パーティの準備と使用人達の気持ち 前編
アタシ等って警備員として買われたんだよな? 旦那の屋敷に来てから全然戦ってないぞ。
依頼に失敗して莫大な違約金を払う為に奴隷になった時は終わったと思ったんだけどな~。
仲間とは別々に買われて、頼りになるサブリーダーのベアトリクスと呑むのも最後になるね、なんて話してたのに。
アタシ等はまだいい、他の3人は処女だ。悲惨な生活を覚悟しなきゃならない。そう思ったのに、毎日美味しい食事を食べれて給金まで貰える。
夢でも見てるのかね~。
「アリッサ! サボってないで飾り付けを手伝ってください!」
「はいよ! ほんとにアンタは真面目だね~」
ベアトリクスに叱られちまったよ。急いで仕事しないと冒険者時代みたいに槍でどつかれそうだね。
まったくアリッサときたら……旦那様に与えられた仕事を何だと思っているのかしら? 私が居ないとすぐサボって。
まあ気持ちは解るけどね。穏やかな暮らしなんて私も信じられないもの。
戦えるようになるまで酷い暮らしだったからね。気が抜けちゃうのも仕方ないか。
他の娘達が羨ましいわ。旦那様に捧げられて。
旦那様は悪びれてるけど、弱者には優しいのよね。背伸びしてるみたいで可愛いわ。
「ベアトリクスー、人形はどこに飾ればいいのよ!」
強気なブレンダも奴隷商館に売られた時は泣いてたわね~、なのに旦那様に抱かれたあとはスキップしてメロメロだったわね、正直引いたわ。
「旦那様の人形は目立つ所に飾りましょう! 急いでね」
ヌイグルミとか人形を飾れば小さい子達が喜ぶと思ったけど、ブレンダに任せたのが失敗だったわね。
旦那様に叱られないかしら? 人形なんかにしちゃって。銅像の方がカッコいいのに。
まあ当然よね! わたしが夜なべして作った旦那様人形だもん。目立つ所じゃなかったら雷魔法でベアトリクスを痺れさせるところよ!
ペチャパイ女も分かってるじゃない。
我ながらいい出来だわ。給金を全部使って作った力作だし当然だけどね。
瞳に埋めた黒真珠が高かったけど買ってよかった~。旦那様の不思議な色の瞳には敵わないけど、いい色ね。
旦那様の留守中の守り神になるかもね!
「……ブレンダ」
「ひゃあ!」
「ニヤニヤしてないで部屋に花を飾って?」
元猟師だけあってクララって背後霊みたいに、いつの間にか居るよねー。心臓に悪いわ。
クララは花を調達してきたみたいね、背負ったカゴがいっぱいだわ。
「これ、飾ってね?」
「分かったわ! 旦那様人形の周りを花で埋めるのよ!」
クララは花だけ置いてまた出て行ったけど、花をどれだけ摘んでくる気?
ここは落ち着く……旦那様を連れて来たいけど、トラウマが発動しそうで案内は無理。
花や自然の香りを吸い込むと気持ちいいから、旦那様をいつか連れて来よ。
今はまだ無理だから、せめて屋敷を花でいっぱいにしよ。
「姉ちゃん、俺達と一緒に愉しいことをしようぜ?」
「たっぷり可愛がってやるよ、へへっ、ぎゃああああ」
「いてぇぇぇ!! 俺のアソコがぁぁぁ」
汚ならしい格好をした、2人の男の股間を撃ち抜いて告げる。
「人の奴隷に手を出すのは犯罪。旦那様以外の男は触るな」
矢が刺さったままの股間を押さえて男達が逃げたから、花摘再開しよ。
やっぱりお花は綺麗で好き。バカな敵は嫌い。
花を抱えて屋敷に戻ると、エレノアの気配が近付いて来た。
「クララさん? お帰り~。そのお花食べられるかな?」
「食べられるのもあるけど食べたらダメ」
エレノアはいつもお腹を空かせてる。身体は小さいけど胸は大きいから栄養が胸に行ってるかも。
前にベアトリクスがエレノアの胸を睨んでた。
「それより花を飾るのを手伝って?」
「いいですよ~。わたしの分担は終わってますから」
エレノアと半分こにして花で屋敷を飾った。
お腹減ったな~。オッパイが重いからお腹が減るんだよ? わたしのせいじゃないもん。
旦那様が帰ったらお昼ゴハンかな? 摘まみ食いしに行ったら叱られるしな~。
明日はパーティだから、美味しいものがいっぱい食べられる。旦那様に買われてよかった~。奴隷になったらゴハンが少ししか食べられないと思ってたのに。
お礼に旦那様にいっぱいご奉仕したいな~。ブレンダさんだけズルいよね! 奴隷の立場だと自分から押し倒せないし、どうすればいいかも分からないし。
毎日可愛いパンツ穿いて準備してるのにな~。誘惑の仕方とか誰か知らないかな?
お花も飾り終わったし、厨房でゴハン分けて貰おうかな?
「メイさ~ん、ゴハンちょうだい?」
明日のパーティの食事の下拵えをしているメイさんと見習いメイド達にゴハンをねだったら、ため息を吐かれた。
「エレノア、準備に忙しい私達に面白いことを言うと面白い目に遭わせるわよ?」
見習いメイド達も怯えてる。何かされたのかな? メイさんはお茶目だけど料理には厳しいからな~。
準備を手伝って味見しよう!
ほんとに困った娘だね。摘まみ食いはダメだって言ったのに。手伝ってくれてるトリシアとソフィーには味見くらいする権利はあるけど。
それにしても見習いメイドの2人はよく働いてくれるし、そろそろ休憩にしよっかな?
