EP.7 目標、メンバーを集めるpart1
都市クオリティは今日も平和だ。まぁ、今日くらいは平和かもしれないけど、俺の運だとそんな甘い話はないよな。まぁいいや、もっとでかい問題があるんだから。
俺はルナ、幻変隊の10番隊のリーダーだ。かっこいい響きだろ? ただ、俺の部隊にはメンバーが一人もいない。そう、ゼロ。誰もいないんだよ。
だから上の連中から「最低でも二人のメンバーを集めるまでは自由行動禁止」っていうクソ面倒なルールを押し付けられてる。
そのせいで、他の部隊が取り逃がした案件や後始末をやってるのはこの俺だ。特に4番隊の後始末ばっかり押し付けられる。「上手くやってくれ、ルナ」だとさ。
いや、マジで、ファリアさん、どんだけ失敗してんだよ! いい加減ミスしないでくれよ、頼むから…ファリアさんのせいじゃないかもだけど...
で、今、俺は都市クオリティの決められた巡回ルートを歩いてる。車もあるけど、今日はなんか歩きたい気分だったんだ。そしたら、いつの間にか退勤時間になってるって寸法さ! うん、最高だな!
「でも、メンバーなんて…見つからないんだよな~。なんだかんだで所属してからもう一年経ってるし…はぁ、急にめっちゃ強そうな奴が現れたらいいのに…」
まぁ、そんな都合よく現れるわけないよな! おっと、もう13時か、昼飯の時間だ。でも今、倉庫街のど真ん中だからな~。
「どうすっかな~」
もう面倒くさくなってきたし、このまま帰っちまうか。どうせ今回も特に何もねぇだろ。
「それにしても、コンテナの数すげぇな! なんかこういうの見るとワクワクするんだよな…なんでだろ?」
ゴーンッ!!!!
「なんだ!? …あっちか!」
今、めっちゃでかい音がしたぞ!? せっかく何もなく帰れると思ったのに…。なんか、コンテナに何かが落ちたみたいな音だった気がする。
「ここか!」
ここだけやたら暗いな。建物の影が上手く重なって、まるで光が届かないみたいだ。警戒しながら進むか…。そういえば、PGTセンサー持ってたな!
起動してみるけど、反応なし。…ってことは、PGTじゃないのか? いや、決めつけるのはまだ早い。
「でっかい鳥か何かが落ちてきただけかもな…」
クソ、なんでこんな暗いんだよ…。暗すぎだろ、さすがに。
「……あそこか!」
「動かないで」
…! いつの間に!? 振り返れない。首元に鋭い感触。なんか当てられてるな…。さて、どうする?
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彼女はかつて、普通の人間だった。だが、ある出来事をきっかけに、彼女の運命は一変した。世界を、宇宙を、そしてその果てまで旅することになったのだ。彼女の意思は決して揺らがない。これからも揺らぐことはないだろう。なぜなら、彼女が追い求める目的は、彼女にとって最も大切な人が果たせなかった願いそのものだからだ。必ず、彼女はその目的を果たす――。
意識が、ふっと途切れた。
「……っ、刀は――無事だ」
目を開けると、まず腰に差した刀に手をやった。冷たい感触が指先に伝わり、ほっと息をつく。烈滅はちゃんとそこにいる。
「ここは……どこ?」
周りを見回す。ホールを通った後、どうしても慣れない。時折、こうやって意識を失ってしまう。身体が一瞬、別の時空に引きずられるような、奇妙な感覚。気持ちのいいものじゃない。
『目が覚めたか?』
烈滅の声が、落ち着いて響く。刀の姿になっても、烈滅は意識を持っている。まるで生きているかのように、私と語り合う存在だ。
「烈滅も、ちゃんと意識があるみたいね」
と私は小さく笑った。
『さて、ここが“本命”か?』
本命──私が目指す場所。烈滅の言葉に、首を振る。ここがそうなのか、まだわからない。目の前に広がるのは、まるで普通の街並みだ。近代的なビルがそびえ立ち、人々が忙しなく行き交う。でも、どこか異様な気配が漂っている。
「どうして……無数の烈族の気配がするの?」
眉を寄せる。空気の中に、微かだけど確かに感じる、異質な波動。烈族──かつて私が戦い、知り尽くした存在たち。その気配が、この街のあちこちに点在している。胸の奥でざわめく感覚が、拭いきれない。
『私からすれば、烈族というより、その欠片のようなものだ。肉片が蠢いている程度の、弱々しい気配にしか思えん』
