第三話 過去最高速度
サラとのお茶会から抜け出して廊下を少し歩く。階段を降り、庭園に出た。
この王宮で一番好きな場所。ゲームの背景と全く同じ薔薇が好き。少しも枯れたり落ちたりはしていない。誰かが手入れするところは見たことないが、手入れが行き届いている。しかし、赤い薔薇しか植えられていない。ゲームでは赤い薔薇の場所だけでキャラが喋っているのかと思ったが、赤い薔薇しかないようだ。
私の三人家族が住んでいるアパートが10室、いや20室分の広さがある。真ん中に白い、二人乗りのガーデンブランコがある。
私が10才の誕生日で親に頼んだけど結局どんぐりが届いた。小学校の頃仲が良かった子に家に入れてもらったとき、その子の庭にベンチのようなブランコがあった。その子は……スインダベンチ?とか言っていたような。
それがある薔薇がそれを囲むように咲いている。そういえば、ゲームの一枚絵があったな。ヒロイン(私)アルプスと攻略対象が中を深めるために2人で乗っていた。いじめた子から見せられたのはポツダムとの場面だ。彼は一番スタンダード、王道?だったらしい。
私は1人でブランコに乗る。結構怖い。足を曲げて勢いをつける。
「うりゃっ、ほいっ……うりょっ、ほいっ! ぬわ、よっ!」
このブランコの過去最高速度を出せた。このブランコは勢いをつけて漕ぐ物じゃない。絶対。
ブランコから降りる。
「あーなんかつっかれたぁー」
私は屈伸して王宮に戻る。
流石のサラでも人の部屋でお茶を続けないだろう。あのあとすぐに帰りそうだ。
私は部屋に入る。サラはおらず、メイドたちがおやつの準備をしていた。
「ありがと。あ、今日は普通の水でいいから」
メイドはお茶を注ぐ手を止めてカップを片付ける。
私はここに来て水以外も飲むようになった。しかし紅茶は思った100倍まずい。口に入れたときの苦味は耐えられない。
さっきサラが作ってくれたお茶は普通のだったのだが、メイドたちが用意するお茶は、あの……イエールグレー?みたいなやつで、飲んだ後は胃が痛くなる。そこまでの思いをするなら、氷入りの水がいい。あとこの世界のおやつはめっちゃ甘いから水無では食べられない。美味しいけどね。
私はソファに乗って机の上のマカロンを口に入れる。
「うーん、おいし」
そして甘さで嫌になる前に水で流し込む。次にクッキーを食べる。これはこの国のクッキーらしい。クッキーに国もクソもない気がするケド。
「うーん、甘い」
メロンパンの外側みたいな味がする。おいしい。クッキーだけで甘いのに、これは本来砂糖をまぶして食べるらしい。一度やってみたのだが、もうしない。予想以上の甘さだった。
マカロン2つ、クッキー一缶、ケーキ2切れ。ここに来てからは毎日食べている。しかし太ったりはしない。
アルプスは「私、食べても太らないんだよねー」を地で行く。そしてニキビも、抜け毛もない。なんて良い体なんだろう!
次回 第四話 地獄の夕食会