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最凶の極悪魔王、転生したら最強の末っ子王子だった  作者: 斧名田マニマニ


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11/12

末っ子王子、護衛試験で裏切り者を一瞬で見抜く

「暗殺者を見つけ出すといっても、どうやって……?」


ヒーラーの女が、困惑した顔で誰にともなく尋ねる。

それを合図に、候補者たちの間で小さなどよめきが広がった。


「話し合いでも、推理でも、好きにすればいい」


俺はそう言い渡すと、用意されていた子供用の椅子にちょこんと腰掛けた。

足が床に届かないので、自然とぶらぶら揺れる。


後はもう完全に高みの見物を決め込む。


「る、ルシウス様……本当に……暗殺者がこの中に?」


肩に止まったガルグイユが、不安げな声を出す。


「俺が暗殺者を見抜けなかったことがあるか?」

「い、いえ……!! ということは……ルシウス様は、今この場で起きていることを、すべて掌握されているのですね……!」


俺はわずかに口角を上げた。


「まあ見ていろ、ガルグイユ。きっと興味深いことになるぞ」


言いながら、護衛志望者のほうを顎で示す。

ちょうど賢者を名乗った糸目の男が音頭をとって、話はじめたところだ。


「私から発言させていただきましょう。こういう心理戦でこそ、私の知能が活きるので」


賢者は自信に満ちた態度で、一歩前に出た。


「私がもっとも怪しいと考えたのは、そちらの少女です」


賢者の指がひらりと示した先——。

そこには巨大な盾を抱えた銀髪の少女が佇んでいた。


「彼女は一人だけ、明らかに若い。まともな神経をしていたら、王子殿下の護衛を子供にさせようなんて、思うわけがない。書類選考の段階で落とされるはずだ。にもかかわらず、この最終面接に紛れ込めたということは……書類をいじって合流した暗殺者だからでは?」


全員の視線が、盾の少女へと集まる。


「審査は実力で通って来たつもり。それ以外伝えることはない」


少女は感情を乗せず、静かに答えた。


「子供だというのに選ばれた理由にはなっていないな」


赤髪の半獣人が、鼻で笑う。


すると、糸目の賢者がさらに追い打ちをかけた。


「加えて、正体を知られたくない人間特有の行動があります。たとえば、視線を合わせないこと。顔を覚えられないために、犯罪者がよく取る行動です」


少女の視線は、たしかに伏せられたままだ。


「それから、立ち位置。失敗時の撤退を想定している者は、自然と逃走経路を視界に入れる場所に立ちます」


疑いの目が、一斉に盾の少女へ向けられる。


「えっ……! あの少女が暗殺者……!? 彼女にそんな実力があるとは思えないのですが……!」


ガルグイユは目を丸くしながら、俺の隣でバタバタと暴れた。

俺は、何も言わずに成り行きを眺めている。

椅子に座ったまま、余裕の表情で。


「私は、暗殺者ではありません」


少女は淡々と言い返した。


「だったら証明してみせろよ」


赤髪の獣人が腕を組む。


「違うって否定するだけなら、誰でもできるぜ?」

「違うことを証明するのは、難しいです」


そう前置きしてから、少女は盾を構えた。


盾の少女、盾を構える。


「逆に、私は皆さんの中に、怪しい方を十人見つけました」

「なに……?」


訓練場が、一気にざわつく。


「まず、赤髪の獣人の方。あなたは、東方の国で暗殺者として指名手配されていますよね。暗殺者の手配書は、末端のものまですべて記憶しています。間違いありません」


ほう?

