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神鉄ゴーレム

 遺跡探索は順調に進んだ。魔物もいないうえに魔王軍の姿もないからだ。

 やはりパーヴェルはレベルが下がった所為で魔力の最大値が下がり、封印解除の儀式が出来ないのだろう。

 現段階でパーヴェルを倒すのは無理だろうから、今の内に封印の遺跡を出来るだけ回りたい。

 封印さえ強化すれば、パーヴェルと言えど封印は破れない。


 全ての部屋を探索すると、最初の遺跡で見付けた宝玉をこの遺跡でも見付けた。

 ユリアによると、この蒼い光を放つ宝玉は水の精霊王の力を感じるらしいので、他の遺跡にもあるかもしれない。


「この宝玉って何かなぁ?」

「たぶんですけど……精霊王との契約に使われた宝玉じゃないですか?」


 カリンの疑問にユリアが答える。そのユリア自身も首を傾げて疑問顔だ。


「それを使えばユリアちゃんが精霊王と契約できるってことか!?」


 ケビンが興奮したように声を上げた。


「う~、ユリアの力じゃまだ無理ですよぉー。精霊魔法を極めたかたじゃないと……でも封印強化に使えばいいと思います!」

「以前はパーヴェルに奪われちゃったもんね。今回は奪われずにすみそうだけど」


 リーゼの顔も明るい。さすがの騎士姫もパーヴェルと戦うのは嫌らしい。


「姫様、まだ終わった訳ではありませんよ。立場もあるのですから油断はいけません」

「リーゼ様だけじゃないわよ。みんなも気を付けなさいね。あまり心配掛けないでね?」


 大人達は若者に諭すように穏やかな口調だ。これなら大抵の若者は素直に聞き入れるだろう。


「わかってるわ。トールも万全じゃないし、あたし達も泳いで疲れてるんだもん……神鉄のゴーレムなんてドラゴンの鱗よりも硬いんだから安心できないもの」


 リーゼは戦闘経験も多いし、そうそう敵を侮ったりしないだろう。


「お兄ちゃん? 元気ないけど大丈夫? アタシがおんぶしよっか?」


 カリンのレベルなら人間を2~3人担ぐくらい簡単だろう。


「妹に担がれるのは兄のプライドが許さん。……闘気の使い過ぎで疲労してるから回復に努めているだけだよ。心配するな」


 頭を撫でると嬉しそうだ。

 妹とイチャついていると、袖を引っ張る感触がする。


「アルは奴隷。ごしゅじんはごしゅじん! アルがだっこしてあげる!」


 無い胸を反らして得意気だ。俺の袖を掴んだ手とは反対の腕がパタパタしている。


「アルテミスもありがとな。チビっ娘は抱っこされるより抱っこしたいから遠慮するよ」

「ごしゅじんはアルをだっこしてくれる!」


 今は回復したいから帰ってからにして欲しい。

 俺の周りを走り出したアルテミスを捕まえ、ぎゅっと抱き締めて(なだ)めた。


「つらいのなら休憩を入れたほうがいい。遠慮は要らないんだよ」


 ビリーの落ち着いた渋めの声だと意地を張りにくい。


「神鉄ゴーレムとの戦いの前に休もう。俺の今の状態で強敵と戦うのはちょっとな」


 全員の疲労を考えても当然の判断だ。今回は急ぎじゃないし。

 探索も終盤に差し掛かり、部屋の奥にゴーレムが鎮座している。神鉄製のゴーレムは錆び付くこともなく、汚れすらない。

 その奥の部屋が封印の間だろう。ビリーが地図で確認済みだ。


「ゴーレムにはレベルがないのね」

「有ろうが無かろうが厄介な奴なのは変わらん」


 リーゼの呟きに俺もウンザリしながら答える。

 弱体化は無理だな。


「ゴーレムの強さは素材と製作者の魔法の力量で変わるからね」


 ビリーの説明に全員が気を引き締める。

 魔王の封印をしたエルフだったら嫌だな~。


「とにかく休みましょう。トール君は寝なさいね」

「うむ。見張りは私達でやるよ。皆は休みなさい」


 ビリー夫婦の申し出を有り難く受けて休憩を始める。

 俺は血が足りないので鉄分が豊富な食事を摂ってから寝た。

 6時間は寝て疲労は取れたけど、血が足りないのでやっぱりダルい。

 さすがに何日か休まないと万全には程遠い。


「もう良いのか? まだ寝てたほうがいいぞ」


 ケビンが見張りを代わっていたらしい。気遣うように小声で話す。


「たっぷり寝たし、もう眠気はないよ」

「ならいいけど……悪いな。俺は今回は役に立てそうにない」


 ケビンも忸怩(じくじ)たる思いがあるらしい。


「恥じる必要ないだろ? 弓が役立つ場面だってあるし、弓のように遠距離攻撃しかどうにもならない事態だってあるかもしれん。役割ってのは戦いだけじゃなくて全てにある。

男と女だって役割が違うんだ。俺達生き物は生まれつきそういうモノだと思うぞ。最近は仲間の有り難みが身に沁みるよ」


 疲れているからか余計にそう思う。


「…………お前はちょっと落ち着きすぎだ。どっちが年上か分からなくなる」


 苦難のほうが人を成長させるらしい。

 しばらくすると、皆も起き出したので食事と水分を摂って戦いに備えた。


 食後の休みを1時間ほど挟んで、俺達はゴーレムの待つ部屋に入った。

 近付くとゴーレムの眼に光が灯り、金属の擦れる音を立てて起動する。


「まずは私が引き付ける! ユリア君を奥の部屋に向かわせてくれ」


 ビリーが斧を抜きゴーレムに駆け寄る。

