第十五話 エンディング詐欺、はじまるよ☆
「つまり、時が戻ったのよ」
サラは真剣そうな顔で続ける。
「私達がこの世界で不相応な行動をしたから、その日が無かったことになってるのかもしれないわ」
私は理解を試みたが諦め、前から気になってたことを聞くことにする。
「サラってこの世界のこと知ってるの?」
この世界、つまり乙女ゲーム「聖女アルプスと七つの光」の中。そして私はヒロインのアルプスに、サラは義姉でボスに。
私はゲーム内容をクラスメイトからちょくちょく聞いていたので、なんとなく知っている。
「知ってるわよ」
「え!? 知ってんの?」
「えぇ、全クリしたわ。なんならここに来る直前までやってたわ」
なんと。
「じゃあ私がヒロインで……」
「私がボスってこともね。逆にあなたが知ってるなんて意外。ゲームなんてしたことなさそうなのにね」
サラはいつもの余裕顔を崩して驚き顔になる。
「あ、うん。知り合いがやってて。ちょっとしか知らないケド」
「そうなの? 私も友人からこのゲームを教えてもらったの」
「ふーん、女?」
「いいえ、男よ」
違う奴か。そりゃそうだよね。
「何? 同じ人か探ってるの?」
「まあ。サラと共通の知人がいるわけないケド」
「……それもそうね」
え、こいつ肯定した?
「アルプス、こうしちゃいられないわ。早くポツダムを捕まえに行かなくちゃ」
「でもサラ、ポツダムを捕まえたらまた時間が戻っちゃうんじゃない?」
「あ、そうだったわね、どうしましょうか」
珍しく私の方が頭良い。珍しくって言うか、初めて?
「ポツダムが怪しいことしないかずっと見張るのはどう?」
「いいわねそれ。尾行、あなた得意よね」
「そうか?」
私達はそれぞれの部屋で運動着に着替え、廊下で合流する。
「じゃあ行くわよ」
「オケマル水産リョ―イチョマル!」
「……?」
ポツダムの部屋の前。
「なかったことになった昨日、この時間ぐらいにポツダムの部屋に突撃して捕まえたよね」
「そうね、今も部屋にいるはず」
私達は扉の前で聞き耳を立てる。かすかに話し声が聞こえる。他に誰かいるのだろうか。
「だから! それは感謝してる! でも、俺がどれだけ頑張ったと思ってんだ! プログラミングでロッキー達の行動を決めて、その場で対応して、あの騎士も昨日の記憶を消して! 大変だったんだぞ!」
はい、このセリフに全部詰まってるー。
「ポツダムがクロだね」
「そうね」
私達は情報が追いつくまで食堂で一旦ステイすることにした。思い悩んでる私達を察してオバチャンがパンケーキを差し入れしてくれた。味はホットケーキだけど。
「じゃあ整理するわね」
「おねしゃす」
私はサラに全任せして一人でパンケーキを頬張る。
「まず、ポツダムには味方がいる。それも親しい仲で、上下関係はなさそう」
「ふぉう」
「次に、ロッキー達はプログラミングで、ポツダムが動かしていた」
「プロ……?」
「で、騎士のアルバータはポツダムに昨日の記憶を消された」
「うめえ」
サラは眉間にしわを寄せながら真剣に考える。パンケーキを一切れ目の前に出すが、反応すらしない。
こいつ、本気だ……!!
「とりあえず奴の仲間探す? 誰か見当もつかないっしょ?」
「その言い方だと、あなたが何か知ってる感じになってるわ」
「マ? ガチ知らん」
私は少し考えてみる。
「ってか、ポツダムから調べね? あいつも転生者ってことでしょ?」
「まあ、そうね」
「んじゃポツダムしばいて、吐かせるか」
「……その方法しかなさそうね」
サラは私の手からフォークを奪い、パンケーキを食べ始めた。
しかしすぐに私に返す。
「早く帰ってスフレパンケーキが食べたいわ」
「なんそれ」
次回 第十六話 恋のゲームだと思った?人生でした




