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よかった、噓告されたオレはいなかったんだね  作者: 小宮地千々


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6/9

旅行にいくヨ!

 フレッシュネスだった店が帰国したらキングになっていた。

 何を言っているかわからないかもしれないが嘘のような本当のとあるF県F市某地下鉄駅近くのハンバーガーショップに関する話だ。

 三年という月日を実感させた一つである。

 行ったこと無かったけど。

「――というわけで、ゴールデンウィークは三人で旅行します」

 そしておどろきで耳を疑いたくなるという点では、席に着くなり口を開いた天辺(あまべ)キノエさん(彼女)の話も中々だった。

「えっ」

 どういうわけだろう。

 キノエが唐突なのはわりといつものこと過ぎるけど、オレがなにか聞き逃していただろうか。

「?」

 そう思ってキノエの隣のもう一人のオレの彼女、横中(よこなか)ミカを見ると彼女は不思議そうに首をかしげるとオニオンリングを一個差し出してきた。

 そうじゃないんだけどもいただいておく。

「あんがと」

「ん」

 ミカはなにか満足げでその表情は優しかった。

 お母さんみたい。

 オニオンリングを食べ終えてから控え目に挙手する。

「はい、リクくん」

 元気いっぱいにキノエがオレを指さす。

「あのオレ、ちょっとバイト入れようかなって思ってたんだけど」

「それは今度ね!」

「ええ……」

 強引。

 そう思いながら再チャレンジすべく手を挙げる。

「はい、リクくん」

「オレ、あんま金ないんだけど」

「あたしたちが出すから平気平気」

 積極的には彼女に伝えたくない事実を告げると、当たり前のようにキノエは胸を張る。

 たのもしさより危うさを感じるよね。

「いやいやいや」

「なに?」

 ぱたぱたと手を振るとキノエじゃなくてミカが不思議そうに言った。

 ――おっとこれは完全に一対二かな?

 勝ち目が一気に無くなかったのを感じる。

 それでも、通してみたい意地があるんだ。

「いやー、彼女のおごりで旅行はきついっス」

 おもに精神面で。

 あと実際面でも。

「でもようやく再会してからの長い休みだし」

「おかしいな。入学前の一週間って無かったことになってる?」 

 三年間思いをため込んでいたアスリート二人に溺愛されて生きながら干からびていく気持ちになったオレもいるんですよ。

「あれはえっちしてただけだし」

 そう思っていたらキノエが頬を膨らます。

「ノリノリで要求してた人にそんな不満そうに言われましても……」

 あともう少し声を落として欲しい。

「でも、リクもOKしてくれた」

 そこへまたしてもミカからも追撃が入る。

 それは断りきれなかったから……と言ってしまうと角が立つなあ。

「『も』ってことは二人の意思もあるくない?」

 なので別方向からアプローチを試みる。

「やっと遠距離恋愛が終わった彼女としては当然」

「そーそー!」

 ダメみたいですね。

「遠距離中はまだ彼女ではなかったはずでは……?」

 しかもこちらには二人ほどに我慢していた事実がないので弱い。

 いや、友人的存在としての再会はもちろんオレも楽しみにしていたけどね?

「三年間も待たされたんだよ。付き合ってすぐ旅行くらいするでしょ」

 そうかな……そうかも……?

「こうなると逆にカナダに押しかけてこなかったことが不思議に思えてくるな」

「つきあってない相手のところに押しかけるのはちょっと」

「しかも海外までは重いよねー」

「なんだろう。言ってることは正しいはずなのになにか納得がいかない……!」

 二人して立場を便利に変換させすぎでは?

 悪あがきをするオレにキノエがポテトを突きつけながら言う。

「もー、リクはあたしたちとおでかけしたくないの? はいかイエスで答えてね」

「もう選択の自由すらないじゃん」

 オレの自由意志、どこへ!

 あとそれにイエスって言うとお出かけしたくないことにならない? あれ、英語的表現? 日本語だとどうなるんだっけ……(混乱)。

「新婚旅行の予行演習だと思って、ね」

「重さが増した……! それも三人ではおかしくない?」

 もしかしてオレがカナダにいる間に日本って少子化対策とかいって重婚可になってたりするんだろうか? 異次元が過ぎる。

 少子化対策って言っとけばなんでも許されると思うなよ。

「――ちな、どこに何日の予定?」

 これ以上の抵抗は無意味と悟り、いったん受け入れる方向でたずねる

 ワンチャン近場で日帰りとかなら……と希望にすがったオレの思いは当然のごとくすぐに打ち砕かれた。

「三泊四日の台湾旅行!」

「まさかの海外……!」

 またしてもブルジョワジー……!!

 やばいな。想像の二段階くらい上だった。

 泊りでもせいぜい九州内におさまるだろうと思ってたのに。

 ミカを見てみるもこっちもこっちで平然としている。

「二人ともそんな金あんの? 高校はバイトする暇とか無かったんじゃ……」 

「パパがお小遣いくれるよ?」

「同じく」

「ぐぅっ」

 思わずダメージボイスが口をついて出る。

 なおこの場合の「パパ」は二人とも生物学上ならびに戸籍上のお父様のことであり、いかがわしさは一切ない。

 変に意識したオレが悪い。いや、社会が悪いか?

