薔薇園のお姫様
部屋に向かう途中、メイド達のお尻を撫でようとしたら、ユリア達に理不尽に怒られた。俺の挨拶なのに。
一際豪華な部屋に通され、メイド達がお茶を出してくれた。皆美人で嬉しい。
ここは国王の私室らしい。余程大事な話が有るらしいな。
少ししてノックの音がすると、見覚えの有る3人が入ってきた。
「やあ、トール君、ユリア君、暫くと言う程では無いが、また会えたね。話を聞いて心配したよ」
「よう! 無事で良かったなぁ!」
「トール君、可愛い娘が増えたのね?」
ゴブリンキングの時の冒険者家族、ビリー、ケビン、マリンだ。
「ビリーさん達じゃないですか! 数日ぶりですね。こんにちはです」
ユリアが立ち上がってペコリと頭を下げて挨拶をする。
「ユリアちゃんも元気そうね。ドレス似合うわ」
マリンがユリア達のドレスを誉めるて、ユリアは俺に買って貰ったと自慢している。
「お兄ちゃん、この人達だれ?」
カリンが知りたがるので、お互いのことを教え合った。
「そうか……2人でゴブリンキングと戦っていたから気になっていたんだ。仲間は多い方が良い」
ビリーのオッサンが安心した様に微笑む。
「ところでオッサン達は何でここに? 冒険者も調査したって聞いたがその件か?」
ギルドマスターから報告しそうだが。
「その通りだよ。パーヴェルらしき魔人に殺された冒険者の最期を看取ってね。その時の状況を陛下に伝える為にね」
いろいろな遺跡やダンジョンで殺されているそうだ。奴の目的が判るかな? 楽しみだ。
お互いの近況報告も終わり、のんびり茶を飲みながらユリアとカリンのお尻を撫でて過ごす。
「暇だし、ちょっと散歩に行ってくる」
「相変わらず自由な奴だな~」
散歩に出掛ける俺にケビンの奴が声を掛ける。
「自由に生きなきゃつまらないからな」
そう告げて部屋を出る際に、兵士が案内を買って出るが、断って散歩に出掛けた。
「すげー豪華だな。金が掛かってそうだ」
歩いていたメイドのお尻を撫でながら呟く。
「はい。魔法の掛かった美術品などもございます」
プロだけあってお尻を撫でても説明をきちんとしてくれた。
メイドと別れ、中庭らしき場所に行くと、美しい薔薇園よりも可愛い少女が花を愛でていた。
その少女は俺と同じくらいの歳で金髪碧眼、凛々しさと可愛いらしさが無理なく同居した綺麗な瞳で薔薇を見詰めていた。
腰までの長さの髪の上部分を、頭の後ろで結んだハーフアップと言う髪型で、腰の辺りの部分だけウェーブが掛かっている。
身長は160㎝くらいでスタイルも良く、女の子が羨みそうだ。
「貴方は誰かしら? ふふっ、女性をじっと見詰めるなんて失礼ですよ」
振り向いた少女の綺麗な瞳が好奇心に染まる。ドレスを摘まみ上げて駆け寄ってきた。
意外にお転婆らしい。
「その黒髪、珍しいですわね? もしかして異世界の方?」
異世界に付いて知っているらしい。誤魔化しても意味がなさそうだ。
「そう言う君は妖精か何かかな? 俺と食事でもどうだろう?」
「わたくしを口説くなんて変わった方。ステータスチェックを持っているのですから確かめてはいかがですか?」
どうやら相手もスキル持ちの様だ。表情が挑戦的で話し方と合わない。
レベル46 リーゼロット・アルマーナ・レクス
HP399/399 MP340/342
身体系スキル
剣術(5) 体術(3) 舞踏(3)
肉体強化(小、中、大)
礼儀作法(2) 剛撃 瞬撃
魔法系スキル
ステータスチェック(全) 魔力操作
風魔法(5) 光魔法(4)
レベル高いな。それにレクスって、この国の名前だ。お姫様らしい。
