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よかった、噓告されたオレはいなかったんだね  作者: 小宮地千々


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わたしたち、二人とも彼女でいいから。 3

「たっだいまー」

「ただいま」

「いやおかしいおかしい」

 部屋に戻ったオレは後に続いてきた彼女たちの言葉に思わずツッコミを入れた。

 同棲感を出すのが早すぎる。

「……おかえり?」

「おかえりなさい!」

 可愛い。可愛いけど違うよね。

 オレにも出迎えてくれる人がいるんだという事実は嬉しいけど違うよね。

「そこは『お邪魔します』じゃない?」

「お(じゃ)いま!」

「どこだよ」

 なんとなくアフリカみを感じるあいさつが誕生してしまった。

 オジャイマ国立公園とかありそう。

「『どこ』もおかしくない?」

「お邪いま」

 キノエが首をかしげる横でミカがクールに真似していた。

「横中まで乗ってきたらもうダメじゃん……」

 オレが迂闊(うかつ)なことを言ったばかりにこんなことになるなんて……。

 これから二人が来るたび毎回この謎のあいさつされるの? ちょっと楽しそう。

 悩むオレを他所に靴を脱いだ二人は勝手知ったる様子でキノエは洗面所へ、ミカは百均のあとによったスーパーの袋を手に今日の夕食を作るべく台所へ向かった。

 うーん、馴染んでいる。

「なんか手伝おっか?」

「大丈夫ー」

「リクはお客さんなんだからゆっくりしてて」

 持参したらしいエプロンを身につけながらミカが言う。

「おかしい。ここはオレが借りている部屋のはずでは?」

 一人暮らしにはちょっとぜいたくな1LDKのオレの城がいつの間にか可愛い彼女たちに乗っ取られていた。

 いや、家賃は親持ちなんだけど。

 しかし自分たちは広々とした2Kでルームシェアしてるらしいのに、この上さらに植民地が必要ですか?

「横中、なんか手伝えることない?」

 そんな気持ちになりながらコンキスタドールに控え目に聞いてみる。

「今日は私が当番だから」

 しかしあえなく断られた。

 知らない当番制だな……。

 それでも仕事を探してキッチンでうろちょろしているとミカがこちらを向く。

「リク」

「うん」

 こう見えて皮むきなら得意なオレである。

 今晩はカレーにするらしいから、ジャガイモでもニンジンでも仕事はあるだろうし、何でも来いと両手を招く動きでアピール。

「スマホで動画でも見てて」

「ハイ……」

 幼児かな?

 自分の扱いにしょんぼりしながらソファに腰かけてスマホを眺める。

 言われるがままなのもアレだけど、ここで反骨心みせるのもソレなので八方ふさがりだった。

 人生ままならないね。

「うっ」

 無難にショート動画を勧められるままに見ていると、整とんを終えたらしいキノエがどすっとオレの胸に飛び込んできた

 背中に両腕を回し強く俺を抱きしめる彼女は、それで特に何を言うでもなく定位置につきました、みたいなごく当たり前の仕草である。

 あとなんか体温高い……。

「んー」

 そしてずりずり体の位置を下げながらオレの匂いをかがないで欲しい。

 と思っているとキノエはくるりと体の向きを変え、オレの腹に後頭部をあずけた。

 下腹部(そこ)も結構デンジャーゾーンですよ!

 スマホを脇に置いて、精神統一をはかるべく彼女のつむじを見つめる。

 細くて柔らかそうな金の髪はつややかすぎてちょっと作りものっぽく思えた。

「リクー」

「ん?」

 くい、とキノエが顔をあげる。上下さかさまでもばっちり美少女である。

「あたしのこと見てた?」

「うん。髪きれいだなって」

 正直に答えるとにへらと笑み崩れたキノエがぐりぐりとオレの腹に頭を押し付けてくる。

「じゃあ、そんな彼女のこと人にドヤってもいいよ?」

「まだあんまり現実味がないんだよなあ」

 本当に、大量の私物と二人の態度で勘違いしそうになるけど再会からまだ一か月も立ってないんだよな。

 三年待たされていた彼女たちと気づかずに待たせていたオレの間で、こんなにも意識の差があるなんて……!

「じゃあ現実味が出てくるまでイチャイチャしようね!」

 うーん、この転んでもただでは起きないっぷりは見習いたい。

 オレのキャラじゃ真似したところで許されない気もするけど。

「人前ではほどほどにしてもろて」

 そう思いながら一応釘を刺しておく。

「じゃあ人に隠れてイチャイチャしようね!」

「インモラル度が増した……!」

 あとそれってただの本気を出す宣言では?

