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生活の始まり。役割を決める

 衰弱して寝ている貧民街の子供達を除いて、使用人達をリビングに集めてソファーに座らせる。


「それじゃ仕事を割り振るから良く訊いてくれ。まず警備担当はアリッサ、ベアトリクス、ブレンダ、クララ、エレノアの5人に任せる」


 5人が立ち上がり挨拶をする。


「アリッサだ……です。宜しくお願いしますです?旦那様」


 敬語が苦手らしいので、全員喋りやすい様に話す事を言い含めた。


「判ったよ旦那。学が無いから助かる」

「ベアトリクスです。冒険者時代はサブリーダーを務めていました。皆さん宜しくお願いしますね?」

「ブレンダって言います。魔法使いです!精いっぱい頑張りますよ!旦那様」

「クララです。冒険者になる前は狩りをして暮らしてました。夜目が効くので夜間警備を頑張ります」

「エレノアだよ?怪我したら治してあげるね」


 5人の自己紹介が終ったので、細かい事を決める。


「警備の仕方は任せる。休みは1ヶ月5回だ。警備に手抜かりが無い様に休みはずらしてくれ」

「奴隷なのにお休みを貰えるの!?」


 驚いたエレノアが訊き返す。


「全員休みはシッカリ取って貰う。基本はマジックアイテムの警報が有るから、警報が鳴ったら対応してくれ」


 後で使用人達を登録しないと。登録は、血を少し垂らすだけで血に含まれる魔力を識別する。


「それから、警備担当の5人は危険な仕事だから、給金は1人、大銀貨1枚ずつだ」


 普通の家庭の1ヶ月の生活費に相当する。


「旦那、給金なんて貰う訳にはいかないよ。アタシ達は奴隷なんだから食事だけが普通だよ」

「俺は我儘だから自分がルールだ。俺の決定は絶対だ」


 どう反応して良いのか判らないのか、使用人達は黙り込む。


「それじゃ次は商売担当者だ。フレイとリネットは売り子を頼むぞ」


 アイスクリームの屋台を門の前でする。料理担当者がアイスクリームを屋敷の厨房で作り、商売担当者が売る。

 屋敷の前だから警備担当者が居るので安全だし、メイド達が屋敷の仕事をしながら手伝いも出来る。


「ハイ!お任せ下さい、旦那様!」

「リネットも張り切って売っちゃいますよ~」


 この2人は元気でニコニコしてるな。


「休みは定休日を作って月に5回休め。給金は1人中銀貨1枚で、売り上げが良ければボーナスを出す」


 頑張りにはご褒美が必要だ。


「私達もお給金戴けるんですか?ありがとうございます!」

「リネットはお休みが多くて嬉しいですよ~」



「次は料理担当者だ。メイとラナに任せる」


 重要な仕事だ。


「厨房は女の戦場です。旦那様は立ち入り禁止ですよ?」


 メイがウインクをしながら冗談半分で言う。


「こんな大きなお屋敷の厨房を任されるなんて……、腕によりを掛けて皆のご飯を作りますね!」


 ラナは料理が大好きらしい。


「休みは月5日、交互に取ってくれ。メイド達を調理の補佐に付けるから指導も頼む」

「「ハイ!!」」


 旨い飯が期待出来そうだ。


「食費は1ヶ月大銀貨5枚だ。給金は1人大銀貨1枚ずつ」


 5人暮らしの一般家庭の食費の18倍くらいだ。


「そんなに有れば美味しい料理が出来ます!幸せ太りしそう」

「旦那様達の健康は私が守ります!」



「メイド長はパティ、仕事はメイド全体の管理で仕事の割り振り。メイド長補佐にフィーネ、仕事はメイド達の指導を。プリシラは浮浪者の女の子達を面倒見てくれ」


 浮浪者の女の子は全員メイドにする。


「畏まりました、旦那様の期待に応えて見せます」

「一応パティちゃんより年上だから何でも頼って頂戴ね?」

「はわわっ、あたしに出来るかなぁ?」


 プリシラからはドジっ娘の匂いがするな。


「休みは3人バラバラに取ってくれ。月5回だ。給金はメイド長が大銀貨1枚と小銀貨2枚。メイド長補佐が大銀貨1枚。プリシラが中銀貨1枚と小銀貨3枚だ」


 メイド見習いの女の子達は小銀貨3枚にしよう。


「色々決まったところで、家のルールだ。食事は1日3回、朝昼晩に、全員で同じ席に着いて同じ物を食べる。生活費は全て俺が払うから給金は貯めるなり小遣いにするなり自由だ。」


 食事に関してはこんな物か。


「風呂は時間が有れば自由に入ってくれ。俺が入って居ても構わないなら入って来い。他人(ひと)の部屋に入る時はノックして返事が返って来てからだ」


 共同生活のルールはこれで良いかな?


