第九話 ギャル姫、任務執行なう☆
私はポツダム捜査隊のメンバー02、アルプス・ローレンス16。今日はこの国を揺るがすポツダム・センゲン(20)の後を付けている。
彼は私の婚約者候補の一人であり、この国の政治のごく一部を担っている。そのため、王宮住みだ。
同じくポツダム捜査隊のメンバー01サラ・イチマンジャク調査隊の情報によると、彼は貴族の長男として生まれ、サラが10才のころサラの婚約者として王宮に移ったものの、二年後アルプスが王宮に入ってからアルプスの婚約者候補になったとのこと。
初めて知ったがサラがかわいそう。婚約者を私に盗られたのも、こんなヤツが婚約者だったことも。
え? 私もだよって? だいじょうぶ! 私はポツダムを是が非でもクロにして騎士のアルバータと結婚するんだから!
あ、標的が動き出した。追わないと。バレないようにね。
私は朝一番に運動服に着替え、ポツダムの部屋の前の棚に身を隠し、彼を待っていた。
正直、足が痛い。
棚の横から彼の部屋をずっとずーっと見て、彼が自室付きのバスルームに向かう音や着替える音を聞いては、しびれる足を曲げて、態勢をちょくちょく変えて。
彼がやっと部屋から出てきて彼を付けていたら急に後ろを振り返って来て、部屋に戻り、なぜか服を変えて部屋を出て来た。
私は彼が一歩動くたびに疲れる。
もうクロだろ。いや、クロっぽい。だから今日一日彼を追って彼がクロだという証拠を掴む。ぜったい!
あ、マトが食堂に入っていったわ。私はプリンセスのため食堂など死んでも使ったことはないが、この世界に来て王宮内を散歩して知り尽くしているので食堂のババアと知り合いだ。今は縁を切りたいようなことしてる最中だけど。
私はまあまあ混んでる食堂の端っこの席でマトが注文してる姿を見る。どうやら彼はA定食を頼んだようだ。
「あ、あのー……ひめさま?」
「あ、アルバータ?」
私がどさくさに紛れて座った席は元々彼が取った席のようだ。アルバータは騎士団の者なのでこの食堂にいることに意外性の欠片もない。意外なのは私の方だ。
アルバータは私を隠すように座る体制を変えて警戒モードに入った。
何も聞いていないがプリンセスがここに来るのはやはりおかしいのだろう。ずいぶん焦って見える。そして何人かは私に気付いて指を差して何か話している。
一応運動着で髪も結んだんだけどね、プリンセスオーラは隠せないか。
幸いにもマトは一人で食事をして誰も騒ぎ立てようとしないので尾行を続ける。
しかしおかしい。マトの机どころか、近くにも人がいない。マトが嫌われてるに一票。
「ひ、ひめさま」
痺れを切らしたアルバータ。
「今私、この国のために動いてるとこなの。ターゲットが移動すれば私もここから出るから、黙っててくれない?」
少し頭を下げておねだりすると、アルバータは眉を下げて笑った。
「ひめさまが頭を下げるなんて、よほどの事なんですね。この国をお願いしますよ?」
「もちろん。言われなくても」
私もアルバータに笑いかけた時、マトが食器を受付に戻しに行った。
「私もう行くね」
席を立つと手を握られた。
「なに? アルバータ」
彼は私の手をすぐに離して、困り眉のまま敬礼した。
「今、王様とお后様が国外へおられます」
「え? えぇ。予定より長く滞在してるって聞いたわ」
「今ひめさまに何かあったら……」
「だいじょうぶよ、大した事でもないし!」
私はアルバータにニッコリと笑顔を見せて足早に食堂から出て行く。
彼は何をあんなに心配していたんだろ。ただのスパイごっこなのに。
マトは朝食後、王宮内をウロチョロし始めた。
今日は仕事がなくて暇なのか、ルーティンなのか。
印象に残る奇抜な絵を三回ほど見たあと、彼はやっと部屋に戻った。
足は疲れたし、何回か振り返る彼にストレスがたまる。こりゃサラも怒るわな。
彼の部屋の前で待機すること30分。廊下を歩く足音に私は身を隠す。どんどんこっちに近づいてる。誰かが来る!
ポツダムの部屋を訪れたのは私の婚約者候補の一人でありながらサラのことが好きな、ロッキー・サンミャクだった。
次回 第十話 密会してる男たち、怪しいって。