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キラキラです

薄青の絹のドレスを朝から一分も隙もなく着込んだ、華奢な美女。結い上げた髪にも、胸にも袖にもキラキラ輝く宝石をあしらって、まばゆい。いや、目が痛い。

大公殿下のご側室フーライン様だ。


お相伴のメンバーが一斉に立ち上がる。


「フーライン様、またいらっしゃったんですか」


女官長が立ち上がりながら、明らかに「迷惑だ」という調子で言った。しかし、彼女は気にする風もなく足早に進んで来て、私の席とファティマ妃の間に割り込んで来る。彼女のドレスの飾りボタンが引っ掛からないように、一歩下がった。


「大公妃殿下、お早うございます。私もお相伴させて!」

フーライン様は妃殿下にお願いしながら、さっさと手袋をはずして給仕のメイドに渡すと、ちらっと私の方に鋭い目を向ける。低い声で、

「ねぇちょっとあなたどいて!」

私は慌ててさらにもう数歩下がる。ファティマ妃に向ける顔と、落差が大き過ぎてむしろ感心してしまう。

「フーライン、お相伴をしている者は私の客人です。無礼をしないように」

叱ったもののファティマ妃は彼女にお相伴を許す。

「エルマ、ごめんなさい。フーラインに席を譲ってちょうだい」

「はい、大公妃殿下」

そんな私を尻目にささっと席に座ったフーライン様が、キラキラの頭を振って大袈裟にため息をつく。

「はぁ~、また豆ばっかり。朝からこれじゃ気が滅入りませんか、ファティマ様」

「勝手に来て文句を言わないで」

さっきまでの愚痴を忘れたように大人の顔になって言うファティマ妃に、ちょっと微笑ましく思いながらも、そうだそうだと内心でうなずく。女官長の眉間にもちょっとしわがよっている。フーライン様だけが上機嫌にファティマ妃に色々話しかけて楽しそう。それにしてもフーライン様、こんなに美人なのに何でこんなにごてごてキラキラ飾るんだろう。せっかくの美貌が相殺されてしまうのに。ああ、もったいない。

指先まで華奢で、強い力で握られたりでもしたら壊れそうな感じなのに、細い手首にも指にも宝石がきらめく。

これ全部、大公殿下の贈り物なんだろうか。


ふいにフーライン様がちらりと私の方を見て、

「ファティマ様、最近、この人よくお相伴に読んでますよね。ここで会うの、これで三回目。なに、新しいお気に入り?」

「あら、そうかしら。そんなにエルマを呼んでる?」

ファティマ妃に尋ねられて女官長が「はい」と答えた。

「ええ、ここのところエルマが多いですね。新しく入りましたから。ですが、エルマはこちらに来て2カ月も経っておりませんから、フーライン様がこちらにお出でになり過ぎなのです」

「そうよね。フーラインがここへ来てばかりなのよ」

ファティマ妃がうなずく。お相伴のみんなも同意を示して「え〜」とか心外そうに言っているキラキラなご側室を見た。


フーライン様はちゃんと自分の館を賜ったご側室。

でも、何かにつけてファティマ妃のところへ遊びに来る。

こんなに朝早くから参上のためのドレスを着込み、馬車を走らせてやって来るのだから、すごい。


ここへ来るまで私は、大公宮というのは大きなお城なのだと思っていた。

でも、違う。大公宮は街だ。

大公殿下と大公妃殿下の住むこの建物、本殿だけでも、とほうもなく大きい。でも大公宮と呼ばれる一帯はもっと広大な敷地で、その中に大小の館がいくつもいくつもあるそうだ。本殿から出たことがないから、どのくらい広いのか実際のところ私は知らないけれど、さらにいくつもの庭園があり、果樹園、薬草園などもあるとリンジーに聞いた。それに、珍しい動物を飼っている特別な館もあるらしい。母の話に出てきた特別な染めものの工房というのも、どこかにあるのだろう。


はじめて大公宮にやって来たとき、最初に目に飛び込んできた石造りの厳めしい建物に「まぁ、さすが、大公殿下のお城は立派ですね!」と感激して言ったら、「あれは兵舎と訓練場ですね」と返されて顔から火が出そうだった。

フーライン様の館がどこにあるのかは知らないけど、夜明け前に着替えをはじめて、髪を結って宝石をちりばめて馬車に乗り込んで・・・・・・と考えると、すごいなぁと感心してしまう。というか、使用人たちは大変だよね。

フーライン様、お相伴の席で会うのが三回目って言ってますけど、廊下とかでお会いしたのも入れたら、もう10回目くらいだから!


あまりにもずけずけとファティマ妃の前に来るものだから、大公妃の気の置けない友人なのだと思っていたら、側室の一人と聞いて口をあんぐりしてしまった。


「今日は、ちゃんとお願いがあってきたんです」

フーライン様は得意そうに返している。いつもは用がないのに来てるのねと、たぶんみんな思ったに違いない。

「そうだと思ったわ。で、なにかしら?」

ファティマ妃はフフっと微笑んで、お願いを許す。フーライン様はきれいに頭を下げた。


「また、メイドを貸してください」


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