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落ち込んでない俺をみんなが慰める

 傷が残ったまま街に帰る。

 回復ポーションは1度に大量には飲めない。お腹がいっぱいだし、短時間に水分を摂りすぎると水中毒を起こす。


 痛む身体を引きずって転移魔法を使う。

 転移魔法を使って長距離を跳ぶと、魔力が殆んど無くなる。

 街の近くに到着すると、ザワザワと騒ぎになっていた。


「ご主人様! 無事でしたか!?」

「お兄ちゃん! 傷がひどいよ!」


 街門から飛び出してきたユリアとカリンが駆け寄ってきて、俺の身体を支えてくれる。


「先ほど凄まじい竜巻が起きていましたが、事情を訊かせて下さい。」


 集まっていた兵士の中から、隊長格の男が寄ってきた。


「パーヴェルとか言う青白い顔の奴に遭遇して攻撃されたんだよ」


 簡単に相手の特徴を伝えると、兵士の顔色が劇的に変わった。

 周りの年かさの連中も、総じて恐怖に顔を歪めている。


「それは本当ですか!? だとしたら、あの強力な魔力も納得ですが……」


 何か知ってるらしいな。明日にでも調べよう。アイツは俺の獲物だ! 誰にも殺らせん。


「本当だ。ステータスも確認したんだ、間違いない」

「そんな! 復活したのか!?」

「ボウズ、よく無事に帰ってきたな……、上出来だ!」

「パーヴェル相手にその程度で済むなんてラッキーだったな!」

「とにかくヤベェぞ! ギルドマスターに報告しねぇと」

「我々は陛下にご報告してくる!」


 兵士や冒険者が慌ただしく散っていく。


「さあ、君は回復魔法で治療を」


 治癒術士らしき男が回復魔法を掛けてくれた。腕が良いらしく傷跡も残らない。


「助かった。痛いのは慣れてるけど、傷は嫌な事を思い出すから嫌いだ。」


 ボロボロになったコートも買い直さないと。


「大丈夫ですか? ご主人様」


 ユリアが心配そうな顔を向ける。


「お兄ちゃんが無事で良かったよ!」


 涙を浮かべていたカリンもようやく笑顔に戻る。


「でも、ご主人様が敗けるなんて……」

「ハッハッハッ、ユリア君……、俺は敗けてないのだ! 奴は俺を仕留め損なった。つまりは引き分けだ!」


 そう! 生きている限り、決着は付いてない。俺が敗けたと思わない限り、最後に勝つのはこの俺だ!


「わかりました! 引き分けです!」

「そうだよ! お兄ちゃんは無敵だもんね」

「君はそう言うが、生き残るだけでも凄いんだぞ」


 余計なお世話だ! 俺は勝ちたいんだ! 次はケチョンケチョンにしてやる!

 ケチョンケチョンのケチョンケチョンだ!

 ボコボコにして、もうやめて下さいよ~、って言わせて殺す!


 改めて治療のお礼を言って家に帰った。

 ボロボロのコートと血を見て使用人達が騒ぐ。

 怪我を確かめ、安心すると風呂などの世話をしてくれた。


「旦那様、お帰りになってからお部屋に引きこもってしまいましたね」


 パティが綺麗な眉をハの字にして呟いた。


「お兄ちゃんがこんなにショックを受けるなんて……、あんなに強そうな相手じゃ勝てなくても仕方ないよ」

「そうだね……、あの魔力はここまで届いたよ。旦那が生きてただけでも良かったと思わないと」


 アリッサの言葉に他の使用人達も頷く。子供達も皆不安そうに、近くに居る人の服を掴んでいる。


「あたし、だんなさまに助けてもらったのに、なんにもできないのかな?」

「メイさま、ラナさま、お料理を教えてください! だんなさまにご飯を作るの」


 子供達が主人を元気にしようといろいろ考える。


「私がご主人様を元気付けてきます! みんなはご飯の準備をして下さい!」


 ユリアがそう宣言して主人の部屋に向かった。




 この世界に来て敗ける事を想定してはいたが、あんなに圧倒される様な敗け方は想定外だ。

 情けない。もう2度と他人に屈しない生き方をしたかったのに、こんなところで(つまず)くとは。

 あの野郎、絶対に殺す。今よりも強くなって、奴の力を奪ってやる。


「ご主人様、入っても良いですか?」


 ノックの音が聴こえて、ユリアのやわらかい声がした。


「良いぞ。俺の部屋は恋人の部屋でもある」


 返事をするとユリアが嬉しそうに入ってきた。


「ご主人様! みんなも心配してます! お部屋に居ないでお外で遊びましょう!」


 小さな身体で目一杯背伸びして、両手をブンブン振って元気付けようとする。

 可愛い奴だ。主人がこれでは格好がつかない。


「俺は敗けてないから落ち込んだりもしないのだ!」


 まだ戦う意志があれば俺に敗北は無い。


「そうです! 敗けてません!」

「その通りだ。どこまでも食らい付いて最後に勝つのは俺だ!」


 いつまでも引きこもる気は無いので、遊びに行く事にした。


「ご主人様、どこに行きますか? ピクニックとか」

「ピ~クニック~~? 俺はお弁当持ってランランランな催しは大嫌いだ! 弁当なくて惨めな思いをする遠足なんか憎んでいると言ってもいい!! 修学旅行の積み立て金なんか無いわ! 給食費は酒代だ!」


