異世界の森の中、オーガに出会いさっさと逃げる
初投稿です。宜しくお願いします。
眩しい光を感じて目を覚ます。上体を起こそうとして気付く。身体が驚くほど軽い。寝起きは毎回傷の痛みと共に迎える筈なのに、怪我が治ってる。こんなにスッキリなのは物心付いてから初めてかもしれない。
「起きたかの?若人よ。目覚めはどうじゃ?」
背後から柔らかな声が聞こえて振り返ると、長い白髪と髭を蓄え、彫りが深い顔立ちの白いローブ姿をした、如何にもな老人が居た。
その老人は、髭を擦りながら落ち着いた優しい目で俺を見ている。
その目を見ていると得体の知れない場所や身体の異変も気にならなくなり、自然と理解出来た。……俺は死んだのだと。
「意識は確りしているかの?自分が誰か判るかの?」
問われて自分の事を考えると全部憶えているようだ。死んだ理由も。
「俺の名前は武上透16歳。高校1年生で、部活は金がないからやらずにバイトしてた。1人暮らしをしたくて金を貯めてたけど、その金も親に巻き上げられて殺された」
子供の頃から虐待をされていたけど、ついに殺されたらしい。
毎日の暴力で身体が痛いし、バイトで疲れて殆んど抵抗出来なかったな。ロクでもない人生だった。
「うむ、君は虐待の末に両親に殺されてしまった。生きている間は儂も干渉出来んでな、助けてやれずスマンの。お詫びに君の様に他者が原因で不幸の内に死んでしまった者達は、希望を訊いて生まれ変わらせておる。何か希望は有るかな?」
「希望って……神様っぽいなと思ったけど、そんな事出来るなんて、少なくとも人間じゃないのは確かだな。何でも良いのか?」
「神とて出来る事と出来ない事は有るが為るべく叶えよう」
「それなら…………それなら違う世界に行きたい。あんな窮屈な世界は嫌だ!自由に冒険出来る世界で生きたい。理不尽な世界だって良い、好きに生きて死ぬなら本望だ!力が有れば自由に生きられる世界が良い!!俺はもう惨めな死に方は嫌だ!やるだけやって誇りを持って死にたい」
子供の頃から我慢して生きて来た。もう大事な事を我慢したくない。
「では地球とは違う世界で良いんじゃな?危険じゃし文明も地球程発達しとらんが」
「自分で勝ち取る自由が有るなら危険でも構わない。ただ、生まれ変わるんじゃなくて、このまま送って欲しい。もう親に振り回されるのは嫌だ。親の庇護は要らない。」
俺は俺のまま人生をやり直したい。負けっぱなしは嫌だ。
「ふむ、それが希望なら叶えよう。しかし向こうの人間として生まれなければ、魔力も無いし危ないじゃろう。文字の読み書きは出来る様にするとして、他にも何か力を与えるから、どんな力が欲しい?」
力……俺が望む力は……。
「立ちはだかる敵から奪う力。全ての敵を喰らい尽くす力が欲しい。奪われるのはもう嫌だ!!」
叫んだ瞬間、俺の身体から光が溢れ出す。
「これで君の望む力を得られた筈じゃ。どんな力かは向こうで確認してくれるかの?ステータスと念じれば見える様になる。そう言う世界のシステムが有る。知識も10代の平均的な知識を与えておくから。名前も好きに決めて良いから頑張るんじゃぞ?幸せにな」
「ありがとう。生まれて初めて神に感謝するよ」
何年か振りの笑顔で礼を言うと、神様は苦笑して腕を振るった。
俺の足下に魔法陣が光り出し暖かさに包まれた。
「それを言われるとツラいの。神も全ては救えんのでな。これぐらいしか出来ないんじゃよ」
「これだけで充分だ。あとは自分で頑張るよ。人生ってそう言う物だろ?」
「そうじゃが、若者はもっと周りに頼るものじゃ」
その言葉を最後に俺の意識は真っ白に染まっていった。
虫の鳴き声が聞こえる。川が近くに在るのか水の流れる音もした。
頬を擽る風は暖かく、甘い花の香りと気持ちの落ち着く緑の匂いを届けてくれる。
目蓋を刺激する眩しい陽の光が、俺の意識をハッキリさせた。
立ち上がり周囲を見ると、森の中の小川の傍に居た。
透き通る様な川で顔を洗うとその冷たさに目が覚めた。
流れの柔らかな水に俺の顔が映る。黒髪黒目の見慣れた顔にホッとする。
少し目に掛かる前髪から水の雫が落ちる。
飲んでも大丈夫そうなので、渇いた喉を潤すと、人心地付いてステータスを確認する。
レベル1、HP50MP30、あとはエクストラスキルだけ。
名前も無いのは自分で決めて良いからだろう。
エクストラスキルの説明を見よう。スキル名をじっと見ると説明文が出る。
俺の欲しがった力は、どんなスキルになったのか?
