第六話 彼女のすべて
「なに? 話って」
私は急に部屋に押しかけ、我が物顔で座っているサラを睨みながらお茶を淹れる。
「アルプスもお茶を淹れられるようになったのね! 私の分もお願いしていいかしら」
私は久しぶりに人に褒められ、口元が緩む。
ハッ! ダメダメ、あいつは性悪女。
「自分でして」
私は自分のカップを持って一人掛けソファに座る。サラは自分でお茶を淹れ、またソファに戻る。
「話はね、あなたと仲良くなりたくて。前のあなたを教えてくれる?」
サラはつり目を細めた。
「前のって……。イヤ」
私はクッキーをお茶で流し込む。
「嫌? なんで?」
サラは私に向き合う。
たぶん、サラは前から性格が良くて、良い育ちしてたんだろうな。私はビンボーで、いじめっ子で。サラに言えるわけない。
「私は言わない。あんたは? 自己紹介は自分からって習わなかった?」
私が嫌味っぽく言うと、サラは笑った。
「それもそうね、私から話すわ」
サラは少し目を閉じた後、顔を上げずに話し始めた。
私は今年で18才、高3よ。高校は幼稚園からエスカレーター式。都内の私立。ピアノとバイオリンを習っていて、最近の趣味は海外旅行。前なんて一人でシンガポールに行ったの! あ、話がずれたわね。
私の名前は真良々、まららよ。おじい様に付けてもらった名前なの。真面目で良心的な人になるように、って。両親は学者で今は海外に住んでるわ。私も大学で海外に行って両親と暮らすつもり。夜普通に寝ていたらここに来て……。最初は戸惑ったわ。けど、私はこの国を良くしていきたいの。私がいなくなった後も、ずっと。
「ん!? ちょ、ちょっと待って、いなくなるの? あんた」
私はサラの話を遮って食い気味質問する。
「えーっと、じゃあ、あなたは一生ここにいるつもり? 私は帰って真良々として生きたいわ」
「えぇ……」
私は一生ここにいるつもりだった。ここのほうが楽しいし。
「私は言ったわよ、次はあなた」
「え」
正直イヤだ。サラがまららとかいうチョーお金持ちなんて言ったあとに私のビンボー人生を語れって? どんな拷問よ。でも言わないわけにもいかないし。
サラは首を傾げる。私は唸る。
「わかった、言う」
私は包み隠さずすべてを話した。アホみたいな名前、馬鹿な両親、おっさんに殴られそうになって急にここに来たこと。
彼女は眉間にしわを寄せて困っている。
あーあ。言わなきゃよかった。
「つまり、眠ったらここに来るんじゃなくて、決まった時間にここに来るのね。良い手がかりだわ」
サラは一人でボツボツ言ってる。
「裏で私達を操ってる者がいるかもしれない。この国のどこかに」
「……はあ?」
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