プロローグ かつて魔法少女が存在していたので、まとめてみることにする
地球という星の日本にある何の変哲もない街。小波市。
この街の人間であれば、誰でも知っている名前がある。
それは白銀の魔法少女ルーナ。
流れるような銀髪に、透き通るような藍色の瞳。
白磁の柔肌を、まるでドレスのような青いコスチュームに包んだ――正義の味方。
彼女が活動を開始したのはちょうど一年と半年ほど前のこと。
それは、異世界からの侵略者が現れたのと同じ日だった。。
『旅団』。それだけ名乗ると、侵略者は活動を開始した。
その目的は地球人の感情エネルギー。
つまり略奪のためにやってきたというわけだ。
手を変え品を変え、感情エネルギーをかき集める侵略者たち。
策謀を打ち破らんと、駆けつける魔法少女。
そんな彼女は街中の老若男女から愛され、尊敬されていた。
それから一年間。
ルーナと『旅団』の激闘の日々が続いた。
大体週一ペースで繰り広げられたそれは、呆気なく終わりを迎える。
それは十二月二十四日。
奇しくも、地球において聖夜と呼ばれる日だった。
様々なアクシデントに見舞われたものの、彼女は『旅団』を打ち破った。
それから三か月。
彼女は平穏な日常に舞い戻り、一人の少女として暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし――。
◆
なんてそうは問屋が卸さない。
ルーナは彼女じゃなかった。
彼だった。
その正体は飛高 陽太。
小波市立 小波高等学校に通う、なんの変哲もない少年である。
強いて特徴をあげるなら、男子高校生にあるまじき中性的な面立ち。
あとは底抜けに優しいくらいか。
腕っぷしも弱く、俺にはどうして彼が白銀の魔法少女に選ばれたのか理解できなかったほどだ。
陽太は、たまたま『旅団』が襲来してきた日、その場に居合わせただけだった。
崩れ落ちるデパートの中、持ち前の優しさから他人を助けて彼は死にかけた。
見ず知らずの他人のため、命を投げ出したのである。
そんな人柄を見初められ、『旅団』を追っていた聖獣に魔法の力を託されてしまったのだから、悪いことは連鎖するものだ。
一命を取り留めた彼は彼女になった。
普段は陽太。
戦いの間だけルーナ。
奇妙な二重生活が始まった。
それは誰にも――家族にすら――知られることのない、孤独な戦いだった。
……何故俺がそんなことを知っているかって?
本人から聞いたんだから間違いない。
俺の名前は黒崎 晴翔。
陽太と出会って一年にも満たないのだが、彼が――そして彼女が言うには、親友というものらしい。
◆
戦いの結末なのだが、陽太という少年はこの世界から消滅した。
一言でいえば、『旅団』の悪あがきを受けた結果である。
戦って――戦い抜いた少年に与えられる運命は過酷だった。
なんとも悲惨な話だが、不運から始まった物語は、不運で幕を閉じたのである。
だから、俺はそんな物語を強引に書き換えてやることにした。
勿論、すでに起きてしまった事象は取り返せない。それでも、陽太を取り戻すことは出来ると信じて。
これは、俺の一種の償いなのかもしれない。