末っ子王子を舐めた護衛候補、その判断は致命的だった
護衛候補者たちが集められている場所へと向かう。
場所は、王宮内にある兵の訓練場だ。
集まっている面々を、改めて見渡す。
今回の参加者は、二十人。
ここまでに、体力試験、模擬戦、魔力測定、忠誠確認など、いくつもの試験を潜り抜けてきてはいる。
つまり、これは実質的な最終試験にあたるわけだ。
こうした最終面接を、ここ数日で既に五回はやらされた。
正直、面倒でしかない。
護衛試験を開始したのは、父上だ。
「ルシウスはたしかに、とんでもない実力を持っている。だが、それでも三歳であることに変わりはない」
何度も聞かされた言葉が、頭に浮かぶ。
「体力は三歳児のものだ。ガルグイユ殿が守ってくれているとはいえ、常に竜の姿でいられるわけではない。人間体の護衛、それも、子守を兼ねた者が必要になる場面も必ず出てくる」
理屈としては正しい。
が、護衛兼子守などというお目付け役をつけられるのは煩わしい。
自分の身は自分で守れる。
俺がそう主張したのだが――。
「だめだああああああ!!」
父上が、ほとんど悲鳴のような声を上げた。
「だめだ! 絶対にだめだ!! 命を狙われまくっている五歳児が、『自分の身は自分で守れる』など……!!」
「いや、事実だが……」
「事実でも却下だ!! 父としての心臓がもたん!!」
父上はそのまま俺に縋りつき、半泣きで訴えてきた。
……本当に過保護だ。
だが、その心配が偽りでないことくらい、わかっている。
「お願いだ……! せめて、せめて形だけでも護衛をつけさせてくれ……! 頼む……! この通り……!! 父一生のお願い!!」
ここまで懇願されると、さすがに無下にはできない。
結局、渋々承諾する羽目になった。
まあでも、信頼できる護衛がいれば、俺は守ることだけに意識を割かずに済む。
その分、もっと先を見て動ける。
……とはいえ。
これまで俺のお眼鏡にかなった者は、一人もいない。
ほぼ全員が、俺より弱すぎるか却下となった。
自分より弱い人間を傍においても、足手まといを増やすだけだ。
ちなみに残りの脱落者は、面接に紛れ込んだ暗殺者だった。
さて、今回はどうだろうか。
……うん。
地面に立ったままでは、全体がよく見えない。
「んしょっと」
近くにあった木製の台へと、ひょいとよじ登る。
上から眺めて、ようやく全体像が掴めた。
まず目に入ったのは、赤髪の半獣人族の若者だった。
筋肉質でガタイがよく、背中には大剣を背負っている。
年の頃は十九歳ほどだろう。
その立ち姿だけで、力自慢であることは一目瞭然だった。
「腕力には自信がある。やってやるぜ!」
威勢のいい声を上げ、剣を掲げてみせる。
俺の肩に乗ったガルグイユは、ぱっと表情を輝かせた。
「おおっ! これは頼りになりそうですよ、ルシウス様!」
まあ……たしかに筋肉は素晴らしい。
だが、剣に送っている強化魔力の質とバランスが悪い。
あの状態では、全力で剣を触れる時間は持って三分。
次に目を引いたのは、その隣に立つ銀髪の少女だった。
人形のように整った顔立ちと、それに反した仏頂面が目を引いた。
参加者の中では明らかに年が若い。
おそらく、十三歳くらいか。
子供の子守を子供にさせるのか? と思わなくもない。
小柄な体をした彼女の身の丈には不釣り合いなほど巨大な盾を抱えている。
盾の表面には、無数の傷跡。
使い慣れているのは間違いない。
「私は……王家の盾となりたい……です……」
小さく聞き取り辛い声でポソポソと喋る。
表情もまったく動かない。
ガルグイユは少し首を傾げた。
「う、ううむ……盾使いは魅力的ですが、かなり小柄なおなごです。ルシウス様を守り切れるのでしょうか?」
少女の隣に立つ女に目を向けると、彼女は愛想よく微笑みかけてきた。
整った顔立ちのいわゆる美女で、白魔法師の法衣を纏っている。
年は恐らく二十代前半。
「私はヒーラーです。回復魔法を得意としております。ぜひ、私を採用してくださいませ」
一礼する所作も美しい。
それを見たガルグイユが、今度は勢いよく頷いた。
「おおっ! それはぜひとも! お子であらせられるルシウス様は、どうしても転ばれることが多いですし! 専属のヒーラーは不可欠かと!」
……余計な一言はさておき。
実際、白魔法師がいれば利便性は高い。
さらに、その後ろ。
糸目の男が、静かに一歩前へ出た。
派手さはないが、落ち着いた佇まいをしている。
年齢は完全に不詳。
視線の動きが速く、周囲をよく観察しているのがわかった。
「私は様々な知識で、ルシウス様をサポートできるかと。賢者として、お力になれるはずです」
すると、ガルグイユは「知識枠もありがたい!」と言って、翼を揺らした。
「戦闘力で並ぶ者はいらっしゃらないルシウス様ですが、この国については、まだ学びの途中。賢者が導いてくだされば――向かうところ敵なしです!」
ガルグイユはどうやら、盾の少女以外、かなり気に入った様子だ。
他にも、実力者らしい気配を纏った者たちが何人か混じっており、そのたびにガルグイユは感心したように唸り声を上げた。
ガルグイユの評価はさておき。
俺は、思わずにやりと笑った。
今回の面接は、少しばかり面白いことになりそうだ。
「ルシウス様。今回も、これまで同様、それぞれの得意技を披露させる形で、よろしいでしょうか?」
進行役の兵士が、緊張した面持ちで尋ねてきた。
「いや、今回は趣向を変える」
兵士にそう答えてから、一歩前に出る。
「この中に暗殺者がいる。それを炙り出した者を、俺の護衛役として採用しよう」
一瞬の沈黙のあと、訓練場全体にざわめきが広がった。
「……は? 冗談だろ」
赤髪の半獣人が、周囲のものを睨みつける。
「暗殺者だと……? そんな卑怯な真似、する奴が混じってるってのか?」
「落ち着いてください。王宮の場で、根拠もなくそんな話をするはずがありませんわ」
白魔法師の女性は、周囲を見回しながら静かに言う。
「……なるほど。つまり、互いを疑え、というわけですね」
糸目の賢者が、口元に薄い笑みを浮かべた。
巨大な盾を抱えた少女は、柄をぎゅっと握っただけで、黙り込んでいる。
その指先はわずかに震えていた。
「くくっ……面白え。誰が化けの皮を剥がされるか、見ものじゃねえか」
どこかで、強がるような笑い声が上がる。
一方では、声を潜め、周囲の顔色を窺う者もいる。
動揺する者、疑う者、強がる者。
反応は様々だが、共通していたのは一つ。
全員が、無意識のうちに、隣に立つ誰かを、探るような目で見はじめていた。
「炙り出すためには、どんな手を使っても構わない」
高みから見物する俺は、唖然としている彼らを見回しながらにっこりと微笑んでみせた。
「見つかった暗殺者は、その場で始末する。逆に、最後まで見抜けなかったなら……そいつには慈悲をかけてやろうと思っている。まあ、その時の俺の機嫌次第だがな」
前回は、言い訳をする間すら与えなかったが……。
静まり返る訓練場。
恐怖と緊張が、じわじわと広がっていくのがわかる。
さて、しっかり暗殺者を見つけ出せるのか。
実力を俺に見せ、楽しませてくれ。
ちなみにもちろん俺は、二十人の中に紛れ込んだ殺意を、はっきりと見つけていた。
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