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「ねぇ」
「…はい」
「稔さ、何言ってるかわかる?」
「……はい」
自宅のリビングで正座状態の僕の目の前には、腕を組み仁王立ちしている女の人。
非常に背が高く、身長は179cmだとか。
黒髪ロングで、モデルのような体型で、その美しき顔を怒りに歪めている女の人。実は、身長152cmの僕の姉なのだ。
名前は深津 美由。ここらではトップで、全国的にも有名な大学に通っている。
そんな美由に正座させられているぼくは深津 稔。先ほど言った通り、身長152cmのチビで、地域レベルで見てもまー普通のレベルの高校に通っている2年生。突出して出来ることもなく、逆に突出して出来ないこともない、ザ・平凡とも言うべき存在である。
そんな僕が美由に怒られている理由。
それは、僕が高校を辞めると言い出したからだ。
「高校辞めるって…高校辞めてどうすんの?何か夢でもあんの?」
「いやぁ、そう言うわけじゃ…」
「家そんなにお金に困ってもないじゃん?」
「うん」
「じゃあなんで?いじめ?」
「いやぁ、そう言うわけじゃ…」
「じゃあなんでなの?言ってみ?」
「正直…」
「うん?」
「高校面倒くさいんだよね」
「は?」
僕が理由を言った瞬間、美由の顔が固まった。
「稔、あんた何言ってんの?」
「いやだからさ、勉強なら姉ちゃんに教えてもらえば家で出来るじゃん?だったらわざわざ高校行く意味あんのかなーって。学校遠いし」
「友達できないよ?」
「もともと僕は必要としてないから問題ないんだよね」
「いやいや、先生のほうが教えるのうまいよ?」
「姉ちゃん先生になるんでしょ?」
「い、いやまぁそうだけど…」
「じゃあ問題ないじゃんか」
「……千円」
「へ?」
「月千円払うなら、教えてあげてもいい」
「よし、商談成立。じゃあよろしくね、姉ちゃん」 「ん、りょーかい」
そして僕と美由は握手を交わし、とりあえず寝た。
明日から本格始動する。僕はこれから始まる家での勉強生活を、個人的に「家で高校生活。ハウスクール」と思うことにした。