 やめてよね、魅力的にも腕力的にも抗いづらいんだから。

 しかしさっきから何か言えば言うほど墓穴を掘ってる気がするな。

「キノ」

 それまでとんとんと小気味よく刻まれていた包丁の音が止まり、ミカがこちらを振り返った。

「横中……!」

 言ってやってください。

 オレより付き合い長いのを活かして。

「ちゃんとなにしてたかあとで教えてね」

「はーい」

「横中!?」

 ちがったわ、ただの横天(よこあま)地位協定に基づく情報交換だったわ。 

 料理中のミカがあんまりこっちを気にする感じでもないのは、二人の間にはどうやらかなり厳密で綿密で緻密な取り決めが存在しているかららしい。

 なお当事者であるはずのオレには秘密らしい。密すぎない?

 なんてこと考えながら唸っていると、こちらを見上げていたキノエがちょいちょいと自身の唇を人差し指で示す。

「ちょっと何をお望みかわからないですね」

「ちゅー」

「要求にためらいがなさすぎる」

 駆け引きする隙さえ与えてくれないじゃん。

 でも上下さかさまでどうしろと? と思っているとキノエは一旦体を離してから、オレの胸にその豊かな胸を押し付けるみたいにしなだれかかってきた。

 うーん、ニコニコ笑顔で誤魔化されそうになるけどとんでもなくエッッなしぐさな気がする。

「ん……」

 とは言え人前では無いし、彼女だしすでに要望をはっきり伝えられたので大人しくキスをする。

 とたん、彼女の体からぐにゃりと力が抜けた。

「――」

 顔を離すと、満足げな表情を浮かべたキノエが唇を撫でる。

「ミカー、リクがキスしてくれた」

「ええ……」

 あとで教えてって言ってたけど直後に報告するんだ。

 彼女の報告を受けて、再び包丁の音がやむ。

 そしてまな板に包丁を置いたミカが手を洗ってこちらにやってくる。

 良かった、刃物持ってこられなくて。

「ん」

「む」

 そしてオレにあごクイをかましたのちキスをして、満足げに去って行かれる横中さん(イケメン)。

「リク、あたしもあたしも」

 そして当然のように要求する天辺さん(イケメン)。

「無限コンボの発生じゃん」

 それハメでしょ。オレのシマ(カナダ)じゃノーカンだから。

「むー」

 そんな気持ちでキノエの要請を拒否すると、すっと伸びてきた両手がオレの頬をはさみこむ。

 小中高とバレーボールに励んできた彼女の手は、女子には不適当な形容かも知れないけど大きくて立派だった。

「んむ」

 そんな手でもぎゅもぎゅと頬を揉まれる。

 自分では見えないけれども多分変顔してる柴犬みたいにされていた。

 証拠にキノエは楽しそうに相好を崩している。

「よーしよしよし」

 口に出したな?

 反撃して(やって)やろうとこちらも両手を伸ばすと、上半身を反らして逃げられた。

 そして悲しいかなそうされるとリーチの差でこちらの手だけが届かない。

「ぐぬぬ……ぬおっ」

 懸命に伸ばした手の先に濡れた感覚を覚え、慌てて引っ込める。

「えへへー」

 イタズラに成功したキノエが舌を出して得意げに笑った。

 ちょっといちゃつくのが上手すぎる。

 指舐めはかなり上級者なんよ。

「天辺ってこんなキャラだったんだな……」

「知らなかった?」

「うん」

 付き合ったことないからわからなかった。

「だろうね! あたしも初めて知ったもん」

「ええ……」

 戸惑う俺に対して、大真面目に彼女は言った。

 なんでちょっと得意げなのか。

「恋人に甘えるのってこんな楽しいんだねー」

 初めてでこれとか甘え上手の天辺さんはさぁ。

「クセになっちゃいそう」

 もう割と手遅れな感じはあるよ?

「彼氏の方もダメになりそうだけど大丈夫?」

「がんばって!」

「無責任すぎる」

 耐えられる男子多分いないでしょ。可愛いもん。

 なので外部に助けを求めてミカを見ると、彼女は包丁持ったままでこっちを見ていた。

「ヒエッ」

「キノ」

「なーにー?」

 静かに名前を呼ばれてもまるで動じないキノエさん強くない?

「交代」

「えー、ミカが今日は自分の当番だって言ったのに?」

「あとは煮てルー入れるだけだから交代」

「しょうがないなあ」

 キノエが立ち上がる。包丁は絶対に取り上げてきてほしい。

 もっともそんなのは無用の心配で、ミカは包丁を置きエプロンをキノエに押し付けるといそいそと俺の前に正座した。

 そうして何かを要求するように前に出した手で招く。

「え、なに?」

 無言の圧と意図が読めなくてちょっと怖い。

 素直に疑問を口にすると、ミカはちょっと頬を膨らませていった。

「私も指舐めてあげる」

「見てたんだ……」

 できれば止めてもろて。

 あと別にしてもらったわけでないとは主張させてもらいたいよ。

「ん」

 くい、と顎をしゃくってミカが早くと催促する。

 あ、これ逆らってると終わらない奴だな?


 ――俺の予感は的中し、その後もかわるがわる二人を相手に色々と高度ないちゃつきをすることになった。

 ついでにカレーを食べたあとは体(意味深)から匂いがするものなんだと知った記念日になった。

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