暗殺者の手配書、か。

そんなものがあるとは知らなかった。

少女と同じように暗殺者の顔を記憶してしまえば、今よりさらに効率よく奴らを捌けるだろう。


「それから、ヒーラーの方。立ち位置や行動、視線、すべてにおいて味方のサポートと負傷を想定していません。そして賢者と名乗った方は、暗殺者の好む毒薬の臭いが服にしみついています。嗅覚の訓練を徹底していなければ、わからない程度ですが、確かです」


少女はその後も、淡々と続けた。

他の七人についても、それぞれ具体的な理由を添えて。


名指しされた十人は、当然、苛立ちを露わにさせた。


「ふざけるな!!」

「自分が弾かれそうだからって、俺たちに罪をなすりつける気か!」

「二十人中、暗殺者が十人だと!? ありえない!」


怒号が飛び交う。


「ルシウス様……さすがに、彼らの言う通りでは……? 暗殺者が十人も紛れ込んでいるなんて、ありえませんよ……!」


ガルグイユが、不安そうに俺を見る。


「まあ、今までの俺なら、そう思っていたかもしれないな」


だが、経験が考えを改めさせた。


魔王だった頃。

襲撃してくる暗殺者は、ほとんど単独行動の者ばかりだった。


しかし、今生で相手にしてきた連中は違う。


「今日だって五人を片づけたばかりだ。五人で足りないなら、七人。七人で足りないなら十人。頭の悪い連中の考えそうな単純な計画だ」

「では……あの少女の主張が、正しいと……?」


俺は答えず、にやりと笑った。


「答えを知ってしまったら、つまらないだろう? それにほら、新たな展開だ」


ガルグイユが再び、候補者たちに視線を戻す。


「私は、自分の見立てに自信があります。王家の末っ子殿下を守るため、あなた方を今すぐ排除させていただきます」


そう言うと、少女は盾を構えた。

どうやら、十人まとめて相手をするつもりらしい。


まあ、あの盾なら問題ないだろう。


「……ふん、いいだろう。そっちがその気なら、やってやる!」


赤髪の半獣人が怒鳴り、大剣を抜き放つ。

金属音が続き、他の者たちも次々と武器を構えた。


一人の少女対十人の大人。


残る九人の参加者は、誰も動かない。

助けに入る者も、止めに入る者もいない。

全員が距離を取り、成り行きを見守る構えだ。


少女は完全に孤立した。


その光景を前に、ガルグイユが声を上げる。


「ルシウス様……っ!? さすがに可哀そうでは……!!」

「黙ってみていろ。十人程度、まとめて対処できなければ、護衛役は務まらん」


国王を安心させるために、護衛を選んでいるのだ。

俺の足を引っ張るだけの無能など、論外。


そもそも、そんなレベルでは国王も満足しないだろう。


あの人はとんでもなく過保護だからな……。


護衛の力量が足りないと思ったら、次は散歩をする時ですら一部隊を連れて歩けと言い出しかねない。


とはいえ、万が一、少女が殺されかけたら、割って入るつもりではいる。


だが、俺が入った時点で試験は台無しになるだろう。

圧倒的強者が手を出したら、興ざめもいいところだ。

そんな展開にはできるだけならないでほしい。

退屈すぎるからな。


結論から言えば、心配は無用だった。


一度、金属がぶつかる重い音が響いたかと思うと、次の瞬間には、十人全員が地面に転がっていた。


彼女は盾を中心とした防御魔法を発動させ、敵の攻撃をそれぞれに跳ね返したのだ。

自らが放った攻撃の反射をまともに食らった十人は、回避する間もなく自滅させられた。


盾の少女は、元の位置に立っている。

呼吸も、表情も、まったく乱れていない。


……なるほど。

期待していた以上だな。

これほどの強度の防御魔法を操る者はそういない。

少女の実力の全貌はまだ見ていないが、扱い方によっては相当有能なタンク役となりそうだ。


ある意味、護衛になるために生まれてきたような才能の一端を感じる。


俺は椅子からひょいっと飛び降り、小さく手を叩いた。


「よくやった、盾使い。俺の護衛役として立候補するのなら、最低でもこのぐらいの実力がないとな」


少女がこちらを振り返る。

息ひとつ乱していない。

こんなことは朝飯前という様子だ。


「お褒めに預かり光栄です、殿下」

「だが、半人前だな」

「……!」


少女が目を見開く。

暗殺者だと指摘されても、顔色一つ変えなかった少女がはじめて見せた動揺だ。


俺は、驚いている彼女に伝えた。


「おまえの推理、半分は正しい。だが、半分は不正解だ」


そう言ってから、俺は訓練場を一瞥した。

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