烈滅の声は、どこか嘲るようだった。烈滅の言う通りかもしれない。この気配は、確かに本物の烈族とは違う。でも、気になる。まずはこの場所がどんなところなのか、把握しなきゃ。
『前方にいる人間に近い気配の者に聞いてみたらどうだ?』
烈滅の提案に、視線を上げる。少し離れた場所に、普通の女性が歩いている。見た目はごく平凡だ。軽く息を吐き、決意を固める。
「うん。まずは情報ね」
私は進み、女性に近づいた。背後には、近未来的なビル群がそびえ立つ。まるで未来都市のような風景。私の生まれ育った場所とは、あまりにも違う世界だ。少し、胸が高鳴る。
「すいません!」
声をかけ、女性が振り返るのを待つ。言葉が通じるか、少し不安だった。でも、見た目が普通の人間なら、きっと大丈夫。
「あら、こんにちは。どうしたの? あっ、迷子?」
女性の声は明るく、親しみやすかった。内心で苦笑する。迷子──まあ、完全に的外れでもないかもしれない。
「その……迷子というわけではないんですけど、ここについて少し知りたくて」
「え、なになに? いいわよ!」
女性はにこやかに答えた。
「ここは都市クオリティでも一番有名なショッピングエリアなの! 今いるこの辺りは、飲食店や娯楽施設がたくさん揃ってる場所よ。ねえ、でも本当に迷子なら、近くに迷子施設があるから案内しようか?」
「……いえ、大丈夫です。親切にありがとうございます」
頬が少し熱くなる。17歳の私が、まるで子供扱いだ。確かに、この旅人風の服はここでは浮いているかもしれない。動きやすさを優先した軽やかな装いだけど、露出度が高めなのは否めない。都会の洗練された雰囲気には、まるでそぐわない。
「そう? じゃあ、楽しんでね!」
女性は笑顔で手を振って去っていった。優しい人だったな、と思う。でも、烈滅の声がしばらく聞こえない。人混みの中だと、静かになることが多い。ふと、周囲からの視線を感じる。この服のせいだろう。露出度の高い旅人風の格好は、動きやすいけど、こんな都市では目立つ。仕方ない、ここではこんな服を着ている人は、まずいないだろう。
「烈滅、喋りたそうにしてるかもしれないし、移動しようかな」
私は人混みを抜け、静かな場所を探すことにした。少し歩くと、休憩スペースらしき場所にたどり着く。誰もいない。絶好の機会だ。
「よし、ここなら!」
辺りを見回し、深呼吸する。
『どうするんだ?』
烈滅の声がようやく響く。私は微笑み、静かに詠唱を始めた。
「我が命ずる、万物書よ――我が姿を消したまえ」
万象書を使って、私の姿は瞬時に掻き消えた。
『相変わらず、ロマンの欠片もない詠唱だな』
烈滅の揶揄に、くすっと笑う。
「うん、でもちゃんと透明になったよ。喋りたいならどうぞ」
『少し眠る。ホールを抜けた影響か知らんが、時間が奪われた気がする。疲れた。おやすみ』
「おやすみ、なんて……意外ね」
烈滅が静かになるのを感じ、なんだか不思議な気分になる。刀の意識が眠りに落ちるなんて、想像もしていなかった。
「さて、どうしようかな……この都市クオリティ、できるだけ見て回ろうか」
透明な姿のまま、私は未来都市の喧騒に目を向けた。目的はまだ遠い。でも、この街がその手がかりを握っているかもしれない。静かに歩き出し、未知の世界へと踏み出す。胸の奥で、決意が燃えていた。
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この都市を飛び回り、できるだけ多くの情報を集めた。近代的なビル群、賑やかなショッピングエリア、未来都市らしい光景──でも、どうしても気になるのは、あの烈族の気配だ。微かで、だけど確かに感じる。調べていくうちに、この都市には「ファントム」と「PGT」という、まるで人外生物のような存在が人間と共存しているらしいことがわかった。驚くべきことに、その生物たちから、烈族の気配が漂ってくるのだ。微かなものもあれば、強いものもある。まるで、何かが混ざり合っているような、不思議な感覚。
「さて、ここは? 見たところ倉庫街かな?」
薄暗い路地に足を踏み入れる。高いコンクリートの壁に囲まれ、陽光が届きにくい場所だ。空気がひんやりとしていて、どこか重たい雰囲気。人気はないけど、妙に緊張感がある。
ゴーンッ!!!