まだ12才と11才だもんね。旦那様も児童労働がどうとか言ってたし、休憩はちゃんとしろって言われてるもの。
「そろそろ休憩にしよう! ジュース飲んでいいよ、2人とも」
「やった~、メイさんありがとう!」
「エレノアじゃなくて見習いメイドの2人!」
油断も隙もないな! 旦那様が優しいからって奴隷なのを忘れたらダメだよ?
しょんぼりしているエレノアにもジュースをあげたら、ほんとに嬉しそう。チビッ子メイド達みたいに食いしん坊だな~。
「エレノアさん、私のジュース半分飲んでください。この前ケガを治してもらったから」
トリシアがジュースを差し出してる。
「……あたしのも飲みますか?」
ソフィーも飲みたいけど仕方ないみたいな表情で、おずおずと差し出してる。
「嬉しいけどいいよ~。旦那様に与えられたお仕事だもんね」
さすがに子供のジュースを貰うほど食い意地は張ってないみたいだね。
それはそうと買い出しに行ったラナとチビッ子メイドのセリーナとロザリーはちゃんと買えたかな?
「チビッ子達、美味しそうな食材は見つかった?」
私が声を掛けると8才のセリーナがキュウリを持って来た。
「これがかたくて美味しいです。いっぱいかむと、お腹がふくれます!」
トコトコ走って来た7才のロザリーも白いパンを差し出して嬉しそうにニコニコしてる。
「ごちそうなの! あたち、はじめて食べたときにビックリしたよ?」
屋敷で食べた食材は高すぎて見たことないみたいだね。たぶん食材のまましか食べたことなかったんだね。泣ける。料理人の誇りに懸けて私の料理の虜にしてあげるからね!
「お屋敷で食べたゴハンで好きなのないの?」
「ぜんぶ好きだけど売ってなかったよ?」
「あたちはアイスが好きなの! あまい色のついたお水も好き!」
やっぱり調理するって発想がないみたいだね。泣けるわ~。旦那様に拾われてよかったね! いっぱい美味しいゴハン食べさせてあげるからね!
屋敷で食べたことのある食材から教えていこう! 料理で旦那様と屋敷のみんなを幸せにするんだ!
「ラナお姉ちゃん、パティさんがいるよ?」
セリーナがショートパンツを引っ張って指を指す。
「あれ? パティさんは手紙を出しに行ったのに、市場で何をしてるんだろう」
仕事が終わって買い出しに来たのかな? まあいっか! 私も早く買い出しをしないと。
「さあ、行くよ! 仕事が途中だからね?」
「は~い」
「このパンたべていい?」
好きなだけ食べたらいいよ~。
「フィル、ノエル、モニカ、迷子になったプリシラを捜してください」
私が声を掛けると、ウサミミを立ててプリシラの声を聞き分けようとするフィル。
動く物体を持ち前の動体視力で見分けるネコミミ娘のノエル。
鼻をスンスンして匂いを嗅ぐモニカ。
まったく、旦那様に頼まれたリリー様への手紙を出している僅かな間に迷子になるなんて。
「こっちから声がするぴょん!」
「えーっと……アッチで人の流れがおかしい……あっ、にゃんだった」
「あっちからいい匂いがするわん! お肉の匂いだわん!」
この娘達は変な語尾を付けて何でしょうか? 8才のフィルや6才で最年少のモニカならまだしも、13才のノエルは恥ずかしそうですから、自分の意志ではないのでしょう。
「あなたたち。その変わった話し方は何ですか?」
訊いてみると年少組が元気よく教えてくれました。
「だんなさまがぴょんって付けるとベタだけど可愛いよって言ってくれたぴょん!」
「だんなさまがわんって言うとうれしいって言ったわん!」
また旦那様のご病気ですか。困った方ですね。
もう少し御自分のお立場を考えて戴けないでしょうか?
姫様やエルフのユリア様と婚約者ですのに。
「いいですか? お外で旦那様の評判を傷付けるようなことはしてはいけません。旦那様の前でだけになさい」
「「「ハーイ!」」」
旦那様も気を付けて戴かないと。
「皆可愛いな! 女の子は健気がたまらん! 俺の為にお洒落をしてくれたんだな? ありがとう」
旦那様の声に振り返ると、10人以上の可愛いらしい服を着た女性達を引き連れた旦那様がデレデレしていました。
女性達が旦那様に凭れ掛かるとイラっとしますね。品のない女性達です。
「トール! 見つけたわよ! また浮気して~」
姫様の登場に周囲の方達が膝をつきます。
「女の子達のことは誤解じゃないが、リーゼへの愛はちゃんと有るぞ! だから大目に見てくれ!」
旦那様の言い訳になってない開き直りですね。
「見るかバカー!! 何人侍らせてるのよ!」
「えーっと、女の子は13人だ! 1人男の娘が居る!」
「訊いてないわよ! 答えるな! バカなの!」
「バカじゃなくて正直者なんだよ。愛してるよリーゼ」
「信じられるわけないでしょ!」
「ラ○ちゃんも男の人は幾つも愛を持っていると言ってたぞ?」
「○ムちゃんって誰よ! 他の女の子の名前を出すな! バカ!」
「いや~、あの兄ちゃん懲りないな!」
「この前はエルフのお嬢ちゃんに叱られてたぞ」
「妹にも頭が上がらないみたいだな!」
旦那様はアレさえなければ。
「……いいですか? 旦那様の評判を落とすような変な語尾はやめなさい」
「もう落ちようが無い……にゃん」
次も使用人達の話になります。




