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この魔王は始まらない  作者: 夕月。猫。
2/3

2話 金策です

あれ? 何故投稿してるんだ? 手が勝手に・・・。

小魔王が、魔の領域から脱兎のごとく逃走した数日後の事。

彼は、人間の領域の飲み屋の一軒で、朝っぱらから飲んだ暮れていた。


「おい! 酒だ! 酒を持ってこい!」

「お客さん、流石に飲みすぎだ。もうストレートで十発以上やってるだろ」

「えええい! 五月蝿い! 人間にとって客は神様だろ! 酒だ、酒を寄越せ!!」

「・・・ちゃんと支払いしろよ」


酒屋のマスターは嫌な顔をしながらも、店の奥に消えていった。

小魔王は鼻息を荒くしながら、ひそひそと噂する他の客を睨み付けた。


「何もかも気に入らん!!」


ガンっとカウンターを思いきり叩くとマスターが困った顔をしながら出てきた。

ビールジョッキに、ウィスキーをストレートで注がせるという無茶振りにマスターは、苛立ちを隠せない。


「何があったのかは、知らないが。店の備品は壊さないでくれ」

「お主、矮小な人間の分際で我に口を聞くか!! 実に愚かだ。我が消し去ってくれる!!」

「矮小な人間って・・・。あんたも人間だろ?」


マスターは酔っ払いの世迷い言として小魔王の言葉を真に受けもしない。

それも当然だ。

小魔王は、人間の領域に入るに当たって、自身の類い稀な魔法技能で人間に変装していた。

雄々しい二対の翼と角は透明になり、赤色の瞳は深い緑色に変色している。もちろん、頭髪も黒から金色に変化していた。

差し詰め、事業に失敗した貴族のお坊っちゃんという風情だ。


小魔王は、それを今更になって思い出して、不機嫌そうにグビグビと酒を飲み干した。

ゲプッと息を漏らすと、無言でジョッキを振った。

マスターはそれを見て、顔を蒼白にする。


「すまんが、もう酒は出せないぞ」

「お主、人間の分際で・・・」

「分かった、分かった。あんたはスゴいお人だ。尊敬してる。オレが話を聞いてやるから、酒を飲むのは勘弁してくれ」


小魔王は、目を細くしてマスターを眺めた。


「それは(まこと)か」

「洗いざらい、吐いちまいな。少しは楽になるぞ」

「・・・おお! ここに神がいる。我は人間界で始めて優しさに触れたぞ!!」

「おいおい、一介の酒屋の親父を誉めても、酒は出さないぞ」

「世辞ではない。お主、我が武官になれ!! 今なら筆頭になれるぞ!!」


マスターは苦笑した。


「オレに武官なんて務まらん。ほれ、話してみな」


小魔王は、それを聞くとグズり出した。

涙腺が崩壊し、鼻からは透明な液体が溢れている。

小魔王は泣き上戸だった。


「うぅ。我は右も左も分からない中で、ここにやって来たのだ」

「ふーむ。お客さんは旅人だったのか?」

「断じて違う! 我は、誇り高き魔・・・、領主だった。しかし王の反感に会い、島流しにされてしまったのだ」

「それは・・・、運がなかったな」


マスターは、【そもそも貴族の気持ちなんて分からん】と思ったが、我慢して相槌を打った。

歴戦のマスターは、やけ酒をしている客の扱いも心得ていたのだ。


「着の身着のまま流されて、お金が無かった」

「それは災難だったな」

「恥を忍んで、屋台に恵みを頼んだら『金がないなら客じゃねぇ、帰れ!』と振り払われ」

「まぁ、当然だな」

「教会に行ったら、『信者以外には、神の施しはありません』と炊き出しを断られたのだ」

「それも普通だろ」


マスターは何がいけないのか、全く分からない。


「人間社会は厳しい。厳しすぎるぞ!!」

「・・・そうだな」


面倒臭くなったマスターは、今の小魔王が金銭を持ち合わせているのか不安になった。


「お客さん、金は大丈夫か?」

「金ならある!! あるのだぁぁ。ぐすん」


小魔王が、袋を引っくり返すと、金色の山が出来た。

マスターの目が驚きで見開かれる。


「こんな大金・・・、どうしたんだよ」

「我が家宝、魔け・・・、聖剣イシュタークを質に入れたのだ」

「あらら、そりゃ大切なモノだったじゃないのか」

「大切なんて軽い言葉では表せない!! あれは魔・・・、我が王国に三振りしかない国宝なのだ!! それを我は、我は」

「売っちまった・・・。という訳か」


マスターは、【これはダメだ】と溜息を吐いた。

小魔王が、カウンターに泣き崩れる。

魔剣イシュタークは、魔王に列なる者の象徴だった。


「もう為っちまったモノは仕方ない。ほれ、前を見な。きっと明日がある」


マスターはカウンターから小魔王の背中を擦った。

小魔王は、暫くそのままだったが、マスターの慰めが効いたのか立ち直った。


「うむ。我、頑張ってみようと思う!!」

「そうか、頑張れよ。心の奥底で応援してやる」


マスターは、然り気無く小魔王のジョッキを回収して洗い始めた。


「そこで、お主に相談事がある!!」

「ん?」


マスターは、【うわっ。めんどう】と思ったものの、最後まで付き合うことに決めた。


「国取りがしたい!」

「え?」

「国取りがしたい!!」


マスターは、頭を抱えた。


「あんたは、一介の酒屋の親父に国取りを聞くのか?」