「リク?」

「どうしたのー?」

「い、いや格差を感じてた」

 ともあれ各ご家庭の方針に他人としては口をはさみづらい。

 二人の家が娘さんに海外旅行を奢るならそれもいいだろう。

 でもオレは経済的にキツイ。無理じゃあないけどキツイ。

「リクもパスポートあるし、ちょうどいいでしょ?」

「御値段がちょうどよくなさそう……」

「えー、でももうホテル取ってるし。三人分」

「行動力の化身……!」

 ゴールデンウィークって時期を考えたら多分早めにとっとかないといけないんだろうけども。

 いや、海外だと関係ないのか?

「一月に」

 判断が早い。

「さすがに早ない? もしかしてオレの合否がわかってすぐ決めた?」

「え、よくわかるね?」

「いやいやいや……」

 ご自身の進路が定まってない時期に何やってんのこの子。

 合否どころか二人は前期試験の前のはずでは?

「というわけで初のお出かけデートは台北(タイペイ)です!」

「グローバルが過ぎる……これ卒業旅行とかどこに行くことになるの」

 そして新婚旅行は宇宙とか言い出さない?

「あ、卒業旅行は私はメテオラ見に行きたい」

「ギリシャはテッサリア地方……!」

 世界遺産かぁ……。

 ここは長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産とかもいいんじゃない?

「ならあたしリッチモンド!」

「あ、いいね」

「ギリシャと方向真逆すぎるでしょ」

 なに? ユーラシア横断してギリシャ行って、大西洋と北米大陸横断してバンクバーに行って太平洋も超えて戻ってくるの?

 一周しちゃってるじゃん、地球。

 あとそこまで見るところないよその街、ギリシャのあととかがっかりすると思う(失礼)。

「飛行機代だけで腰抜かしそう」

「マイレージ貯めとかないとね!」

「そのためにはまた消費活動が必要なんよ」

 これもしかしてちょっと長い休みがあるたびにオレは飛行機に乗せられるんじゃないだろうな。

「二人ともそんな旅行好きだっけ……?」

「ん。今まではそんな時間もなかったから」

「そうそう、楽しまなくっちゃ」

「あぁ、部活」

 よくよく考えれば当然だった。

 中学まではまだしも、高校は県内ではバレーの有力校らしいし。

「それに――」

「それに?」

「あたしもリクみたいに違う国の文化、見てみたいし?」

「私『たちも』ね」

「あーね?」

 うーん、つくづくプレゼン力が強すぎる。

 そう言われると将来の地球一周も断りづらくなるなあ。

 これはオレの押しが弱いわけではないと思う、それだけは訴えておきたい。

「でもそうなるとやっぱバイトしないとなぁ……」

 特に卒業旅行に向けて、さすがに三桁万円はいらないよな……?

 念のために備えと覚悟はしておこう。

「あたしたちが出してあげるって」

 そしてそんなオレの決意をあっさりとくじこうとしてくる小悪魔さん(百八十一センチ)。

「それはマジでオレの恋愛観が取り返しつかなくなりそうだからやめよう」

「ええー」

 恋愛にルールは無用っていっても限度があると思ってるんだ。

 想像してみろ。

 大型犬みたいにじゃれてくる美人な長身女子にさんざん甘やかされたあとでフラれることを。エグイなんてもんじゃない。

「大丈夫だよリク」

「なにが?」

「もしキノと別れてもまだ残機があるから。心配いらない」

「ここでツイン彼女システムの強みを活かしてくる……!」

 だからそれだとオレの恋愛観が粉々に砕け散ってもう元の形に戻れねーのよ。

 どうしてくれんの、こっからもう一人彼女増やしたいなあとか言い出したら。

 しかも意外と自分を残機扱いしている……。

「別れないし!」

 そしてキノエさんはオコだった。

 まぁ無理もないよね。

「リクが泣いて別れてくれって言ってきても別れないから!」

「いやそんときは別れてほしい……」

 本気っぽくてこえーよ。

 やめてよね、キノエがガチったらフィジカルで普通に負けそうなんだよ。

「リクは?」

 そんなことを考えているとミカが端的に聞いてきた。

 おそらく立場が変わったときのことを聞いてるのだろう。

「いや、泣かれなくても別れてって言われりゃ別れるよ」

 そしてオレが静かに泣くよ。

「なんで!? 引き留めてよ!」

「天辺さん仮定の話で無限にキレるじゃん……」

「ていうか冗談でも別れる話なんてやめてよね! 縁起でもない」

「「それはそう」」

 ミカと声をそろえて頷く。

 実にごもっともだった。

「猛省してよ、ミカ! 自分はまだ付き合ってる前提だし!」

「うん。ごめん」

「リクもだからね!」

「はい。すみませんでした」

 ショート動画で見たから賢いオレは知っているんだ。

 パートナーがなんかお怒りのとき、男はとりあえず謝れる覚悟が大事なんだって。

 今回はそこそこ過失もあるしな……。

「というわけで台北(タイペイ)に行きます!」

「はい。用意しときます……」

「やった」

 オレが観念すると途端に二人はイエーイと様になったハイタッチ(二メートル越え)をかわす。

 ……これ、もしかしてハメられたんじゃないだろうな。

「そして今日は予行演習としてリクの部屋にお泊りしまーす!」

「やった」

「それは関係なくない??」

 不当な要求に対して、当方は断固とした態度で臨ませてもらう所存である。

 その結果もちろん帰国からもう何度目かのお泊りが開催されることになった。

 オレは、弱い。

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