 嫌な事を思い出す。


「あわっ、ご主人様のトラウマスイッチが入っちゃった!」


 慌てたユリアが、お尻を向けてスカートを捲る。



「…………ハッ! そこに居るのは俺の可愛いパン、ユリア! 良い物を見た。パンツが汚れて力が出ないよ~、な状態でもおニューのパンツで元気100倍だ!」


 ユリアのお尻を撫で回し、ベッドに連れ込む。

 やはり女の子の柔肌は男の癒しだと再確認できた。

 なめらかな肌、良い匂い、可愛い喘ぎ声、温かい体温、献身的な心。

 その全てを全身で感じる事が出来る。

 男が女に弱いのは仕方ないのだ!


 ユリアに身体で癒された後、下に降りて使用人達に元気な顔を見せたら暗い雰囲気も吹き飛んだので、チビッ子達も交えて下着鍋パーリィで盛り上がった。

 大人達は恥ずかしそうに、子供達は高い肉に大興奮だった。




 翌日は朝から戦いの訓練を屋敷の警護メンバーとこなす。

 驚いた事にカリンのレベルが1上がった。どうやら実戦訓練でも経験値は入るらしい。


 訓練を終えて昼下がりの散歩兼、情報収集に出掛ける。

 両手に美少女をくっ付けて歩くと男達の視線を感じるが、大事なのは両腕のプニプニなので無視する。

 人間の街が珍しくてキョロキョロするユリアとは対称的に、カリンはスキップしそうなくらいご機嫌だ。

 踊る様な足取りで俺とユリアを引っ張って歩く。


 冒険者ギルドで情報収集をすると、レベルの高い冒険者の殆んどが駆り出され、調査に向かったらしい。

 残った冒険者や職員は、落ち着かない様子で過ごしている。

 若い連中に訊いても、パーヴェルの事は知らない奴の方が多く、何より恐怖の為か要領を得ない話ばかりだ。

 調査中だし、いずれ判るだろう。


 仕方が無いので調査結果が出るまで戦闘訓練をして、スキルアップを図った。

 残念ながら数日では上がらなかったが、調査に向かった冒険者や兵士が帰って来たらしい。


 詳細を訊こうと、冒険者ギルドに向かう支度をしていたら、城から使いの兵士が屋敷にやって来た。


「だんなさま! こわい人が来たよ! つれて行かれちゃうよ! 助けて~」


 元浮浪者のチビッ子達が騒ぐ。


「貴方達は下がっていなさい。来客の応対は私の仕事です」


 パティに言われてチビッ子達も大人しくなる。


「旦那様、兵士の方が見えられております。国王陛下が先日の話を聞きたいと申しておられるそうです。いかが致しましょう?」


 俺も訊きたい事がある。呼び出しも丁寧だし問題ないな。


「城に向かう事にする。ユリアとカリンを連れて行くけど大丈夫か?」

「はい。同行者は5名まで許可が出ております」

「分かった。ユリアとカリンも問題ないか?」


 2人に確認はしておく。


「ユリアは大丈夫です。ご主人様に付いて行きます!」

「あたしも大丈夫! お城が見たいもん!」


 2人の同意も得られたので、城に行く準備に切り替える。

 折角なので、ユリア達にドレスを着せたい。

 兵士を屋敷の中で待たせて、ドレスを買いに行く。



「そこの可愛い店員さん! お城の舞踏会に呼ばれた訳では無いけど自慢したいので可愛いドレスを下さい!! おっぱいとお尻を強調する様な色っぽいのお願いします! それでいて清純さを失わない男のロマンドレスじゃないと俺は嫌です! 丈は短く生足が見たい! そんなドレスを下さい!」


 早口言葉の様な速さで喋ると周囲がポカーンとした。


「解らなければ大事なことなので何回でも説明しますが?」

「あっ、いえ、畏まりました。採寸をしても宜しいでしょうか?」

「構わないですよ。今日必要なのでサイズの合う奴をお願いしますよ、俺の可愛い店員さん」


 腰に腕を回して抱き寄せる。


「ご主人様メッ! 仲良くない女の子にベタベタしたらダメです!」

「そうだよ、お兄ちゃん! 妹をほったらかしにしたらダメだもん!」


 2人が騒ぐので、急いでドレスを持ってきて貰う。


 ドレスを仕立てる時間は無いので、完全に満足とはいかないが、注文通りのドレスが買えた。

 急いで屋敷に戻り、ドレスアップをしてお城に向かった。


 豪華なドレスを着た2人を、道行く男達がデレデレ見惚れる。

 2人の美少女をエスコートする俺を見る男達の視線が、気分を良くしてくれた。

 金持ちが暮らす中心街から城まで10分程の間に、俺の気分は最高潮になっていた。

 巨大な城を守る城壁の上には見回りの兵士が巡回し、迎える者を圧倒する様な城門には、何人もの兵士が胸を張って立っている。


「陛下の客人を連れて参った。開門!」


 掛け声と共に重厚な門が、金属が軋む音を立てて開く。


「ではお三方、案内しますのでどうぞ、お入り下さい」


 丁寧な応対で先導する兵士に付いて行き、城の中へと入って行った。

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