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透明な雨  作者: とも
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遠い昔の恋物語 3

泣き果て眠り目覚めては泣くのを繰り返し、どれだけ経ったかわからない程に時間が経つとやがて莉祥枇姫は泣くのを止めて考えこむようになった。

もともと聡い姫であったのでただ嘆くだけではすまなかった。

何故、こんな事になったのだろう。

いろいろな事を考えて、また長い時間が経った。

そして、何時しか悠玄の欠片を探し出そうと思うようになった。

今までも其れを考えた事はあったが、それが何かわからず、夏志津羅葦留名神に尋ねる事も出来ず、また神の世界には其らしいものがなかったため結局諦めていたのだ。

しかし、皆に知られてしまった今となっては神の世界には居られないし悠玄の欠片を探してみるというのは大変名案に思えた。

そこでとりあえず、一番近くに存在し、しかし神からは果てなく離れた存在である人間の世界に行く事を決めた。

欠片のない莉祥枇姫には人間になる事はできなかったが、髪の色や目の色を変えて人間に近くしてみた。

しかしそれでも美しさを損なう事はなく、体からは神々しさが溢れでていたのだった。


人間の世界は姫にとって驚きの連続だった。

神にはないずるがしく汚く愚かな面もあったが、一方で信じられないほど優しく綺麗な面もあった。

欠片を探しながら人間と交流していくうちに、莉祥枇姫は人間を愛しく思うようになっていった。

そして、やがては弱者の為に各地で戦うようになった。

莉祥枇姫はいつしか戦の女神と呼ばれていた。

戦が終ると姿を消す、決して老いる事のない女神。



長い長い時間が経った。

それでも欠片は見つからなかった。






雅燎蘂姫は死んで生まれ変わっては、姿、記憶など何もかも無くしても決まって悠玄の欠片を探し続けた。

そして、何かを見つけては戦の女神と呼ばれる莉祥枇姫に会いに行き彼女と供に戦い、死んだ。

どんな姿をしていても、莉祥枇姫は雅燎蘂姫の生まれ変わりを、それとは知らずに、愛した。

愛するものを失う事を悲しみながらも、莉祥枇姫は愛さずにはいられなかった。



「私の剣は貴方に捧げます」



護燿匱の誓いの剣を、僅かに躊躇いながらも莉祥枇姫は受け取った。



「ありがとう」





南の戦場に行く途中の広い砂漠の只中、日を避けて動き出そうとした夜の事だった。

一人歩いていた莉祥枇姫に、遥か西の国、海を越えて噂辿り莉祥枇姫を探し追いついた若者、それが護燿匱だった。

夜が始まろうとした時、漸く目を覚まし歩きだそうとした莉祥枇姫は呼びとめられた。

見ると、精悍な顔出しをした若者だった。

一体どういう事かと尋ねると、幼い頃から貴方を探してたんだという。

そして、やっと貴方に会えた、剣を捧げたい、と若者は言った。

莉祥枇姫は心のままに動くのが良い、といい、旅路について来ることを了承したのだった。

若者は護燿匱といい、強く賢くそして何事にも真っ直ぐで熱心だった。

旅にもなれているらしく、けして莉祥枇姫の足を引っ張る事はなく、むしろ彼女の大きな助けになった。

いつしか、彼女は彼が居ることが当たり前のようになった。

あと数日で砂漠を抜けるといった時、護燿匱は剣を捧げる誓いをたてたい、と言った。

十六夜月が優しく見守るなか、護燿匱は剣を立て誓いの言葉を口にした。

莉祥枇姫が剣を受け取った時、突然小雨が降り 出した。

夜空には雨雲など何処にも見当たらないのに、このどこか温かい雨は一体どうした事だろうとは思ったが砂漠では大変貴重なこの雨に二人は敢えてうたれていた。

二人を包み込むような雨の中、いつしか莉祥枇姫はふと悟った。

あぁ、私は悠玄の欠片を見つけたのだ、と。

それが何かはやはりわからなかったが、しかし、見つけたという事はわかるのだ。

護燿匱の差し出した剣を受け取った自分は確かに欠片を見つけていて、しかしそれは手に入れる事も出来ないのだとも悟った。

あんなに探していたものが見つかったというのに、不思議と嬉しくも悲しくはなかった。

