思いが届くようにとほんの少しだけ祈る夜 2
成人のお祝いの式を翌日に控えた夜、睡湖の部屋を尋ねた。
式の後にしようか迷ったのだが、最後の甘えていられる時間に渡したいと思ったので前日にした。
怒られる事に心当たりがありすぎて、許してもらえるようにという思いもある。
「睡湖、成人の御礼に贈り物があるんだ」
仕事が終わったらしい睡湖に手を差し出した。
私の手に乗った物を見て、一瞬睡湖は凄く驚いた顔をした。
「金細工の腕輪?お前何で…」
こんなに驚いてる睡湖なんて滅多に、いや全く見たことがない。
「デイオラールが言ったんだ。睡湖の故郷では忠誠の証に腕輪を贈るって。
それにこれは悠玄の腕輪らしいよ。有名なんでしょう?」
私の言葉を聞いて、驚きから面白そうな表情に変わった睡湖はこう言った。
「まぁ間違ってはいない。腕輪を贈り好意や忠誠を示すこともある。ただな、そういう時には金細工の腕輪は使わない」
頷く私を見て、睡湖は少し間を置いて言った。
「金細工の腕輪を贈るのは求婚を意味する」
其れを聞いて思わず馬鹿みたいな表情をして聞き返してしまった。
「求婚?」
あまりに私が驚いているのを見て、睡湖はとうとう吹き出して笑った。 これはこれで珍しくもある。 何事かと様子を見に来た執事や女中の人もみんな驚いた顔をし、そして悪い事ではないとわかったのかそっと部屋から去っていった。 しかし私はそれどころではない。
「そう。そして、護莉聖殿の話にちなみ、金細工の腕輪を求婚に使う悠玄の腕輪と呼ぶんだ」
睡湖の言葉を聞いて、デイオラールの意味深な顔を思い出した。 ああ、騙された。
あの笑いはこういうわけだったんだ、と心中に怒りが彷彿してくる。
けれど知識不足だったのも事実。
気まずさと、恥ずかしさがない交ぜになって顔が真っ赤になってる気がする。
「ごめん、睡湖。じゃあ別の贈り物を探してくる」
そう言って手を引っ込めようとしたが、その前に腕輪をとられて仕舞った。
「いいさ、面白い。綺麗だしな。貰っておこう」
そうして睡湖は腕に付けてしまった。
踵を返し出て行こうとしたら、腕を掴まれた。
何となくやばい気がする。
「胤麗」
仕方なく振り向いた。
手は離してくれないけれども。
「しかしね、俺に黙って外に出たのは感心しないね。
しかも行き先はフェリシルローゼ。
ヌヴィーをつれることなく、少し離れた通りから辻馬車を拾い乗り換えて最後は徒歩で行ったんだって?
真夜中に」
何でそこまでばれてるのだろう。
別の意味で凄く気まずい。
手が伸びてきた。
殴られるかと思い身構えたものの。
「お前も、大きくなったもんだ」
睡湖は私の頭を一撫でして、其れで不問になった。
実は、凄く怒られるかもと思って居たので、安心というよりは寧ろ不安がよぎったのは内緒だ。
成人しても何も変わらない、少し一人でする仕事が増えただけ、というのが実際のところだ。
しかもあの晩以来、館の出入り口に睡湖しか開けない鍵がかかるようになって仕舞ったのは、仕方ない。
でも睡湖はあの腕輪を着け続けてくれているし、手入れもまめにしていてどうやら気に入ってくれたみたい。
結局贈り物はうまくいったからよしとしよう。