パーティの準備と使用人達の気持ち 後編
はわっ、迷子になっちゃった! どーしよう! パティさんはどこに行っちゃったんだろ?
もう~! あのおじさんが試食なんてさせるからだよ~。ん~、そうだっ! 頼まれてたあたしの持つ分を買っておけば、はぐれたことを誤魔化せるかも。
昨日もパティさんに叱られたし、今日こそは叱られないようにしないと、旦那様に呆れられちゃう。
せっかく旦那様の寵愛を戴けたのに、このまま失敗ばかりしたら嫌われちゃう。
よ~し、がんばって必要な物を買おうっと。
「お姉さん、その果物をカゴにいっぱいください!」
「は~い! 少し待ってね?」
背負っていたカゴを差し出して、預かっていたお金を渡します。
奴隷になる前もお金なんて使ったことがなかったのに、馴れてきたなぁ。
お給金も貰えるし、失敗しても追い出されないし、ご飯は美味しいから幸せだなぁ。
ご恩返しにいっぱいご奉仕して、いっぱい寵愛を戴こう!
「ドワーフのおじさん! おっきなフライパンをください!」
「お嬢ちゃん、お使いか? 偉ぇぞ。少し安くしてやろう」
「ありがとう! おじさん!」
えへへ、褒められちゃった。
「やあ! メイドの可愛いお嬢さん。ボクと食事でもどうだい?」
「はわっ? 何ですか?」
後ろから肩を叩かれて勢いよく振り返ったのが悪かったのです。
「はうっ!!!!!!」
振り返った拍子に右手に持っていたフライパンがコーンと、声を掛けてきた軽そうな男の人の大事なとこに当たってしまいました。
「ごっ、ごめんなさいです! また失敗しちゃいました!」
大事なところを両手で押さえて内股になった男の人は、聞こえていないのか涙と鼻水を垂らして痛がってます。
「プッ、ダサい」
「さっきまで爽やかに笑ってたのにね~」
「いろんな娘に声を掛けてたから天罰じゃない?」
周りの人たちがクスクス笑っています。なんだか悪いことしちゃいました! どうすれば?
「あ~、お嬢ちゃん。そいつはほっといて、お使いの続きに行きな。ど~せロクな奴じゃない」
「えっ! 悪人さんだったんです?」
「あ~……いい奴じゃないのは確かだな!」
旦那様とパティさんに悪い人には近付いちゃダメって言われてました!
「それじゃあ、あたしは行きますね? ありがとうございます! ドワーフのおじさん! さようなら悪い人!」
「はうっ!!!」
「尻に刺さった~!!!!」
「膝が割れた~!!!」
「痛ぇ!!!」
なんだか声を掛けてきた悪い人たちが酷いことになってます。悪い人には天罰が下るんですね! あたしは真面目に生きます!
「リネットは可愛い売り子さん~♪」
今日は調子がすごくいいな~。いっぱい売れちゃって材料が午前中でなくなっちゃった! 早く買い出しに行かないとぜんぶ売り切れちゃう。
「あ~! ユリア様が買い食いしてる!」
「んぐっ、ケフッコフッ、違います! ユリアはお小遣いをムダ遣いしてません! リネットちゃんにもあげるからご主人様には内緒にしてください!」
あはっ、ユリア様が慌てて変なこと言ってるよ~。キレイなツインテールがブンブンしてる。
「べつにお小遣いなら大丈夫ですよ? 旦那様も食いしん坊な女の子もイケる! って言ってましたから!」
でもやっぱりパンツが1番萌えるって言ってたけど。
「ユリアは食いしん坊じゃないです! ただ人間さんの街が珍しいだけですよ?」
「リネットも食べたことない物がいっぱいあります! お風呂に入ったのも旦那様に買われて初めて入ったんです!」
すごく気持ちいいよね! お父さんとお母さんと妹にも味わって欲しいな~。
仕送りしたらビックリしてたな~。家族が食べていくには、リネットを奴隷として売るしかなかったのに、すごく気にしてるんだもん。こんなに幸せなのにね?