ただ、なんとなくほっとしていた。

不思議な雨はしばらく振り、いつの間にか止んだ。

空は何事もなかったかのように月が輝いていた。




二人は幾多の戦場を乗り越え多くの人を救い、二人の話は世界中に広まった。

二人の絆も何物にも替えがたい程に強くなっていった。

やがて二人は海を渡り西にゆき、或る国にたどり着いた。

其処は、護燿匱の故郷であった。

またこの国は雅燎蘂姫が人間となり最初に降り立ち、また亡くなった国でもあった。

雅燎蘂姫は美しく優しく、悠玄の欠片を探しながらも子供達に勉学を教えたり、貧しい人を無料で治療したりと人々の為に活躍していた。

その為、多くの逸話が残っていた。

この国に来て初めて莉祥枇姫は雅燎蘂姫が自分を追って人間となりこの世界に降りていた事を知った。

護燿匱に案内されて、雅燎蘂姫の最期の庵を見に行った時には、雅燎蘂姫の深い思いがなんとも言い難い程に伝わってきて胸がいっぱいになったのだった。

また、隣に立つ護燿匱を見たとき莉祥枇姫は護燿匱が雅燎蘂姫の生まれ変わりなのだろうと、なんとなく感じた。

そしてより一層愛しさがこみあげてくるのだった。

二人は庵を後にすると、護燿匱の生家に向かった。

それなりに名の知れた商人の家であった。

護燿匱には両親、祖父母、二人の兄、一人の姉と妹がいて、皆二人を温かく迎えてくれた。

そこで二人はしばらく滞在することにした。

満月の明るい夜、護燿匱は莉祥枇姫を庭に連れ出した。

二人は月明かりの下、広い庭園を歩いていた。

なんとも心地よい風が吹き、二人は沈黙の中庭を堪能していた。

少し広まった所に出ると、護燿匱が意を決して話だした。


「莉祥枇姫、愛している。此れを受け取ってはくれまいか」


そうして護燿匱が差し出したのは、細い金細工の腕輪だった。

この国では子供が生まれると親が金細工の腕輪を送る。

そして愛の誓いを交わす時其れを交換するのが習わしとなっていた。

莉祥枇姫ははにかみながら、其れを受け取った。

いつの間にか柔らかい雨が二人を見守るようにふっていた。

優しい雨に打たれながら腕輪を手首に通したとき、莉祥枇姫はふと理解した。

ああ、私は欠片を手に入れたのだと。

そして、莉祥枇姫は護燿匱に言った。

「護燿匱、私も愛している。私には差し出せるものは無いけれど、私は片時も離れる事なく貴方の側にいる」




二人はまた幾日かして護燿匱の家を後にした。

そして世界各地を飛び回り、供に寄り添いながら、活躍した。

しかし、ある時護燿匱は傷を受けそこから化膿し臥せってしまった。

莉祥枇姫がありとあらゆる手を尽したものの、甲斐なく護燿匱は死んでしまった。

彼は死の間際にこう言った。


「私は死して魂だけの存在になっても、輪廻の輪に入り生まれ変わる事なく、貴方の傍にいてずっと見守っている」


莉祥枇姫は深く深く悲しんだ。

そして知らぬまに遺体の傍らで月明かりの下夏志津羅葦留名神に祈っていた。

護燿匱が安らかで居られるようにと。

その思いを聞き届けた夏志津羅葦留名神は欠片を手に入れた莉祥枇姫に、神として戻ってくるかと言霊を届けた。

莉祥枇姫はしかしうなずくかわりにこう願った。

「叶うなら、神になるのではなく私も護燿匱と同じ魂だけの存在となり、供に在りたいのです」


夏志津羅葦留名神はその願いを聞き、一途な二人の思いを知ると、二人の魂を神の世界の片隅にある恒久の庭園に運び、かりそめの姿を与え、二人に庭園の管理を任せた。

二人は驚いたものの、夏志津羅葦留名神に感謝した。

そして、二人はかりそめの姿が尽きるまで、安らかに幸せに暮らした。




護燿匱の遺体を葬る手伝いのため、二人を知る友人達が二人の小屋を訪れた時、其処には護燿匱の遺体も莉祥枇姫の姿もなかった。

ただ遺体の置かれていた寝台の側に莉祥枇姫が終生手放さなかった腕輪が落ちていた。

友人達は、二人が神のもとに旅立ったのだろうと悟り、墓碑の代わりに社を作り腕輪を形見に二人を奉った。

それが今の莉護聖殿である。


とりあえず、ストックはここで終了です。

そのうち 続きを書きます。

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