第二話 ヒロインとボスのお茶会 ~骨は拾って!~
私がアルプスとしてここに来て三ヶ月が経った。
週に一回、王と王妃と義姉のボス、サラと食事をして分かった。サラは本当に改心した。
サラには本来王家が持つ“聖女の力”がないので魔法などは使えないが、勉強に取り組み、この三ヶ月で国中の科学者を泣かせた。しかしメイドによると、よく文字を間違えたり、見慣れない文字を使っているらしい。
サラの研究メモを盗んできてもらったが、日本語だった。きっとサラも私と同じで急にこの世界に来たに違いない。改心じゃなくて別人。王たちが知ったらどうなることか。
カネに困ったらこのことリークしよ。
ちなみに私もこの世界の文字を勉強してみた。そしてあきらめた。よくよく考えたらメイドに書かせたほうが早い。勉強はバカのすることだ。
今の私、アルプス・ローレンスには10歳のときから王に決められた婚約者候補が三人いる。
1人はポツダム・センゲン。元々サラの婚約者だったのだが、私に変わった。ちなみにバッドエンドではサラに殺される。20才のイケメン。
他2人はパッとしない。一度会ったがサイコパスっぽいガラパコス・ショトウ23才と、サラに好感を抱いていて私を嫌うロッキー・サンミャク25才。論外たち。
何回かお茶会を開いてポツダムと話たが、私には彼が相応しい。貴族っぽい生まれだし(私は元々平民らしい)、服のセンスがいいし(いつもスーツ)、あと私のことが好きっぽい。私はポツダムに決定したいが、王が18才のパーティーで結婚を宣言しようとのこと。
ちなみにアルプスは16才らしい。私と同い年。サラは18才。見た目は20才くらいに見えるケド。
今日はサラとのお茶会。2人だけは初めてだ。
サラは私の部屋に入るなり、メイドに部屋から出て行くようにいった。悪役ムーブかと思ったが言い方が優しかった。彼女と部屋に2人きりになったが妙に気まずい。
「まだお茶注がれてないからメイドにいて欲しかったんだけど」
私がそう言うとサラは漆黒の目を丸くする。
「あなた、メイドを名前で呼ばないの?」
「当然じゃん。あっちは平民、こっちは王族」
アルプスももと平民だが今は王族だ。メイドをこき使ったところでどうということない。サラはお茶を淹れる。2人分。
「お茶は自分でも淹れられるのよ。特別な技術なんていらないの」
「自慢かよ」
ボソッ。サラは眉を下げて悲しそうな表情に。
「私はあなたとも仲良くなりたくて、こうしてるの。あなたが嫌だったら帰るけど……」
目の前にお茶を置かれた。私は飲む。あったかい。
「ねえ、サラ」
私は勇気を出す。
「あんたも急にここに来たんでしょ」
サラは驚いた顔をしたあと、少し笑う。
「そうよ。あなたが倒れる2週間前。ここに来た」
「やっぱり。あんた、ご飯前毎回手合わせてるから……。ここではしないみたいだし」
私はお茶を飲み干す。サラもカップを置いた。
「よく見てるわね。あなたも日本人でしょう? 私と協力しない?」
サラは私の手を握る。
「は? 協力?」
……どうせ国外追放にならないために私を利用するんでしょ。
「そう、この国を良くするの」
は?
「この国はどこかおかしいわ。一度お忍びで町に行ったとき……」
「ちょっとまって!」
私は急いで口を挟む。取り返しがつかなくなる前に。
「私、あんたの国外追放を止める気ないから。協力もしないし」
私は自分の部屋から出ていく。
……あーあぶなかった、性悪女に騙されるとこだったー。ってか“お忍びで”って。すっかり有名人気取りだし。まあ、“この国はどこかおかしい”は気になったけど。所詮ゲームの中だし。
あ、でもあの性悪女はここがゲーム内だって知らないのかも。私の方が一枚上手だ! クラスの奴らとも関わっててよかった!
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