに車を止めると、二階建ての木造アパートがある。路肩に車を止め、二人は二階の真ん中の部屋に田中と表札代わりのメモ帳が張り付けてあるのを確認した。

 

 チャイムらしきものはない。ドアをノックしたが反応はない。

「……どうする?」

 しばらく待ってみよう、と二人で張り込みの刑事のように車の中でアパートの様子を見守った。

 それから周はもう一度和泉の携帯電話にかけてみた。


 しばらくすると、

『周君か?』と、父親の方が出た。

「高岡さん……? 和泉さんは?」

『今、病院でな、電話に出られないんだよ』

「病院?! 怪我したの?!」

『あぁ、命に別状はないが……』

「どこの病院ですか?!」

 すると電話の向こうで微かな苦笑が聞こえたような気がした。

『東京都内だよ。入院するほどじゃないし、後で本人にかけ直させるから』

 孝太のことがなければ、今すぐにでも東京まで飛んで行きたい気分だった。

「あの、高岡さん。実はさっき孝太さんから連絡があって……なんだか遺書みたいな感じで……それで、心当たりを探しているんです」

『なんだって?連絡があったのはいつだ?!』

「1時間、ううん、2時間ぐらい前です」

『今、君はどこにいる?』

「福山の……」その時、いきなり携帯電話を奪われた。


 全開にした窓から侵入した腕があった。

「高岡警部、駿河です。ええ、私も連絡をもらって、以前、警部のお嬢さんから聞いた人物を探して来てみました。本人がそこにいなくても、立ち寄りそうな場所を聞き出せるかもしれません。はい、また連絡します」

 周は唖然として、助手席の傍にいつの間にか立っていた駿河を見上げた。

「なんでここに……?」

「それが警察というものだ。あとは我々に任せて、君たちは家に帰れ」

 相変わらずの、憎たらしいほどの無表情に抑揚のない声。


「冗談じゃねぇよ! 警察に任せられないから自分達でここまで来たんだ。つーか、こないだもう二度と会うこともないだろう、みたいなこと言ってただろ?」

 実を言うと再会できて嬉しく思ってしまった自分がいる。


 駿河は周に携帯電話を返しつつ、

「事情も状況も変わることがある。しかし……気持ちはわからなくないが、こんなことをしていて大丈夫なのか?」と、言った。

「宿題ならほとんど終わってるよ」

「そうじゃない、君のお兄さんだ」

「え? なんで……」

「いろいろ聞いている。君のお兄さんは、君や彼女が警察と関わり合いになるのをひどく嫌がっているようだ」

 おそらく和泉から聞いたのだろう。確かにそうだ。


「美咲、君の気持ちはわかるが、大人しく帰ってくれ」

 駿河は運転席にいるかつてのフィアンセに向かって言った。しかし美咲は激しく首を横に振り、叫んだ。

「嫌! だって孝ちゃんなのよ?! 私の大事な家族なの!!」

「……君の家族は彼だけじゃない。そうだろう?」

 美咲ははっと口を噤んだ。

「……大義のために私情を捨てたのなら、最後まで貫き通せ。そうでなければ僕も納得できない」

 何を言おうとしているのか、周にはなんとなく理解ができた。


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