末っ子王子、護衛試験で裏切り者を一瞬で見抜く
「暗殺者を見つけ出すといっても、どうやって……?」
ヒーラーの女が、困惑した顔で誰にともなく尋ねる。
それを合図に、候補者たちの間で小さなどよめきが広がった。
「話し合いでも、推理でも、好きにすればいい」
俺はそう言い渡すと、用意されていた子供用の椅子にちょこんと腰掛けた。
足が床に届かないので、自然とぶらぶら揺れる。
後はもう完全に高みの見物を決め込む。
「る、ルシウス様……本当に……暗殺者がこの中に?」
肩に止まったガルグイユが、不安げな声を出す。
「俺が暗殺者を見抜けなかったことがあるか?」
「い、いえ……!! ということは……ルシウス様は、今この場で起きていることを、すべて掌握されているのですね……!」
俺はわずかに口角を上げた。
「まあ見ていろ、ガルグイユ。きっと興味深いことになるぞ」
言いながら、護衛志望者のほうを顎で示す。
ちょうど賢者を名乗った糸目の男が音頭をとって、話はじめたところだ。
「私から発言させていただきましょう。こういう心理戦でこそ、私の知能が活きるので」
賢者は自信に満ちた態度で、一歩前に出た。
「私がもっとも怪しいと考えたのは、そちらの少女です」
賢者の指がひらりと示した先——。
そこには巨大な盾を抱えた銀髪の少女が佇んでいた。
「彼女は一人だけ、明らかに若い。まともな神経をしていたら、王子殿下の護衛を子供にさせようなんて、思うわけがない。書類選考の段階で落とされるはずだ。にもかかわらず、この最終面接に紛れ込めたということは……書類をいじって合流した暗殺者だからでは?」
全員の視線が、盾の少女へと集まる。
「審査は実力で通って来たつもり。それ以外伝えることはない」
少女は感情を乗せず、静かに答えた。
「子供だというのに選ばれた理由にはなっていないな」
赤髪の半獣人が、鼻で笑う。
すると、糸目の賢者がさらに追い打ちをかけた。
「加えて、正体を知られたくない人間特有の行動があります。たとえば、視線を合わせないこと。顔を覚えられないために、犯罪者がよく取る行動です」
少女の視線は、たしかに伏せられたままだ。
「それから、立ち位置。失敗時の撤退を想定している者は、自然と逃走経路を視界に入れる場所に立ちます」
疑いの目が、一斉に盾の少女へ向けられる。
「えっ……! あの少女が暗殺者……!? 彼女にそんな実力があるとは思えないのですが……!」
ガルグイユは目を丸くしながら、俺の隣でバタバタと暴れた。
俺は、何も言わずに成り行きを眺めている。
椅子に座ったまま、余裕の表情で。
「私は、暗殺者ではありません」
少女は淡々と言い返した。
「だったら証明してみせろよ」
赤髪の獣人が腕を組む。
「違うって否定するだけなら、誰でもできるぜ?」
「違うことを証明するのは、難しいです」
そう前置きしてから、少女は盾を構えた。
盾の少女、盾を構える。
「逆に、私は皆さんの中に、怪しい方を十人見つけました」
「なに……?」
訓練場が、一気にざわつく。
「まず、赤髪の獣人の方。あなたは、東方の国で暗殺者として指名手配されていますよね。暗殺者の手配書は、末端のものまですべて記憶しています。間違いありません」
ほう?