カリンの舞踊は踊り全般を、舞踏はソシアルダンスの様な踊りのスキルだ。
「姫だろうと可愛い女の子は口説くさ。例え俺より強くても、美しい少女を見て何もしない訳にはいかない」
肩を抱き薔薇園を歩く。
「勇気がありますのね? 兵士に見つかったら捕まりますよ」
「本人が嫌がらないんだ、他人が煩く言うのは筋違いだ。それより、窮屈な話し方は止めないか?」
ギクッとした顔で俺を見て、恐る恐る尋ねてきた。
「……何で判ったの?」
「なぜ? 舞踏や礼儀作法のスキルが低いし、それだけのレベルと戦闘スキルを鍛えるには余計なことをしている暇はないだろう。作法が身に付かなくて当然さ」
違和感のある喋り方だし、素の方がいい。
「う~ん、やっぱり無理があるか……」
溜め息を吐き、落ち込んだ顔をする。
「気にすることはないさ。作った表情よりも今の素の表情が可愛いからな。……そのままで充分素敵だよ」
「なっ、何を言ってるのよ! あたしは口先だけの男はキライよ! トールのバカ! エッチ!」
俺の腕の中で真っ赤になって否定するが、逃げる気配はないので離さない。
「リーゼロットは口先だけじゃないのか? 俺より強いのに何で逃げないんだ?」
「それは……えっと……そうっ! 貴方が怪我をしたら可哀想じゃない。だから仕方なくよ!」
どちらにせよ、可愛い奴だ。
「俺が怪我をしないようにか……、そんな優しい所も好きだぞ。顔もスタイルも性格も俺の好みだ」
「…………何でそんなに堂々としてるのよ。照れとかないの?」
「無いな。本音を言うのは恥ずかしいことじゃない。リーゼロットも表情が素直になってますます魅力的だ」
リーゼロットが大人しくなり、お互いに見詰め合う。
「……お尻を触るの止めてくれる? 台無しじゃない」
お尻を撫でていたらツネられた。さすがにお尻を撫でるのはまだ早かったか。
「魅力的なお尻があるとつい触ってしまうんだ。可愛いよ、と言う俺の挨拶だと思ってくれ。」
「他の娘にも言ってるでしょ? スケベ」
不満そうに呟くが、俺に身体を預けているので満更ではないのだろう。
表情がクルクル変わる今の方が、やっぱり可愛いと思う。
「俺はこの辺で失礼するぞ」
もうそろそろ戻らなければならない。
「そう言えばお父様に呼ばれたんだっけ? 話が終わる頃に、あたしも着替えて顔を出すから先に行ってて」
そう言って着替えに向かう背中に声を掛ける。
「そのドレス姿も綺麗なのに」
クルリとこちらに向き直り、照れた様な笑顔で答えた。
「普段のあたしが好きなんでしょ? あたしらしい格好を見せてあげる!」
ドレスの裾を鬱陶しそうに摘まんで駆けて行った。
部屋に戻ると国王がもう来ていた。
「お主がトール殿か、待たせて済まんの。仲間から話は粗方聞いた」
王冠を被った40才くらいの男が握手を求めてきたので応じる。年齢の割りに老けている。
苦労が多いのだろう。主に貴族関係で。
「よくぞ生き残ってくれた!」
「それよりパーヴェルの事を教えて欲しい」
うむ、と頷いてソファーに座り直す。
「パーヴェルは500年近く前に封印された魔王グレイオスの腹心じゃ。別の封印を掛けられておったが、どうやら解けてしまった様じゃな……。何万もの兵士や騎士を数時間で皆殺しにしたという伝承も残っておる」
「私達が子供の頃は、パーヴェルの事がよく出てくる絵本を皆が読んでいたんだよ」
ビリーのオッサンが補足する。
「お主とビリー殿の話から、奴は遺跡を探している様じゃ。狙いは恐らく魔王の復活。遺跡の封印を解こうと考えておるのじゃろうな」