レベルイーター
自分のレベルと同じ分まで相手のレベルを奪って経験値に僅かに加算する。成功率は100%だが同じ相手からは3ヶ月間経過しなければ奪えない。有効範囲は半径10メートル。
ライフイーター
相手のHPを自分の最大HPまで奪って回復する。成功率100%だが同じ相手からは24時間経過しなければ奪えない。有効範囲は半径10メートル。
マジックイーター
相手MPを自分の最大MPまで奪って回復する。相手の使った魔法も吸収出来る。成功率100%だが同じ相手からは24時間経過しなければ奪えない。魔法に関しては同じ相手でも連続で奪える。有効範囲は半径10メートル。
この3つが俺の望んだ力らしい。便利だ。
相手を弱体化させ自分を強化するレベルイーター。
相手の生命力を奪って回復するライフイーター。
相手の魔力を奪って回復するマジックイーター。
魔法は半径10メートル以内なら何度でも無効に出来る。
何で連続で使えるのかは判らないけど、魔法は多分使う度に違う魔法と判断されるからだろう。
何にせよ、俺が強くなれば更に便利になる。奪いながら戦えば、大勢相手の長時間戦闘も可能になる。
この力を巧く使えば最強になれる。嫌な事は嫌だと自分の意見を押し通せる。
いっぱい戦って強くなってやる!俺の自由は誰にも奪わせない。
俺は拳より大きな石を拾い、敵を探して森の中を歩き出した。
道々食べられる木の実や小動物を手に入れて食糧を確保する。
上着を脱いで袖を結びバッグ替わりにして身体に括り付けた。
それから20分程で魔物を見付けた。貰った知識に拠るとオーガらしい。 体長3メートル程の青鬼の様な魔物だ。かなり強い魔物なのでレベル1じゃ無理だ。
気付かれない様に木や茂みに隠れて背後から近付きレベルを奪ってみる。
ステータスを確認するとレベルが4まで上がって居た。
恐らくレベル2の敵から1レベル奪うよりも、レベル20の敵から1レベル奪う方が経験値が多いのだろう。
俺自身もレベルが高くなればレベルアップに必要な経験値が上がるから、強い奴から奪わないと大して経験値が手に入らないだろう。
レベルが上がり最大HPも上がったので、ライフイーターとマジックイーターで奪い取るとオーガが方膝を付いて苦しんでいる。
意外に生命力が無いのか?俺の最大HPは75だぞ?
75までしか奪えないのにダメージが大きいな。
オーガは固いらしいので、今のレベルで素手じゃ倒せないけど逃げるチャンスだ。
よく見たら既に何かと戦ったのか、刀傷の様な傷があちこちに付いている。
冒険者とかにやられたんだろう。ラッキーだった。
隠れながら距離を取って、見えない位置に来たらダッシュで逃げた。
レベルアップ前より身体が軽く、早く走れる。
レベルが上がると身体能力も上がるみたいだ。益々レベルアップを頑張らないと。
エクストラスキルの理解も必要だ。他のスキルも覚えたい。
スキルの覚え方は、訓練して覚えるかスキルブックと言うマジックアイテムで覚えるかだ。
500メートル程距離を取って歩き出した。もっと弱い魔物でレベルを上げてからの方が効率的に奪える。
兎に角、街に着くまでにレベルを出来るだけ上げないと。
歩き回って魔物を探す。臭い匂いがする方に行くと、ゴブリンが8匹居た。
体長1メートル強の魔物で、知能は人間の5才児より若干高いくらい。100匹単位の群れで生活し、オスが食糧調達をする。メスが常に妊娠しているくらい性欲が強い。
なのでメスは巣で子育てや出産をしているため、巣の外に居るゴブリンは殆んどオスらしい。
余談だがゴブリン語のスキルを持った美人の女の学者がゴブリンと対話した時、物凄い勢いでブス扱いされて以来、その学者はゴブリンを見るとヒステリックに怒り出す様になったそうだ。
ゴブリンの美的感覚は人間とかなり違うらしい。女の子は安心だが、会話するとプライドが傷付くのでゴブリン語は人気の無いスキルらしい。
しゃがみ込んで焚き火で何かを炙っている様だ。多分ゴブリンの好物のクリエの実だろう。
黄緑色の苦い実だけど栄養が高く、1つ食べれば2~3日は飢え死にしないで済む。
腹はまったく膨れないらしいけど、貧乏人の味方だそうだ。
取り敢えず火とクリエの実を奪う為に仕掛けよう。
「グギャ、グギギギガァ」
茂みから飛び出した俺に気付いて、慌ててナイフやショートソード、斧を振り上げて襲い掛かる。
「悪いが容赦しないぞ?欲しい物は絶対に手に入れる」
火が有れば小動物の肉が焼ける。絶対に奪う。
囲まれる前にレベルイーターでレベルを奪うと武器が重くなったのか取り落とす。
その隙にライフイーターを使うと、8匹全部が倒れた。
どうやら自分より生命力の低い奴は即死するらしい。
色々試して手加減やターゲットを選べる様にならないと、街中や味方の居る所では使えない。練習が必要だ。
ステータスを見ると、レベル5になっていた。
レベルを奪った分の経験値と倒した経験値が入った筈だ。
ゴブリンじゃ経験値が低い様だ。それにレベルは上がっても戦闘経験が上がらないな。
丁度ゴブリンの持っていた武器が有るし剣術のスキルとか覚えよう。
今後の戦い方は、レベルイーターで弱体化してから、ライフイーターの練習をして、生き残った奴を剣で倒そう。
武器を全て拾いベルトに差す。ゴブリンは1ヶ月程で子供を産むので殖えやすい。なので常に討伐依頼が出ている。討伐証明の耳を削いでから、ゴブリンの持っていた火打ち石を奪った後、火を使って小動物の肉を炙ってかじりつく。
調味料は無いが、脂が滴り落ちるくらいなので美味しい。
食べ終わり火を消してから川の方向に向かって歩き出した。
感想返しは余り時間が取れそうにありません。時間の有る時に見ております。