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武器完成

いつもより短いですが、許してください。調子が出なくって。

 リリーが工房に篭ってから5日が過ぎた。

 俺は剣が完成するまで、修行をしておく。強力な武器も、使い手が未熟では意味がない。

 その間メイドたちが食事などを届けたけど、食べている様子がないらしい。

 水分は補給しているらしいが、食事も睡眠も休憩すら取らずに鍛冶に集中している。


 倒れたりしないかと心配して声を掛けたけど、剣を打つのに夢中で聞こえてない。

 メイドたちに訊いてみたところ、ドワーフ族にはよくあることらしい。

 ハーフとはいえ、リリーもドワーフの血を引いているのだから人間よりも体力があるのかもしれない。金属を打つ音が10分以上途切れることはなかった。


 熱気が凄く、屋敷で働いている使用人たちが2日目には倒れるほどだった。

 危険なので、使用人たちを宿に泊まらせたほうがいいと判断し、俺だけ残ってリリーを待ち続けた。

 そして現在の5日目の夕刻、金属音が1時間以上止まった時、焦れてきた俺の耳にリリーの疲れた声が聞こえた。


「……はう~。終わったよ~、トール君。お腹すいた~。眠い~」


 革張りの鞘に納まった剣を持ったリリーが、煤で汚れた姿を現した。

 疲れ果てて目の下にクマができ、サラサラだった髪の毛はツヤを失っている。

 服は真っ黒で、頬が少し痩けている。それでも完成した喜びか、嬉しそうに微笑んでいた。

 俺は可愛く着飾った女の子が大好きだが、本当に美しい人間は汚れていても綺麗だと思った。


「…………お疲れ、リリー」


 その姿にしばし見とれていた俺は、その一言を口にするのが精一杯だ。


「いいんだよ。トール君は世界を守るために戦ってるんだもん。トール君こそお疲れさまだよ」


 そう言って笑ってくれる。

 …………違うんだ、リリー。俺が戦っているのは自分の自由のためで世界のためじゃない。

 俺は親に抑圧されて生きていたから、もう誰にも好きにされたくないだけなんだ。

 そう思うのと同時に、仲間やこの娘たちのために戦って死ぬのも悪くないと思っている自分が居た。

 仲間の平和や命が助かるなら、例え死んだとしても悔いはないのかもしれない。


 俺が望むのは何なのか? 分かっていたはずなのに自信がなくなる。

 仲間やこの娘たちがピンチの時には、飛び出してしまいそうな気がする。

 俺は何を犠牲にしても好きに生きると、この世界に来た時は思っていたのに。

 この気持ちは俺に大切なものができた証か? それとも弱くなったのか?


「……どうしたの? 待ちくたびれたかな?」


「いや違う。考えごとをしていただけだ」


「ならいいんだ。……剣を握ってみて。ボクにできる最高の剣になったから」


 渡された剣を握る。

 俺の手に合わせて作られた(つか)は、ピッタリとフィットして握りやすい。

 両手で握れるように少し長く作ってあるから、力を込めた一撃を放てそうだ。

 (つば)には2匹の黄金の龍が絡み付いた装飾があしらわれている。

 刃渡りはロングソード並みで、剣幅は3センチメートルから4センチメートルくらいだ。

 薄目に作っている両刃で斬り易そうな剣だ。耐久力は無さそうだが神鉄なので硬いだろう。


「4日も掛けて鍛造したんだ。薄い刃だけど8キログラムくらいの神鉄を凝縮してるから凄く硬いよ。普通の剣より重いけど、トール君だったら使えるからね~」


 確かに。前に使ってた剣より重いけど、レベルが高いから重いとは思わないな。


「あっ! 刃には触らないでね。素人のボクが使っても神鉄にかすり傷が付くくらいだから」


 刃を触ろうとした俺を慌てて止めた。


「この剣なら神鉄ゴーレムだろうとパーヴェルだろうと斬り裂けそうだ。ありがとう。リリーの作ってくれたこの剣に懸けて、必ず勝つことを約束する」


 リリーの気持ちの込められたこの剣で、絶対に魔王軍をぶっ潰す。


「勝つことより生きて帰ってきて欲しいな」


 リリーの言葉にドキッとした。

 俺が死んでもいいと考えていることを見透かされた訳じゃないだろうけど。


「そっちも約束するから心配するな」


 俺だってラクに勝てるならありがたい。


「うん! 信じてるから」


 それだけ言って、気を失って倒れたリリーを抱き留めた。

 女の子との約束はなるべく守るけど、守れなかったら悪いな。

 俺はリリーの煤で汚れた身体を拭いて、ベッドまで運んだ。


 リリーを寝かせたあと戻ったら、試し切りをしてみた。

 あれだけ苦労して斬った神鉄ゴーレムの破片は、闘気も魔力も使わず、普通の斬撃で斬れた。

 この剣があれば全力を出さないでガーディアンである神鉄ゴーレムを倒せる。

 何日も寝込んで、ユリアたちに心配を掛けずに済みそうだ。

 余力があれば、連続で襲撃されても大丈夫になるかもしれない。

 俺の技の威力が上がっても折れないだろう。


 剣の威力を確認したあと、使用人たちを呼び戻してリリーの世話を頼んだ。

 その間に俺はユリアたちの所に帰る。するとビリー以外はレベル上げに出ているらしく居なかった。


「前回の戦いでトール君が倒れてしまったからね。皆気にしているのさ。私も調べものが片付いたので修行に出掛ける予定だ。君はレアイラ女王やコゼット王女に顔を見せておくといい。心配していたからね」


 そう言って、ビリーは出掛けて行った。

 置いていった資料を見ると、要点が纏められていて見易く、次に行く国の封印の遺跡は炎の精霊の遺跡らしい。

 俺が屋敷に戻っている間にレジェ王国から届いたらしく、ビリーが纏めてくれたみたいだ。

 水の次は火か~。暑いのは大嫌いなんだけどな。


 資料によると火山に行かないとならないらしいので、準備はしっかりして行こう。

 レジェ王国は、この国、コーニング王国の東に位置し、リーゼの国、レクス王国の北にある。

 この国から馬車で6日くらいの距離だ。温度を下げる魔導具でも買っとこうかな。

 火山の暑さを思うと今から憂鬱になるな。

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