暗殺者の手配書、か。
そんなものがあるとは知らなかった。
少女と同じように暗殺者の顔を記憶してしまえば、今よりさらに効率よく奴らを捌けるだろう。
「それから、ヒーラーの方。立ち位置や行動、視線、すべてにおいて味方のサポートと負傷を想定していません。そして賢者と名乗った方は、暗殺者の好む毒薬の臭いが服にしみついています。嗅覚の訓練を徹底していなければ、わからない程度ですが、確かです」
少女はその後も、淡々と続けた。
他の七人についても、それぞれ具体的な理由を添えて。
名指しされた十人は、当然、苛立ちを露わにさせた。
「ふざけるな!!」
「自分が弾かれそうだからって、俺たちに罪をなすりつける気か!」
「二十人中、暗殺者が十人だと!? ありえない!」
怒号が飛び交う。
「ルシウス様……さすがに、彼らの言う通りでは……? 暗殺者が十人も紛れ込んでいるなんて、ありえませんよ……!」
ガルグイユが、不安そうに俺を見る。
「まあ、今までの俺なら、そう思っていたかもしれないな」
だが、経験が考えを改めさせた。
魔王だった頃。
襲撃してくる暗殺者は、ほとんど単独行動の者ばかりだった。
しかし、今生で相手にしてきた連中は違う。
「今日だって五人を片づけたばかりだ。五人で足りないなら、七人。七人で足りないなら十人。頭の悪い連中の考えそうな単純な計画だ」
「では……あの少女の主張が、正しいと……?」
俺は答えず、にやりと笑った。
「答えを知ってしまったら、つまらないだろう? それにほら、新たな展開だ」
ガルグイユが再び、候補者たちに視線を戻す。
「私は、自分の見立てに自信があります。王家の末っ子殿下を守るため、あなた方を今すぐ排除させていただきます」
そう言うと、少女は盾を構えた。
どうやら、十人まとめて相手をするつもりらしい。
まあ、あの盾なら問題ないだろう。
「……ふん、いいだろう。そっちがその気なら、やってやる!」
赤髪の半獣人が怒鳴り、大剣を抜き放つ。
金属音が続き、他の者たちも次々と武器を構えた。
一人の少女対十人の大人。
残る九人の参加者は、誰も動かない。
助けに入る者も、止めに入る者もいない。
全員が距離を取り、成り行きを見守る構えだ。
少女は完全に孤立した。
その光景を前に、ガルグイユが声を上げる。
「ルシウス様……っ!? さすがに可哀そうでは……!!」
「黙ってみていろ。十人程度、まとめて対処できなければ、護衛役は務まらん」
国王を安心させるために、護衛を選んでいるのだ。
俺の足を引っ張るだけの無能など、論外。
そもそも、そんなレベルでは国王も満足しないだろう。
あの人はとんでもなく過保護だからな……。
護衛の力量が足りないと思ったら、次は散歩をする時ですら一部隊を連れて歩けと言い出しかねない。
とはいえ、万が一、少女が殺されかけたら、割って入るつもりではいる。
だが、俺が入った時点で試験は台無しになるだろう。
圧倒的強者が手を出したら、興ざめもいいところだ。
そんな展開にはできるだけならないでほしい。
退屈すぎるからな。
結論から言えば、心配は無用だった。
一度、金属がぶつかる重い音が響いたかと思うと、次の瞬間には、十人全員が地面に転がっていた。
彼女は盾を中心とした防御魔法を発動させ、敵の攻撃をそれぞれに跳ね返したのだ。
自らが放った攻撃の反射をまともに食らった十人は、回避する間もなく自滅させられた。
盾の少女は、元の位置に立っている。
呼吸も、表情も、まったく乱れていない。
……なるほど。
期待していた以上だな。
これほどの強度の防御魔法を操る者はそういない。
少女の実力の全貌はまだ見ていないが、扱い方によっては相当有能なタンク役となりそうだ。
ある意味、護衛になるために生まれてきたような才能の一端を感じる。
俺は椅子からひょいっと飛び降り、小さく手を叩いた。
「よくやった、盾使い。俺の護衛役として立候補するのなら、最低でもこのぐらいの実力がないとな」
少女がこちらを振り返る。
息ひとつ乱していない。
こんなことは朝飯前という様子だ。
「お褒めに預かり光栄です、殿下」
「だが、半人前だな」
「……!」
少女が目を見開く。
暗殺者だと指摘されても、顔色一つ変えなかった少女がはじめて見せた動揺だ。
俺は、驚いている彼女に伝えた。
「おまえの推理、半分は正しい。だが、半分は不正解だ」
そう言ってから、俺は訓練場を一瞥した。
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