嘘告、三年の保留
「那珂川くん、ずっと好きでした。私たちと付き合ってください――」
Q.来月から最低三年弱の海外暮らしが決まっているあなたは中学校の卒業式で同級生二人から上記のような告白を受けました。彼女たちの意図を答えなさい。
※なお彼女たちは女子バレー部の二枚看板だった長身美少女とする。
A.嘘告ですね。間違いない。
「あー……」
納得したところでどう答えたものかなあ、と二人を見上げながら思う。
好きでした、で終わってたなら分かるよ?
ありがとうで答えれば済む話だから。
でも「付き合ってください」はどうしろって言うのか。
オレ、もう来月には親の仕事の都合でカナダのリッチモンドにいるんですけど?
そして十八歳までは同居ね! って言われてるから、高校時代をあっちで過ごすことも決まってるんだけど。
冗談にしてもちょっとひどくない? と言いたくなるのをぐっとこらえた。
逆に、だ。
逆に考えれば、これを本気の告白だって受け取る理由がないのだ。
だって二人はオレのカナダ行きを知っている。
三年間も太平洋を挟んでの遠距離恋愛とか、大抵の絆は木っ端みじんにされそうな無慈悲さだ。
時差だって確か十七時間。
つまりあっちの正午が日本では翌日の午前五時だ、絶望的すぎる。
そんな友達との付き合いさえ消滅しそうな壁に一か月未満のカレカノの絆で挑もうとかあり得ない。
あと「私たちと」もおかしいよね。
同じ部活で友人同士ならどっちかの告白に付き添うなら分かる。
どっちかを選んでも心底やめて欲しいけどまだ分かる。
二人と付き合ってってなんだよ。
つまりここまでわかりやすく不自然な告白は、冗談だって受け取るほうが自然じゃないだろうか。
「ありがとう。嬉しいよ」
いつまでも黙ってるのもなんなので、ひとまず口にした言葉に二人はぱぁっと顔を輝かせる。
ちょっと演技過剰じゃない?
「でもほらオレ、カナダ行くし」
「……」
そして「でも」って口にした時点でこっちが罪悪感を覚えるくらい顔を曇らせるのも止めてほしい。
いつからバレー部をやめて演劇部になったんだろう。
嘘告でしたって言うなら今だよなあ、と思いながら少し待ってみる。
けれど彼女たちにネタばらしをする気配は無かった。
なので仕方なくオレは続ける。
「あー、じゃあオレ、高校卒業したら日本に戻ってくるつもりだから……」
二人とは、中学の三年間でそれぞれ二回ずつクラスメイトだった仲だ。
これが嘘告だとして、悪意があってのことじゃないだろう。
だから彼女たちとの最後になるかもしれない日を悪い記憶にはしたくなかった。
「もし、そのときにまだ二人の気持ちが変わってなかったら、返事させてもらっていい?」
だから、仮定に仮定を重ねた未来を口にする。
ほんのちょっとだけの期待と希望を混ぜて。
「うん」
「わかった」
そんなオレの返事に二人は異口同音に「待ってるね」と答えた。
少し残念そうに、しかしそれを静かに受けいれた決意が見えるような表情で。
女子ってすごいな。本当にそれっぽく見えるんだもん。
もうここまでされると一周まわって悪い気分じゃ無かった。
これはもしかしたら、そんな反応を狙ったサプライズだったのかもしれない。
「じゃあ連絡用に三人のグループ作ろ?」
「向こうでも使えるよね」
「うん、たしか大丈夫だって言ってた」
もしくは、単にオレとのつながりを残す理由が欲しかったのか。
どっちにしろそれは嬉しいことだった。
皆と違う世界で三年間を過ごす間に、オレはきっと忘れられてしまうだろうと思っていたから。
「返事は遅くなるかもだけど、好きなときに連絡して」
「私たちも、連絡するから」
「うん――二人とも、ありがとな」
もし、このつながりさえ切れてしまったとしても。
それでもオレだけは二人の女の子がこう言ってくれたことを覚えておこうとそう思った。




