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だいたい水曜日の8時

 和泉がまだ学生だった頃に流行ったテレビドラマと言えば、熱血教師がヤンキーを更生させる話だとか、家庭に問題があって暴走族の仲間入りをする不良少女が主人公だったりという、そんな内容がほとんどだった。


 時折、暴走族同士の抗争が描かれ、生々しい暴力シーンがテレビ画面を通じて流れ、そういう場面が出てくると和泉の母親はチャンネルを変えてしまったものだ。

 

 それでも母親の目を盗んでこっそりチャンネルを元に戻して、後でバレて叱られるなんていうことがたまにあったが、長い学ランを着た若者達が鉄パイプやチェーンを振り回して暴れ回り、血が飛び散るような場面は、確かに気持ちのいいものではなかった。

 

 眼の前の男はかつて、そんな古いテレビドラマみたいなことを地でやっていたのか。それも武器に頼らず、自分の腕一本で……。

 

 油断した。判断ミスだ。

 

 ホテルに戻ることを許すのではなかった。

 いつの間に、どうやって連絡をとったのか、ホテルのエレベーターで高島亜由美の宿泊している階に到着し、ドアが開いた途端に和泉は、いきなり石岡孝太に襲われた。


 人を殺したことこそないけれど、何人も病院送りにしたという話は誇張でもなんでもなく、元暴走族のヘッドだったという男は、起き上がれなくなるほど徹底的に和泉を叩きのめしてくれた。

 

 でも、大丈夫。まだ意識は辛うじて残っている。


「この刑事、どうするつもり?」高島亜由美の声。「東京湾にでも沈めるの?」

 冗談じゃない。


「今すぐ広島へ帰れ。警察に捕まりたくないのならな」

「こんな時間に? もう、飛行機も新幹線もないわ」

「タクシーでも使えばいいだろう」

「あなたはどうするの?」

「俺にはまだやらなければならないことがある」

「……ねぇ、まだ生きてるみたいだけど。大丈夫なの?」

「あとは俺に任せろ。悪いようにはしない」

「本当かしら?」

「……疑うならあんたもこいつと同じ目に遭わせる。女だからって容赦はしない」

「わかったわよ……それで、彩佳ちゃんはどうするつもりなの?」

「それも俺が決めることだ。いいから、とっとと失せろ!」

 少しして、カツカツとヒールの鳴る音が遠ざかって行った。


「わ、私をどうするつもりなの?!」野村彩佳の声。

「さぁな」

「私は何も関係ないじゃない! 桑原っていう新聞記者を殺したのは小倉雪奈だし、私はただ、社長に命令されて遺体を運んだだけだわ。恨まれる筋合いなんてないでしょう?!」

「……お前があの時、救急車を呼ぶか医者を呼ぶかしていれば、圭史郎は助かったかもしれない」

「そんなことしたら、会社も私達も破滅だわ!!」

「それはお前達の勝手な価値観だ。俺にとっては圭史郎の命の方が何千倍も、何万倍も貴重なんだ。さぁ、行くぞ!」


 やがてドアの開く音と、ロックのかかる音。

 ふっと気が抜けたのと同時に、和泉は意識が薄らいで行くのを感じた。


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