魔王はアイツより強いよな、絶対。
「そこで魔王を封印した遺跡に兵士500人を送ったところ…………全滅した」
ヤバそうだな。パーヴェルは殺したいが魔王は遠慮したい。阻止したいが今の俺じゃ勝てない。
「それでは封印を解かれるのは時間の問題でしょうか?」
マリンが堪らずに訊く。
「そうではない。魔王はレベルが250近く有ったそうでな、精霊王の御力をお借りしても封印は難しい。そこで魔王の力を複数に分けて封印したらしい。じゃから1つ封印が解かれても、直ぐに復活とはいかんよ」
ホッとした空気が護衛兵士にまで拡がる。
「封印が解かれる度に魔王は力を取り戻すのか?」
肝心なことを訊く。
「そうじゃ。完全復活を阻止するには、1つでも多くの封印を強化しなければならん。それには封印の魔力を強化する必要があるのじゃが、特殊な道具と精霊魔法が不可欠なんじゃよ」
皆の視線がユリアに集中する。
「ふえ? 私の精霊魔法のレベルじゃ無理ですよ! 長老様に頼んで下さい!」
慌てたユリアが俺の背中に隠れようとする。
「それがの、封印の遺跡には罠があるからのぅ。長老殿はもうお年じゃ。世界中の遺跡を回るのは無理がある」
確かに。封印を1つ2つ守っても意味が無いしな。
「魔王の復活には魔王の力が封印された遺跡から、魔王の力の結晶を集めて、本体が封印された遺跡に持って行き、儀式を行う必要がある。ある程度力が戻れば、魔王自ら封印を破るじゃろう。多少力が足りずとも、パーヴェルと一緒に内側と外側から破られてしまう」
魔王は完全な力を取り戻せば自力で封印を解ける。パーヴェルは自力じゃ魔王の封印を解くのは無理。
魔王に完全な力が戻らなくても2人揃えば解けると。
「ユリア、頑張って修業するしかないぞ」
「精霊王と契約なんて無理ですよ、ご主人様~」
「精霊王との契約は必要ないんじゃよ、ユリアーナ殿」
怯んでいるユリアに王が告げる。
「要は精霊王の御力をより多く流し込めば良い。精霊魔法さえ使えれば精霊界と繋げる事が出来る。あとは封印の祭壇に行き、精霊の宝珠を設置してから繋げるだけじゃよ。それで完全な力を取り戻した魔王以外に封印は解けぬ」
それなら術を覚えれば大丈夫だろう。
「ユリア、頑張って封印強化の術を覚えろ。魔王が復活したら困る」
「ご主人様が困るなら……やります!」
「ユリアお姉ちゃん、あたしも手伝うね!」
「私達にしても他人事ではない。トール君、ユリア君、手伝わせてくれるね?」
「ユリアちゃんみたいな子供が頑張るんじゃ、オレも頑張らねえとな!」
「世界の平和と家族の命が掛かってるんだもの、私も手伝うわね?」
取り敢えず、強い奴等が一緒の方がパーヴェルと戦うのに有利だ。
「国からも余の娘、リーゼロットを出そう」
リーゼロット姫は俺達よりレベルが高いから頼りになりそうだ。
これでユリアが術を覚えれば出発だな。
「それじゃ早速準備しよう。ユリアは修業、カリンはケビンとマリンを連れて買い出し。ビリーのオッサンは遺跡の情報を聞いといてくれ。俺は兵士を借りて剣術の修業をする」
それなら国で最強の剣士を付けると、国王が紹介してくれる事になった。
ビリーのオッサンは直ぐに図書室まで兵士に連れて行って貰い、ユリアも宮廷魔術師のばあちゃんに連れていかれた。
カリン達は遺跡探索に必要な物をリストアップしている。
俺は最強の剣士と連絡が取れるまでに、屋敷の使用人達に手紙を書いた。
俺の留守中は店の売り上げを使い、困った事があったら城に来るよう書いて、兵士に届けて貰った。




