始まりも終わりもきっと雪に埋もれている
今も鮮明に覚えている。
これからも忘れることはないだろう。
出会ったあの日を。
雪が、しんしんと降っていた。
何日も続く雪は地面を厚く覆い、街中の人は家に引きこもっているような時だった。
私は捨て子だったので教会で育てられていた。
そこには同じように引き取られ育てられている子供が沢山いた。
ただ、私はいつも酷く苛められていた。
あまり憶えてないけれど記憶のある限りずっと殴られていた。
碧の右目と琥珀の左目。
切って整える事すら出来ず長く伸びた黒髪。
全てがあの教会の中で異質だったのだろう。
どうして皆と同じ金髪碧眼ではないのだろう、そう悲しんだことは数え切れないほどある。
教会は決して裕福ではなく、子供たちはぎりぎりの生活をしていた。
まだご飯をもらえたことは幸運だったのだとは思う。
それでも、不満の矛先は私のような異質な存在に向き、いつも私は殴られ蹴られ食事すらとることも出来ず死にそうな体で生きていた。
どうして死ななかったのか疑問ですらある。
その雪の日、教会からの使いを逐えた帰り道、前日に激しく殴られた反動か、寒さと痛さとひもじさで建物と建物の間の小さな隙間で意識が飛んだ。
どれくらい時間が経っていたのかはわからない。
暫く気を失っていた。
そして何か、温かいものを感じ、目を開けると目の前に綺麗な人がいた。
目の前の人は少し驚いた顔をして、言った。
「まだ生きていたんだな。面白い目をしている。お前は生きたいか?」
雪が降り続いていて、でも周りはしんと静まりかえっていて、自分はきっと死んでしまったのだろうと思った。
目の前の綺麗な人は死神で何か言っているのはわかったけれどそれを理解するほどには余力が無かった。
ただ、頬に触れた手が温かくて、死んだ後にも温かい物があるんだと何となくほっとした。
「生きたいか?死にたいか?」
綺麗な人はまた何かを言った。
なんて言ってるかはわからなかった。
ただ、温かい手が離れるのが寂しくて、全部の力を振り絞ってその手を掴んだ。
そして、また世界が暗転した。