「いや、お主は酒屋の親父の枠に収まらないのだ。そう、俗世に嫌気が差した賢者・・・」

「勝手な設定を付け加えるな。オレは生まれて此の方、酒屋の親父だ」

「それでも我にとっては、賢者だ。お主の貴重な意見を教えて欲しい!」


小魔王は、名も無き酒屋のマスターに(こうべ)を垂れた。

見る人が見れば、笑いが止まらない光景だったことだろうが、幸いにして気が付く者は居なかった。


「あぁ~。えっと取り敢えず、頭を上げろ。オレは尊敬されるような人物じゃない」

「教えてくれるか?」

「分かった、分かった。こんなオレの意見でも良いなら、幾らでも教えてやる」


マスターは折れた。


「早速お願いしたい」


小魔王はキラキラした瞳をマスターに向けた。

一瞬、言葉に詰まりながらも、マスターは咳払いをして、口を開いた。


「まず必要なのは、金だ」


マスターは金の小山から、金貨を一枚取って、小魔王に示した。


「酒を飲むにも、軍を組織するにも、先立つモノが無ければ全て机上の空論だ」

「なるほど」

「そして、次に必要なのは拠点」

「拠点?」

「やっぱり安定した場所がないと、商売は辛い。固定客が掴めないからな。国取りで言えば、兵たちが拠り所にする場所が必要だ」

「ふむ」

「そして一番重要なのは、差別化だ。何もかも同じでは客の心を掴めない。国で言えば・・・、住む人にとってのメリットが必要だ」

「ほぉ。流石、我の見込んだ人物だ。的確なのだ」


マスターはそれを聞いて照れた。


「今のは経営の初歩だ。国取りに応用出来るかは知らん」

「いや、貴重な意見を賜った。感謝する!」


小魔王は、鬱々とした空気を消し去ると意気揚々と酒場を出ていった。


「変な奴だ」


後にこの酒場のマスターが大国の宰相になるとは、誰も予想だにしなかった。


★☆★


「金はある・・・。だが使い切れば無くなる。稼ぐ手段が欲しいのだ!」


小魔王は、町の店に冷やかして回った。

彼は、簡単に儲けられる手段を探していたのだ。


(大事なのは差別化。真似できない事をしなければ)


小魔王は、とある呉服店に入った時に興味を引かれた。

一枚の服を手に取って、店員を呼び寄せる。


「おい、店員。この服には魔法の加護が掛かっているのか?」

「はい、お客様。これは当店の看板商品。風の加護が掛かったローブでございます。足元の覚束無い老人も、此れを着れば、山登りも可能です」

「ふむ。値段はどれくらいだ?」

「付与魔法は貴族の専売特許ですからね。金貨13枚と御高くなっております」

「この杜撰な加護で、金貨13枚だと・・・」


因みに魔剣イシュタークは金貨53枚で買い叩かれてしまった。

概算でこの服四枚と国宝が釣り合う計算になる。

今更、騙されたことに気が付いた小魔王は、歯軋りをした。


「あの質屋め。次見たら、我が業火にて燃やし尽くしてくれるわ」

「お、お客様?」

「お主、我が代わりに加護を掛けると言ったら、受けてくれるか?」

「いえ、店員では判断しかねますので、責任者に取り次ぎます」


暫くすると、店の奥から、小太りの中年が出てきた。


「シルビア、こういう迷惑な客は追い返せと言っただろ」

「すいません、店長。でもこの人本物っぽいんです」

「私は忙しいというのに、次から次へと」


ブチクサ文句を垂れ流し、小魔王の前に立った。


「見ての通り、私は忙しい。手短にお願いしたい」

「すまない。だが、この加護は杜撰なのだ」


小魔王は、服の一枚を取って店主に見せた。

中年店長の眉が跳ね上がる。

彼のイライラは最高潮に達していた。


「貴様、私たちの商品に文句を付けるか。いい加減にしろ」

「我なら、これ以上の品質で、金貨3枚で納品しよう」

「出来もしないことを、並べ立てるな!!」


小魔王は、いい加減口で説明するのが面倒になったので、加護のない服の一枚を手に取った。

生地を、手で撫でると服の表面に様々な色の魔方陣が形成されて、吸い込まれていった。

店主の目が、大きく見開かれる。


「む、無詠唱だと・・・。そんなの宮廷魔法使いぐらいにしか・・・」

「確かめてくれ」


そのTシャツを受けとると、店主は鑑定を始めた。

商人特有のスキルで、余すところなくその性能を確認してしまった店主は、気絶しかけた。

何の変哲もない Tシャツには、聖人の服よりも高位な加護が掛かっていた。

国宝よりも同等、もしくは優秀な性能に、店主はコロリと態度を変えた。


「これは失礼しました。私は、マリク・エッフェルトでございます。しがない呉服店の店主ですが、末長くお願いします。宜しければ、お名前をお聞かせください」

「ふむ。我が名は、イムスル。流れの魔法使いだ。此方こそ宜しく頼む」


両者は全く異なる感情で握手を交わした。


(ふー。これで金欠の心配はなくなった。国取りの第一歩か)

(ふはは、私は此処から躍進する。まずは支店長から、取締役。引いては社長だ!! あの監査課の糞犬に吠え面かかしてやる!!)


此処から両者の物語は始まった。


大きな歪みを孕んだままに。


































文体の練習です。面白さは度外視されてます。

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