ひいらぎ 2
居間には豪奢な椅子に華やかに着飾られたひいらぎがぽんと置かれた人形のように座っていた。
閉じた眼瞼の睫毛が長く陰を曳いている。
目前に立つと、ぱちりと眼瞼が開いた。
焦点が私に会うと、ひいらぎは少し驚いたような表情をした。
わずかに見開かれた眼と口はやはり精巧な人形の様なのに、その動きはやはり生き物に特有なもので、なんとなくがっかりした。
聞こえないの
聞こえないの
いつものあの声が
いつものあの声が
突然ひいらぎが歌い出した。
それでも 出会ってしまったから
戻ることは出来ない縁
見つけたわ
離れることも出来ないの
歌声は館の中で聞いたものと同じで、ああやはり夢ではなかったのだと思った。
それでも、知らなければ良かった。
こんな歌があるなんて。
こんな声があるなんて。
知ってしまったらもう戻れない。
私は体中に細く切れない糸が巻き付いているような気がして体をぬぐってみたけれど、手のひらには何も掴めはしなかった。
そして、はっと気づいた。
糸が巻き付いてるのは体ではなく心だった。
歌が終わると、がしゃんと大きな金属音とともに鳥籠が落ちてきた。
磨かれた艶やかな鉄の策はひんやりとしていた。
籠はひいらぎの周りを取り囲み、こうして籠の中の鳥になった。
私は毎日毎日ひいらぎに食事や水を運び、気が向いたように歌う歌声に聞き惚れた。
ひいらぎは思いついたように手を伸ばして私の頬をなでときに抱き寄せたりもした。
しかし、そこには某かのものが込められてはいなかった。
そう、単なる思いつきにしかすぎない様だった。