突然、鈍い金属音が響き渡った。
「……! 何!? 今の音は!?」
心臓が跳ねる。少し遠くから聞こえたけど、何かがあったに違いない。緊張が全身を走り抜けるけど、同時に正義感のようなものが胸の奥で燃え上がる。この街で何か妙なことが起きているなら、放っておけない。
「急がなきゃ!」
音のした方へ、私は全速力で駆け出した。透明化の術はまだ効いている。足音を殺し、慎重に進む。どんな状況かわからない以上、警戒が必要だ。
やがて、コンテナだらけの倉庫の影に人影を見つけた。
「……あれは? 誰?」
目を細める。そこにいるのは、明らかに周囲を警戒している男だ。見たところ、私と同い年くらい――17歳前後の男性だろうか。昼間だというのに、こんな薄暗い倉庫街で何をしているの? 怪しい。あまりにも怪しすぎる。
「さっきの音も気になるし……少し手荒な真似をしてみようかな」
私は息を潜め、できるだけ音を立てずに近づいた。透明化しているとはいえ、足跡や些細な物音で気づかれたら面倒だ。
至近距離まで近づき、男の背後に立つ。私は静かに、だけど鋭く声を放った。
「動かないで」
「……!?」
男が一瞬、身体を硬直させる。動揺しているのがわかる。でも、すぐに冷静さを取り戻したようだ。振り返らないまま、じっとその場に立ち尽くしている。その落ち着きぶりに、逆に私が少し驚く。
この男、何者? さっきの音と関係があるの? 烈族の気配とも繋がっている? 頭の中で疑問がぐるぐると渦巻く。でも、今は目の前の状況に集中しなきゃ。
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都市の昼頃、倉庫街に一人の人影が立っていた。両手を頭の上に上げ、微動だにしないその姿は、まるで誰かに脅されているかのようだった。
「えっと…どなた様ですか?」
男──ルナと名乗る青年は、額に汗を滲ませながら、かすかに震える声で答えた。動揺しているのは明らかだが、どこか冷静さも感じさせる。なかなか肝の据わった相手だ。
「それはこちらの質問よ。まずは貴方の名前を教えて。ちゃんと答えないと――プツッといっちゃうわ」
声は低く、鋭かった。ルナは一瞬考え込むように黙り、ゆっくりと口を開いた。
「オレはルナ。幻変隊、知ってるか? 10番隊に所属してる。ここにはある音が聞こえて駆けつけたんだ。それで警戒してただけ」
「名前だけでいい、って言ったはずだけど?」
また一段と声は鋭かった。だが少しして
「大体わかった。まずは謝罪するわ」
その声が聞こえると、首元に感じていた鋭い気配が消えた瞬間、ルナの身体がビクッと反応した。
「……!? どこだ!?」
ルナは素早くその場から飛び退き、周囲を見回した。だが、誰もいないことに気づいたのか、困惑の表情を浮かべる。するとコンテナの影から一人の女性が姿を現して向かってくる。
「落ち着いて」
女性の声に、ルナの視線が女性に固定された。警戒した目つきで、彼が口を開く。
「アンタは?」
「ルイナよ。実は、私もあの音が聞こえてここに駆けつけたの。貴方と一緒」
ルイナは謝罪の気持ちを込めながら、経緯を説明した。確かに、さっきの行動は少しやりすぎだったかもしれない。ルナを脅すような真似をしてしまったのは、反省すべきだ。
「なるほど、アンタも音が聞こえて……って、てか、そんなにオレ怪しかったか?」
ルナの声には、半分呆れたような響きがあった。ルイナは苦笑いを浮かべた。
「ええ、とても。申し訳ないけど……」
「マジか……」
ルナは肩を落とし、ため息をついた。その反応がどこか滑稽で、ルイナは笑いを堪えるのに苦労した。
「取りあえず、話は後にしましょう。今はあの音の正体を突き止めるのが先よ」
「そうだな」
ルナが頷き、二人は一時的に協力することを決めた。倉庫街を進みながら、金属音の正体を探るべく進む。烈族の気配が漂うこの都市で、何が待ち受けているのか──ルイナの胸の内で、決意と不安が交錯していた。