EP.1 烈幻者と人間とポルターガイスト
この世界では、烈滅改変という不可思議で変異的な現象が、時折発生する。無数の隕石が降り注ぐこともあれば、巨大な変異生物が突如現れて暴れ回り、膨大な被害を引き起こすのだ。
広大な宇宙の中、第1観測星とされる惑星『クラスタ』では、三度のそんな大異変が起きており、そこで暮らす人類はほぼ絶滅寸前だった。そんな時、第2観測星『クオリティア』の探査隊が、クラスタの生存者たちを救出に向かう。
無事に救出され、クオリティアへ移送中の元クラスタ住民たちだったが、健康診断で異変が次々と現れる。おそらく烈滅改変の影響だろうか。不確定な反応が多発し、体外に突起が生えたり、体そのものが変形したりする者もいた。それは現実離れした、まるで幻のような存在に変わり果てた姿だった。角や尾、奇妙な触手が体から生えており、全体が歪んだりして、周囲は大混乱に陥った。
そんな騒ぎの中、救出に来た一部のクオリティア探査隊員が、不気味に笑い声を上げる。
救出を指示したクオリティアの探査隊代表は、不確定な人間たちをもう人とはみなさず、未知の要素が多いため、新たな別種の生命体として『烈幻者』と命名し、蔑むことにした。そしてクオリティアに到着するやいなや、代表は通達を出し、命令を下した。
「烈幻者ファントムを、我々が築いた都市クオリティの研究施設で完全に隔離せよ。人類の進化のため、技術の発展のため!そして──現象、烈滅改変に立ち向かうため、実験材料とする。逆らうファントムがいれば、即座に敵対生物とみなして──殺せ。人類のために、その身を捧げよ」
そうすれば、異変への対策が可能になると考えたらしい。確たる証拠などないというのに。
しかし、そんな突然の決定に反対する者もいたが、惑星の開拓者であり、代表たる探査者の命令には逆らえない。クオリティアの世界、そしてそこで築かれた第2都市クオリティでは、探査者という称号を持つ者が、絶対的とはいかないが、権力者だった。
こうして、ファントムたちには人権など認められず、それ以降、彼らは毎日、実験の成果を測るモルモットのような扱いを受けていった。
───────────────────────
年月が流れ、クラスタ救出から80年が経過した。都市クオリティの状況は一変していた。当然かもしれないが、80年前には想像もつかなかった変化だ。今の都市では、烈幻者と人間たちが共存し、共に生活を送っている。烈幻者は一つの種として扱われ、自由を得ている。ただし、都市自体にも影響が出ている。簡単に言うと、小規模な烈滅改変が日常化していると言えるだろう。烈幻者は人間が異変の影響で変異した存在とされるが、同じような現象が自然物や人工物にも起きているのだ。
例えば、街中の車や電柱、いたるところの自動販売機、ゴミ箱、さらには生い茂る草木、少し大規模なものでは電車や飛行機など。さまざまなものが、まるで知性を得たように動き出す。
これらは正式にポルターガイストと名付けられたが、長すぎるのでPGTと略されている。中には都市で生きるように適応したものもいる。知能が高い個体は言葉を話すし、危害を加えるものは破壊対象となる。80年の時を経て、そんな存在が自然に受け入れられるようになった。
唯一変わっていないのは、世界最大の脅威が消えていないことだ。烈滅改変はこの80年間に一度発生し、都市も被害を受けたが、それほど深刻ではなかった。理由は不明だが、ファントムの実験が関わっているとしたら──探査者の選択は正しかったのかもしれない。
80年も経てば技術も進化し、都市は浮遊都市となって移動可能だ。移動できることで、異変の被害を少しでも軽減できるかもしれない。ただ、移動可能になる前に異変が起きたので、確証はない。
───そして現在───
都市の人々は変わらず日常を過ごしていた。烈滅改変がいつ起きるかなどわからない。だから気にする必要はない。それよりPGTなどの警戒に力を入れるべきだ。そちらの方が数が多いのだから。現在進行形で──
「そこの太い足と手で走ってる、車のポルターガイスト!止まれ!!」
道路を疾走するパトカーの窓から、警官が顔を出し叫んでいる。前方には、筋肉質な腕と足が生えた車が、タイヤを使わず走っていた。無駄に逞しい肢体なので、走るたびに道路に亀裂が入り、速度も遅く、ただただ迷惑をかけている。そんなPGT化した車は、警官の声など無視して進む。一見すると歪んだ光景だが、都市では普通のことだ。
警官が衝突を決意しかけた時、後ろから声が響いた。
「ええ…と、こちら対PGT、ファントム捜査隊、幻変隊でーす。警察官……あとは任せてください!」
「来たな──幻変隊!……」
警官は振り返り、どこか不安げな顔をする。
「都市安全のため、車PGTを危険度1と判定、道路損傷と遅延行為で───破壊する!!」
「やっぱりかっ!!!」
慌てた警官は即座にブレーキを踏む。すると、幻変隊と名乗る者がパトカーをかわし、幻変隊専用車両で前方へ出ると、搭載されている、PGT専用爆発弾を車PGTに向け発射した。
ドカーン!
爆発音が響き、車PGTは跡形もなく消え、一般道路の一部が半壊した。普通に走っていた数台の車両も巻き添えを食らい、警官は頭を抱えて車を止め、降りる。
警官はそのまま、前方で止まった幻変隊の元へ向かう。近づくにつれ、何やら言い争っていることに気づく。
「何でっ!?どうして君はいつもいつもすぐに!す、ぐ、に!!爆発させるの!?」
「PGTは時間が経つほど危険になる個体もいるだろ?だからだよ……ふぁぅ」
「だからじゃ無いよ〜……はぁ、また壊しちゃったよー、絶対、リーダーに怒られるぅぅぅ…」
「そもそも、こんな一体に?それも危険度1の…奴に俺達を向かわせるリーダーにも非があるだろ?なぁ?」
「そういう問題じゃ無いよー!…私達がいつもいつも爆発させるから、違うやり方をさせようと片っ端から通報されたPGTに私達を向かわせてるの!!」
「はぁぁぁぁぁ……帰ろうぜー…ん?」
幻変隊車の運転席にいる男が、近づいてくる警官に気づく。面倒くさそうに思い、アクセルを踏んでUターンし、その場を去る。助手席から必死の声が聞こえたが、無視して行動した。
「んーそれじゃあ、警官さん、おつかれ〜」
警官は慌ててパトカーに戻る。
「本当に幻変隊と来たらっ……!」
警官は幻変隊を追いかける。そして結局、道路は放置され、その区間は通行止めとなった。
カツテノキミヘという中途半端に終わらせた物を元にした話です。