旦那様に妹をお風呂に入れてもいいか聞いてみようかな? 旦那様はエッチだけど優しいもん。
お父さんが旦那様のお店で働くことができたから家族も安心だし、妹も最近ふっくらしてきたな~。ガリガリだったのに。
「リネットちゃん。ご主人様のとこに来て嬉しいですか?」
「ほえっ? えへへ、旦那様にぜんぶあげたいくらい幸せです!」
笑顔で答えたら、ユリア様も笑顔になりました。
「フィーネさん、これでいいですか?」
「たこ焼き器かんせ~い!」
「スゴロクできたよ?」
「ありがとう。メグちゃん、リンちゃん、レティちゃん」
旦那様の設計図の通りにできてるわね。
炎の魔法結晶付きのたこ焼き器は1度に200個焼ける。
鍛冶スキルのない9才のレティちゃんは、二つ折りにできる木の板にマス目を書いた紙を貼り付けたスゴロクを作ってくれた。
ドワーフ3姉妹は工房を造ってもらったのが嬉しいみたいね、キラキラして可愛い。
これなら旦那様も褒めてくださるわね。
「旦那様はこれで何を作るんでしょう?」
「お姉ちゃん、たこ焼きだよ? 見たことないけど」
「タコさん美味しいよね?」
タコなんて食べ物じゃないと思ってたのに、タコピラフやタコわさは美味しいのよね。
コリコリした食感が最高ね。旦那様はタコ刺しが好きだけど。今は旦那様の店で働いてる元浮浪者の方達も、貪るように食べてたしね。
「新しいスゴロクのマスができたよ! レティ追加だよ!」
旦那様の妹のカリン様が飛び込んできた。今日も元気だわ。
「カリン様、ありがとう! 私たちは字が書けないから……」
貧しくて12才の子なら字が書けないのは珍しくないのに、リンちゃんったら落ち込んで。
「お兄ちゃんからもお世話するように言われてるから気にしたらダメだよ!」
「旦那様が……あのフィーネさん。旦那様のお情けは戴いていますか?」
「そっ、そんなこと言えないわよ」
自分の頬が熱くなるのを感じる。こういった話は恥ずかしいのよね。
「私は純ドワーフだから15才なのに小さくて……旦那様にご奉仕して差し上げることはできないでしょうか?」
確かに人間に比べて小さくて可愛いわね。旦那様の好みって解らないのよね。
「お兄ちゃんなら大丈夫! エッチだから来る者拒まずだよ! アタシのお尻にも夢中だもん!」
カリン様はまだだったはずだけど? まあ旦那様はお尻を撫でるのが挨拶だものね。
「ほんとですか!? カリン様!」
「お姉ちゃんがいいなら私でもいいよね?」
「お姉ちゃんたちはなにをするの?」
小さな子供が居るんだから控えて欲しいわ。
「はいはい、みんな。はしたない話は終わりよ?」
みんなを促して作業を続けました。もう少し遊び道具を作りましょう。
このままだとメロンパンも売り切れそうです。リネット、早く帰ってきて。
困りました。いつもより売れてるのはアルテミスさんのお陰ですか?
「……買う?」
「えっと……はい」
「フレイ、客、買う」
クルンと振り向き見上げてきます。あの目でジーっと見られたら居心地悪いですね。
「フレイさん、追加が焼けました!」
「50個追加ですけど、材料がもうないって!」
ステラとティアは張り切ってます。昨日、旦那様とお風呂に入ったそうですから、また褒めて欲しいのかも。
それにしても飛ぶように売れますね。1人5個までという制限のせいかもしれません。
「はいメロンパン5つで大銅貨2枚と中銅貨1枚です。大銅貨3枚お預りします。中銅貨1枚のお返しです。」
「ん~、メロンパン4個は大銅貨2枚? 客、払え。……大銅貨2枚預かる?」
「アルテミスさん、お客様です。それと丁度の時は預かるではなく、丁度頂きますですよ」
ぞんざいな口調なのに何故かお客様が怒りません。
「申し訳ございません。売り切れてしまいました! 次は夕方になります!」
旦那様が姫様と婚約してから貴族のお客様の使いの方も大人しく帰ってくれますから大丈夫ですけど、見通しが甘かったですね。
厨房の増設が終わればもっと大量に作れますが。
「売り上げの計算をしておきましょう。合わなければ困りますからね」
「「ハーイ!」」
「……アルは計算は無理。ごしゅじんを捜す」
アルテミスさんは奴隷なのに自由ですね。
「アイスクリームとメロンパンの売り上げが、材料費を引いて大銀貨6枚と中銀貨1枚小銀貨3枚になるはずです。数えてください」
「こんないっぱいのお金、見たことないです」
「だんなさまはお金持ちだね!」
生活費に充てるように言われていますが、1日の収入が普通の家庭の1年分以上になるので貯まりますね。
「ぜんぶ並べたよ!」
「ちゃんとあります?」
旦那様に戴いたお金が10枚ずつ収まるケースは便利ですね。数え間違いがありません。
「ちゃんとあります。午後もありますが、今日も問題はないでしょう。旦那様の立場が強いですしね」
売り上げを金庫にしまい、休憩しましょう。
「ん! ごしゅじんはここには居ない」
屋敷に入ると、玄関脇に置いてある大きな壺からお尻が生えていました。
「アルテミスさん。旦那様は壺には入りませんよ」
「確認した。でも、お姫に追い掛けられて隠れてた。次はオフロの確認」
アルテミスさんはいきなり服を脱いで走って行きました。
「…………はっ! アルテミスさん! 服を脱ぐのは脱衣所です!」
余りのことに呆気に取られました。
せめてパンツは穿いて貰わないと旦那様がガッカリします。
私は服を拾い、アルテミスさんを追い掛けて行きました。
「オフロ……お湯ない」
お風呂場に着くと、アルテミスさんが呆然とした顔でショックを受けていました。
「アルテミスさん。浴槽にお湯を張るのは少し時間がかかるのでシャワーにしましょう?」
「…………しゃわー…………気持ちいいならしゃわーでいい」
シャワー(お湯の出る魔道具に旦那様が無数の穴が開いた銀板を張った物)の使い方を説明してお湯を出すと、半眼でほえ~っとした表情になりました。
気持ちいいみたいですね。両手をペンギンみたいにパタパタしています。
不思議な人ですが旦那様が欲しがったのも解る気がします。
「私も一緒に入っていいですか?」
「ん!」