 全力の攻撃が当たり、鋭い金属音が響いた。


「くっ、硬い。かすり傷一つ付かないとは……」


 敵対行動と判断したゴーレムがビリーに襲い掛かる。

 5メートル程度の巨体を意外な速さで動かし、腕を大きく振りかぶって殴り付けた。

 身を捻って躱す。拳が床を割り、歪んだ足場にビリーが体勢を崩した。


「父さん!」


 ケビンの援護射撃がゴーレムを射る。

 魔法を纏った矢がゴーレムに当たって爆発する。

 その衝撃で飛ばされたビリーとゴーレムの間に俺とリーゼが割り込んだ。

 剛腕を避けるが風圧でリーゼがよろめいた。機敏な動きでゴーレムの腕がリーゼに迫る。


「きゃあ!」


 俺は一瞬で発揮できる全力でゴーレムの腕を受け止める。

 足が床にめり込み、全身の血管が破裂しそうな圧力を受ける。

 足場がボロボロのため、踏ん張りが利きにくい。リーゼも立ち上がろうとするが、手を突いた床から砕けて立ち上がれない。


「変身! リーゼお姉ちゃん待ってて!」


 光がカリンの身体を包み、その光の中から翼を生やした魔法戦士が飛び出す。

 光の翼を広げて床すれすれに空中を翔ぶと、リーゼを抱えて離脱した。


「ありがと、カリン!」


 続けて、マリンの回復で戦線に復帰したビリーがゴーレムの背中を斬り付ける。

 圧力が緩んだ隙に光神閃光波でゴーレムを吹き飛ばす。


「ユリア! 行け!」

「はい! ご主人様たちも気を付けてください!」


 封印の間を塞ぐようにゴーレムの前に立つ。

 起き上がったゴーレムを見るが傷一つない。自信が無くなりそうだ。パーヴェルは一撃で倒していたのに。

 儀式のあとで消耗してなければ、俺達も真っ二つになっていたかもしれないな。

 あらためて魔族と人間との差を思い知る。


「ビリー! 作戦変更だ。俺が全力で防ぐから背後から攻撃して注意を逸らしてくれ! その間に回復する!」


 全力だと消耗が激しく、長時間は無理だ。

 ビリーではダメージが大きく回復が追い付かないだろう。


「仕方ないね。限界を感じたらすぐに退くんだ!」


 ゴーレムが封印の間に侵入したユリアを優先的に狙ってくる。


「おぉぉぉぉぉ!!!」


 俺の身体から闘気が噴き上がり、周囲に風を巻き起こす。

 ゴーレムのパンチを両手で受け止め、力を入れて押し返す。

 闘気を込めた拳で殴り、ゴーレムを後ろに下がらせる。

 痛いな。防ぐのは手で攻撃は闘気剣にしよう。

 受け止めたままだと闘気を使い続けないとならないので、消耗を避けるためには攻撃して下がらせるのがいい。

 長時間力を入れるより一瞬のほうが疲れない。


「お兄ちゃん! 頑張って!」


 カリンの氷魔法がゴーレムの足を凍り付かせる。

 そこにアルテミスの強化魔法で腕力と武器を強化したビリーの一撃が、ゴーレムの額を傷付けた。

 その傷の隙間から魔法結晶が見える。あれが動力源だろう。神鉄は魔力を通しやすいので埋め込んでも吸収可能みたいだ。

 魔法防御力は高いのに不思議な金属だな。


 氷を砕いて動き出したゴーレムの足をケビンの矢が襲い、爆発によってバランスを崩させる。

 すかさずリーゼの風魔法で上から押さえ付けた。

 俺はマジックイーターでゴーレムの魔力を奪い、マリンに体力を回復して貰う。


「そのまま頼む! 俺の最強の技で額を砕いて魔法結晶を取り出してゴーレムを停める」


 体力と魔力を限界ギリギリまで搾り出して剣に込める。

 20秒ほど掛かって準備が終わった。

 跳び上がり天井を蹴ってゴーレムに斬り掛かった。


「光神天裂破(てんれつは)!!」


 剣に全パワーを込めて放つ、今の俺の最強の技だ。

 光輝く剣をゴーレムの額に叩き付けると俺の剣も砕け散る。

 着地に失敗して倒れるが、ゴーレムの頭を切り裂いて魔法結晶が壊れたのは見えたので心配ない。

 この技は最終奥義なので、使うとエネルギー切れになる。

 俺はまだ巧く使いこなせないので武器に負担が掛かって壊してしまったが、お師匠は俺より巧いので武器に傷すら付かなかった。


「はあ、疲れた」


 俺は床に手を突いたままで呼吸を整える。倒したので慌てて回復する必要はない。


「トールはどんどん強くなるわね! 素敵よ」

「ごしゅじんはアルより強い! さすがごしゅじん!」

「お兄ちゃん、はい! ポーションだよ」


 床に転がった俺にカリンが膝枕でポーションを飲ませてくれた。

 アルテミスも心配そうに覗き込む。

 マリンもマジックポーションで魔力を回復中だ。

 ビリーとケビンはゴーレムをアイテムボックスにしまう。


「あたしはユリアの護衛をしておくから、トールをお願いね?」


 リーゼの声を聞いて、俺の意識は眠りに就いた。


 次に気が付いた時には、俺は豪華なベッドの上だった。

 ベッドの横には、俺の手を握りながら突っ伏して寝ているリーゼが居る。

 ポニーテールの髪をほどいているので、綺麗な金の髪が拡がってリーゼ自身が光を纏っているみたいだ。

 その髪を撫でて再び眠気に身を任せた。

明日の午前0時に別の話を投稿します。

興味のある方は見てください。

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