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透明な雨  作者: とも
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遠い昔の恋物語 2

莉祥枇姫はいわゆる『出来損ない』であった。

全ての起源、夏志津羅葦留名神(かしつらいるなしん)は二百八十四の神を作った。

莉祥枇姫は二百八十三番目の神となるはずだった。

しかし、何故か姫は悠玄の欠片を落として生まれ出てしまった。

姫は悠玄の欠片が何であるかということはわからなかったが、何かを欠いている事は悟った。

最初は欠けた事に気付かれないよう騙し誤魔化し過ごしていた。

美しく強く優しく聰明な姫は莉祥枇姫と呼ばれ、皆付き従っていた。

とはいえ、欠けてしまった部分は少しづつ姫の見えない何かを蝕んでいた。

やがて、可愛らしい妹が生まれた。

名を雅燎蘂姫(がりょうずいひめ)という。

莉祥枇姫は初めての妹として、雅燎蘂姫に深い愛情をかけた。

それこそ、欠片を埋めるかのように。

果たして、雅燎蘂姫も自慢の姉と莉祥枇姫をとても慕った。

あと幾年経てば漸く一人前の神の一人と認められ、夏志津羅葦留名神の神殿の柱に二百八十三番目に名を刻む事ができるようになった頃、とうとう恐れていた事態が起きてしまった。



雅燎蘂姫とともに、二人で織った反物を夏志津羅葦留名神に捧げに参じた時の事である。

反物の出来栄えに感じいった夏志津羅葦留名神が賞賛し二人の頭を撫でた。

初めて夏志津羅葦留名神が莉祥枇姫に触れたその時、全てがばれてしまったのだ。

夏志津羅葦留名神は欠けた部分のある莉祥枇姫は出来損ないであり、神に名を連ねる事は出来ないと公然と口にした。

その言霊は天地を駆け抜け、周く莉祥枇姫の秘密は知られる事となった。

秘密を知った者は皆一様に手のひらを返し姫をけなし始めた。

その事を理解した瞬間、莉祥枇姫は山奥、地の底の底、日の一筋も入らないところへ潜り、一人嘆いて暮らした。

ひたすら、泣き、涙枯れては疲れて眠った。

欠片のせいで神への成長も止まってしまっていた。

しかし、出来損ないとはいえ神の一人である莉祥枇姫はそれでも美しさを損なう事はなかった。



一方、雅燎蘂姫は一連の出来事を自分のせいではないかと思い悩み、遂には夏志津羅葦留名神に莉祥枇姫を許してあげてと嘆願したのだった。

雅燎蘂姫の必死の言葉を聞いた夏志津羅葦留名神は穏やかにこう言った。

「私は莉祥枇姫を怒っているわけではない。

確かに欠いていた事を隠匿していたのはよくなかったとは思うけれど、欠片を落としてしまったのは姫のせいではないのだからね。

それは全く運が悪かったとしかいいようがない。

しかし、だからといって姫が神になることは出来ない事は変えようのない事実なのだ。

悠玄の欠片なくしてはどうする事も出来ないのだ」

雅燎蘂姫はなおも問う。

「夏志津羅葦留名神様なら何とか出来ないのですか?」

夏志津羅葦留名神は首を振って言う。

「それは、どうする事も出来ない事なのだ」

雅燎蘂姫は床に伏して嘆いた。

「あぁ、私が反物を織るなど誘わなけば」

夏志津羅葦留名神はそんな姫を見て心を痛めた。

「お前が悪いのでもない。ただ、そういう時の流れだったのだ」



姫は暫く伏せっていたがやがて心を決めたかのように顔を上げた。

「でも、でも、辛いのです。

あぁ、夏志津羅葦留名神様、悠玄の欠片を見つけ出したら、姉様は神に成れますか?」

その言葉を聞いて、夏志津羅葦留名神は頷いた。

「恐らく、成れるだろう」

それを見て姫は明るい表情になった。

「じゃあ、私」

姫の言葉を遮るように夏志津羅葦留名神は言った。

「残念ながら、悠玄の欠片がどんなものかは誰にもわからないのだ」

しかし、その言葉すら姫には躊躇にならなかった。

「それでも、私、大好きな姉様のために、探します」

固い決心が伝わったのだろう、夏志津羅葦留名神は溜息をついて言った。

「分かった。そこまで言うのなら、行きなさい。

悠玄の欠片は死すべき定めにある人間の世界に落ちたという。」

姫はなお言いつのる。

「それならば、私も神より人になりましょう。その方がきっと見つける事が出来るはず」

夏志津羅葦留名神は愛しい娘の強い決心が揺るぐことがないだろうと思いながらも、続けた。

「しかし限りある定めの身、それでは永遠を生きる莉祥枇姫に会うことが出来ないかも知れない」

姫は美しく微笑んでいった。

「大丈夫です。例え死んでもまた生まれ変わります。

姿が変わろうとも、きっと私は姉様のために欠片を探し、姉様に会いに行きます」

そして、最後に一礼して風のように夏志津羅葦留名神の前から姿を消した。

「夏志津羅葦留名神、二百八十四番目に名前を刻む事が出来なくてごめんなさい。

遠くに居ても、私は貴方の二百八十四番目の娘、心よりお慕いもうしております。

もう会うことも叶いませんでしょう。さようなら。患なきよう」



こうして、雅燎蘂姫も知らずして莉祥枇姫の後を追うように人間の世界に下りていった。

夏志津羅葦留名神は可愛い二人の娘に起きたた事を悲しみ、それ以降神を作るのを止めてしまった。

そして、辛い運命の波に呑まれてしまった二人に幸いあれと人間の世界に瑠璃の華を降らせた。

それは、優しい雨となり人の身となった雅燎蘂姫と人に身をやつした莉祥枇姫を温かく包んだ。

また夏志津羅葦留名神は昼は世界を見守らなければならない為、世界が寝静まっている夜に月となり二人を見守る事にした。

今でも、探し物は柔らかい雨の降る日にするのが良いと言われている。

また夜に始めた事は最期まで思いが叶うと言われている。


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