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三題噺「エビ、カキ、イカ」

作者: 三木こう

 それは、例えるならばエビフライのように甘美な曲線。

 左右の髪の毛を縛り上げ、エビの尾にあたる部分にはリボンでアクセント。鼻に乗せられたメガネがさらに彼女の魅力を引き立てる。

 それは、例えるならばカキフライのように栄養満点な楕円。

 健康的な肌から伸びた首筋ぐらいの髪の毛は、乱雑に後ろで結えられている。楕円を描くポニーテイルがふりふりと動くたびに食べてくださいと自己主張しているようだ。

 それは、例えるならばイカリングのような完成された真円。

 一切の歪みなく、綺麗に束ねられた左右の髪の毛は真円を描く。髪の癖、整髪料との兼ね合い、ドライヤーの使い方、すべてが最高水準でマッチしなければ実現しないだろう奇跡の実演。


 僕は彼女たちを見るたびに、いつもそんなことを考える。

 頭の中はエビとカキとイカで一杯になり、授業の内容も頭に入ってはこない。もうずっとこんな生活を続けている。きっと、イヤラシイ意味なんてなく、彼女たちをおかずに僕はご飯を3杯は食べ干すことができるだろう。

「おいしそうだなー」

 場合によっては危ない人の発言だった。

 時刻は昼過ぎ、なんとか午前中の授業を終え、束の間の昼休み。僕の視線は一箇所を向いていた。

「エビちゃんのエビフライ、おいしそうだね」

「カキちゃんのだっておいしそうじゃない。わたし、生牡蠣はだめだけど、フライだと食べれるんですよね」

「そんなのより、イカフライだよ、イカフライ! このね、形がいいの、形が」

 なんの会話だよ、と突っ込みたくなる。

 僕の視線の先にいるお三方は、今日も美味しそうに昼食タイムを過ごしていた。脳内での設定だけではなく、彼女らの名前は海鮮類で統一されていた。しかも好物まで自分の名前の海鮮類というのは、親御さんはいったいどんな食生活を彼女らに提供していたのだろうか。まあ、僕の苗字も磯野だから、似たような境遇であるわけだけど。

 横目でうらやましそうに彼女たちを見る。

 できれば、あんな美しい彼女たちにまざって僕も食事の時間を過ごしたい。けれど、現実は僕の周りにいるのは男ばかり。

 と思っていたのだが、

「悪い、今日俺昼練だわ、一人で食ってて」

「えっ、まじかよ」

 どうやら今日は最近流行りの一人飯らしい。

 うなだれながら母親の作った弁当箱を手に取り、今日も野菜多めのおかずなんだろうな、と溜息をついていると、ひそひそとした話し声が聞こえてきた。

「ね、ねぇ、磯野君。一人みたいだよ?」

「ど、どうしましょうか?」

「もー、カキちゃんも、エビちゃんもそんなんじゃだめだよ。いっちゃえ、いっちゃえー。っていうか、あたしがいけばいいのかー」

 ただ、最後の方はもはや、ヒソヒソ話じゃなかった。

「ねー、磯野君。一緒に御飯食べよ! 暇みたいだし、さ。どぞどぞ」 

 イカちゃんに連れられる形で、まさかの参入。

 三人の机が合わさったスペースの脇に、いそいそとその辺りから借りた椅子で座り込む。

「いや、なんか突然で驚いた」

「ごめんね、磯野君。でもわたしたち、みんなあなたのこと気になってたり……」

「はわわ、磯野君だ、どうしよ、どうしよ……」

 こそばゆい沈黙が辺りに広がっていく。

「もーいいから、食べよ。食べよ」

 イカちゃんに促されて、弁当を開く。残念、今日も僕の食事は白米に、磯辺揚げやら、ほうれん草のソテーなんていう男子高校生的に質素なものだった。

「ごめん、ひとつだけお願いがあるんだ」

「な、なにかな?」 

 焦ったように、伏し目がちになりながら、エビちゃんが答える。そんな姿に、僕も心を決めた。

「お弁当のおかず、わけてくれない?」

 やっとのことで口にする、溜まりに溜まった願望。

 どうしても彼女たちの顔を見るためにチラついた黄金色の誘惑。

 何故か彼女たちはぽかーんと呆れたように僕の方を、頬を染めつつ見つめ返していた。

お題は「エビフライ、カキフライ、イカリング」

カキフライが上手く処理できなかったなーっという感想です。

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