父、上京する。
基本的に聡介はメールが好きではないが、和泉からの報告はほぼメールである。
確かに電話だと聞き間違いが発生する恐れがあるので、文字の方が正確だし、位置情報を知らせる地図も添付できる。
しかし彼は添付ファイルの開き方を知らない。
朝一の飛行機で東京に到着する。
聡介にとって2回目の東京だった。一度目は親戚の葬儀。その時は親族が空港まで迎えに来てくれたので迷うことはなかったが、羽田空港から高島亜由美達が宿泊しているという東京駅前のホテルまでどう行けばいいのか、そもそも空港の出口というか、どうやって電車に乗り継げばいいのかすらわからない。
空港の職員と思われる人達を捕まえて道を尋ね、どうにかタクシー乗り場へ着いた。
急いだ方がいい。そう考えて聡介は電車ではなくタクシーを選んだ。
目的のホテルに到着する。
フロント係に警察手帳を見せ、高島亜由美が701号室に宿泊していると確認した。聡介は急いで7階に上った。
オートロックのため内側から鍵がかかっている。掃除の従業員が通りかかったので、ドアを開けてもらい、中に飛び込む。和泉が床の倒れているのが見えた。
「彰彦!!」
抱き起こすと、彼は顔中痣や擦り傷だらけだった。
服に隠れている部分も相当ひどいことになっているに違いない。
「しっかりしろ、おい!!彰彦!!」
うめき声と共に和泉がうっすらと目を開ける。
「……聡さん……?」
「気がついたか! 今、救急車を……」
息子はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、たいした怪我じゃありません。だいぶ手加減されたようです。全身が痛みますがね。さすがに喧嘩慣れしてるというか……」
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃない! とにかく病院だ」
聡介は和泉の肩を担いで一階に降りた。
「高島亜由美も、その秘書も、石岡孝太も昨夜の内に東京を離れたようです。恐らくある程度タクシーで移動して、あとは始発の新幹線か飛行機で」
ホテルから警察病院のある飯田橋にタクシーで移動する途中、和泉は言った。
「……彼は、石岡孝太はいったい何を考えているんだ?」
「わかりません。ただ、なんとなく僕の推測ですが……彼はとにかく美咲さんと宮島を守りたいのだと思います」
「どういう意味だ?」
「つまり、再開発計画を阻止し、愛する女性の涙を見たくないと、そういうことです」
ますますわからない。
しかし、この息子が訳のわからないことを言いだす時は大抵、事件の核心に触れつつある時だ。
聡介は黙って彼の頭が回転するのを黙って見守ることにした。




