第八話 ヤツがクロなまさかのワケ
サラはポツダムに狙いを定めたらしい。
私は特にすることもないのでメイドたちが持ってきた可愛いドレスを着てみたり、ハイヒールで歩く練習をしたり、デザートを食べたりして過ごした。
そしてなぜか今週は王たちのとの夕食会がなかった。メイドに聞くと王と王妃が隣の国に外交に行っているらしい。サラと二人で夕食、というわけにもならず、いつも通り部屋でご飯を食べた。サラも同様に自分の部屋に夕食が運ばれたらしい。近い部屋だからカトラリーの音でわかる。
「アルプス様、たまには運動や学問をしてみてはいかがでしょう」
私が暇そうにクッキーを口に入れてるとメイドの一人が言った。これまで何回か言われた言葉だが今の私には違う言葉のように聞こえた。
「いいね。運動しよ」
私は体の動かしやすいピチッとした長ズボンと半袖のシャツを着る。ここにもこんな服があったなんて。ゲーム内で運動はしていなかったのか、運動シーンはつまらないからとアイツが教えてくれなかったのか。
メイドたちに連れられて、私は騎士の運動場にやってきた。
てっきり庭園で走るかと思ったが、王宮を挟んで反対側の土の上で反復運動をガタイの良い騎士(らしき人)にやらされている。
「では次は腰と足を曲げずに自分のつま先を触ってみましょう!」
余裕よ。
「よっ!」
私は簡単にやって見せる。
「さすがです、ひめ! もう体も温まってきたことでしょう。……もってこい!」
騎士は部下らしき騎士に呼びかける。
「え? 何を持ってこさせるの?」
私は戸惑いながら尋ねる。すると騎士は笑顔で答えた。
「馬です」
「おお! すぐ乗れた! この馬おとなしい!」
私はテンション爆上げ状態で馬の上に乗った。騎士たちが馬の周りで私が落ちても受け取れるように囲む。
「馬じゃないですからね。でも、ひめの体力もすばら……」
「え? 馬じゃないん?」
「? はい、ポニーです。馬より小さく、ひめの体に合っていると思いますよ」
先ほどから変わらず騎士は笑顔で答えてくれる。
「そう、ポニー。かわいい。毎日乗る練習していい?」
私がポニーの鬣を撫でるとポニーは少し頭を揺らす。
「良いですよ、これからよろしくお願いします。私は服騎士団長のマウント・アルバータと申します」
「よろしく、アルバータ」
私は馬を引いてくれる。彼に笑顔を向ける。
「よろしくお願いします、ひめ」
彼も私の目を見て笑う。少しドキッとしてしまった。彼のオレンジの目と髪に引き込まれそうになる。
……ダメだよ。私の相手はポツダムじゃん。あ、でもサラはポツダムを疑ってるんだっけ?
ポツダムがクロなら服騎士団長を婚約者にしてもいいんじゃね? よし、決めた。ポツダムをクロにするぞ。たとえシロでも私がサラにウソついてポツダムをブタ箱に送ってやる!
そして私はアルバータと結婚! 私、天才じゃね?
翌日。私とサラは庭園で二人だけのお茶会を開いた。
「で? ポツダムはどうだったの?」
私がウキウキで聞くとサラは眉間にしわを寄せて答えた。
「彼は……怪しいわ」
「うそ!」
心の中でガッツポーズをする。
「どこが!? どこが怪しいの!」
「……あなた、なんでそんなに嬉しそうなのよ。私は大変だったのよ? あなたが馬にまたがっている間に、彼の後を付けて、会話中でどことなく聞いて……」
サラは特大ため息をはく。ちゃんと見れば彼女の目の下にはクマがあり、顔もやつれていた。
「おつかれ。私もポツダムのこと、また調べてみるよ。ありがとう、サラ」
私、なんでこんなに素直になれたんだろう。ここに来たからかな。
「なによ、恥ずかしいじゃない……」
サラは机に伏せて少し顔を上げた。
「これからはあなたに任せたわ。じゃあポツダムが怪しい訳を話すわね」
「うん!」
私は少し身を乗り出す。
「彼……クチャラーなの」
次回 第九話 ギャル姫、任務執行なう☆