「税金は俺が払うから、パティが毎月市庁舎に人数分の税金を払いに行ってくれ。護衛に2人付ける」


 この国だと、毎月始めの1~5日に市庁舎まで払いに行く。貧民は税金を免除され、5人暮らしの一般家庭だと小銀貨1枚くらい、商人は収入の10%、貴族は収入の20%だ。


 奴隷は贅沢品扱いなので、1人に付き小銀貨3枚を主人が払う。俺は他国の人間なので、滞在中は小銀貨2枚。

 ユリア達の様な異種族は、街に滞在しないなら国に住んでいても税金は掛からず、滞在中は小銀貨1枚払う。



「それじゃ必要なことは決まったから夕飯の準備をしよう。食費は5日に1回大銀貨1枚渡すから、食材の買い出しは料理担当者1人、護衛担当者2人、メイドを必要な人数連れて行ってくれ」


 留守にする時は1ヶ月分を渡すことにする。





「旦那様に買って貰えて良かったね!」

「本当にな。旦那には感謝しないとな!」


 ここは市場。警備担当者のアリッサと料理担当者のラナが、主人であるトールの話題で盛り上がりながら野菜を買っている。

 客引きをする店主達の喧騒に負けないくらい、元気な使用人達の顔には笑顔が浮かんでいた。


「旦那様に頼まれた材料はこれで全部集まった~!」

「ミルクが重いですよ!」


 商売担当者のリネットとドジっ娘メイドプリシラの14才コンビはアイスクリームの材料を買う。

 ミルクが重いらしくプリシラがフラフラして、リネットにぶつかっては叱られている。


「お肉はこれで良いのかな?」

「頼まれたのは牛肉です。鶏肉と間違えていますよ」


 警備担当のエレノアが鶏肉を選ぼうとして、メイド長のパティに注意を受けている。


「それにしても旦那は優しいな!奴隷に堕ちた時は人生終ったと思ったのに」

「私は料理しか恩返し出来ないな~。ユリア様みたいに可愛くないし」


 野菜を買った後は魚を選び、鼻歌を唄って周囲の男達を和ませているラナは、世間では美少女で通用する事に気付いて無い。


「うきゃ~!…………痛いよ~」

「……もう、気を付けてって言ったのに。しょうがないな~」


 プリシラが案の定コケた。呆れながらも笑顔で助け起こすリネットは幸せを感じていた。


「牛肉はこれ?味見して良いかな?」

「いけません!生で食べるなんて!」


 エレノアは赤くて美味しそうと思い味見をしようとしたが、パティに手を叩かれて断念した。

 パティは次からはこの娘を買い出しメンバーから外して貰えないか、主人に相談する事を考えている。



 主人に任された仕事を終えて屋敷に帰る使用人達を、夕陽が急かす様に紅く染まる。

 早くもホロ酔いになっている者、家路を急ぐ遊び疲れた子供達、あちらこちらから夕飯の匂いがして、先を争う様に屋敷に走った。

 奴隷の首輪を付けていなければ、誰も彼女達を奴隷だとは思わない程に笑顔が溢れていた。


 屋敷に辿(たど)り着くと主人に挨拶をしてから、夕飯の支度に取り掛かる使用人達。

 誰もが張り切って忙しく動き回っている。その姿は学校の調理実習で、好きな男に料理を食べて貰おうとはしゃぐ女学生と何ら変わらない。


 警備担当の者まで、警備を忘れて料理をしている。トールが知ったら、大丈夫か?この屋敷。と心配しながらも喜ぶだろう。

 警備担当の者が下拵えで野菜を切り、直ぐにラナが味付けを行う。

 メイド達が食器を用意し、盛り付ける。1人邪魔をしているメイドが居るが、フォローされているので問題無い。

 メイが釜の蓋を外すと湯気を立てながら、ふっくらと炊かれた米の薫りが拡がった。


 一方、商売担当の2人は、主人に貰ったレシピ通りに材料を混ぜ合わせて、氷で冷やしながらかき混ぜている。


「固まってきたよ!」

「これを売るのですね!良い香りです!」


 リネットが喜ぶ。フレイは早速(さっそく)商売を考えてワクワクしているのが、その表情から読み取れる。

 甘いバニラの香りに誘われて、エレノアとプリシラが摘まみ食いをしようと手を伸ばす。

 パティが居なければ成功していたかもしれないが、気配も感じさせずに後ろに立ったパティの殺気に気付いて、伸ばした手を引っ込める。


「パティさん怖いよ~、魔物より怖かった」

「うう~、また失敗したです!」

「プリシラちゃん、私達の立場だと摘まみ食いに成功は無いわ」


 冒険者時代にも感じた事の無い殺気に怯えるエレノアの頭を撫でながら、ベアトリクスがプリシラを嗜める。


「……これ!!凄く美味しい!!」


 流石は元狩人、クララの気配を誰も気付かず、見事に摘まみ食いに成功した。


「あんたね~、冷たいアイスクリームよりもアタシの魔法で冷やしてあげようか?」


 どうやらブレンダも狙っていたらしく、先を越されて魔力を噴き出し怒っている。


「「「「「美味しい~!!!」」」」」


 結局パティ以外は摘まみ食いに走った。


「貴女達は……、旦那様より先に口にするとは何事ですか!!」





 夕飯が食堂に並ぶ前に、俺は衰弱して寝ていた女の子達が目を醒ましたとユリアに聞いて、名前と年齢を訊いた。


 人間族のセリーナ8才、ステラ10才、ティア10才、トリシア12才、ソフィー11才、ロザリー7才。

 ウサ耳族のフィル8才、猫耳族のノエル13才、犬耳族のモニカ6才、ドワーフの3姉妹、メグ15才、リン12才、レティ9才の12人だ。


 皆ガリガリで痛々しい。お腹に優しいスープを作る様に言って措いたから、ゆっくり食べれば大丈夫だろう。


「「「「「美味しい~!!!」」」」」

「旦那様より先に口にするとは何事ですか!!」


 いきなり響いた歓声と、パティの怒鳴り声にビクッとなる子供達をユリアと一緒にあやし、落ち着かせたところで食事が用意出来たと使用人達が呼びに来た。

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