第一話 めろん、転生したくね?
「ちょっとめろん! こんな夜中に出て行くんじゃねえ!」
「うるせえクソババア!」
わたしの名前はめろん。夢の果実と書いて夢果実だ。親はビンボーで頭悪い。だから一生食べられないようなフルーツを娘の名前に付けた。
遺伝とは怖いもので私が飼ってるハムスターの名前は黄金と書いてカネ。
学費の都合で受験はさせてもらえず、小中高と公立だ。馬鹿しかいない公立高に入学して一年が経つ。類は友を呼ぶ、当たってる。今夜も家を出て友達とカラオケに行く。
「めろん! 親にバレずに来れた?」
「あーバレたけどへーきへーき」
「え、親怖いんでしょ? やばくね?」
「行けるっしょ、ってか男来る?」
「来るわけねえじゃあーん!」
「今夜は女で失恋ソング縛りね、めろん」
「は? 私失恋してないんですケドー!」
私は信号機がない横断歩道を渡る。
「めろん! 車来てる!」
車のクラクションが鳴る。私は足が動かずその場で固まる。
「あぶねえだろぉ!」
車はめろんのすぐ前で止まった。
「はあ!? 歩行者優先だし! 出て来いよ!」
めろんは運転席のドアを蹴ってドアを無理やり開ける。
「何だとゴラァ! やんのかぁ!」
運転席からおっさんが出てきてめろんの胸ぐらを掴む。
「ああん!?」
めろんの大声と友達の叫び声とおっさんの振りかぶった手。
次の瞬間。白く光り、何もかもなくなってしまった。
目を覚ますとベッドの上にいた。
あれ? 私おっさんに殴られそうで……。
鼻を触ってみても痛みはない。
「なーんだ! よかったーってか! なんだったのあのおっさん! 次あったら絶対ブタ箱送りにしてやる! あームカつく!」
体を起こして布団を叩く。いつもだったらホコリが出るけど、この布団、妙に高級じゃね? この部屋も。海外の女王の部屋みたい!
この部屋だけでウチの家賃消えそー。どこだろ?
とりあえずベッドから降りる。
「んん!? 私の足じゃねえ!」
白く、毛穴もない足。そして長い。手もツルツルじゃん! 膝小僧も黒くない!
やばっ、チョー嬉しいんですケド!
なんか自分じゃない気がする。体の使い勝手(?)も、手足の長さも。いつもみたく太ももカキカキできない。ベッドの横のスリッバを無視してドレッサーらしきものに近づく。
「はああ!? だれ!?」
鏡に映るのは私じゃない、こんなに鼻も高くないし、油ももっと乗ってるし。輪郭神だし、目、めっちゃ緑なんですケド! 髪も無理やり明るくした茶じゃなくて、思い出のマーニーみたいに金髪! ふわっとなっててカールしてるし、海外のお人形みたい!
でも、なんで私こんな変わったの?
もしかして異世界転生じゃねー!?
そういやどっかで見たことある顔してるなー。
あ、思い出した。私がいじめてる子がしてるゲームのキャラだ。
私にいじめられてるってのに、なぜか私にゲームの話してくる奴のお気に入りキャラ、ヒロインのアルプス・ローレンス。
ふわふわカールブロンドで目は深緑、白くて170センチあるゲームの中で断トツ美人のアルプス・ローレンス、になってる!
「やっばー、いじめるんじゃなくて手下にしてゲーム情報聞き出すんだったー」
あ、そーいや、このゲームには悪役令嬢がいるっぽいな。部屋を出て探しに行こ。
ガチャ
まあまあ重いドアを押して廊下に出た。
「あら、アルプス。もう体調は大丈夫なの?」
「うわあっ!?」
ドアのすぐ前に赤髪の女がいた。漆黒の目は鋭い目つきをしている。
どう見てもメイドの服じゃない。もしかしてゲームキャラ?
「まだ横になったほうがいいんじゃない? お医者様も安静にと言っていたし……。どうしたの? アルプス」
こいつ、王家にしかないとされてる“聖女の力”を持っていて十歳で王家に養女として入った私、アルプスを呼び捨てにしてて、赤髪、漆黒の目、黒のドレス。間違いない。
ボスで悪役令嬢でアルプスの義姉、サラ・イチマンジャクだ!
ゲーム内の悪行は数知れず。バッドエンドではアルプスの婚約者を殺し、アルプスを自殺に追いやったチョーサイテーな女。ハッピーエンドでもサラは国外追放されている。
でも……あれ? サラはクソな性格でボスだよね?
「ほら、横になっててアルプス。今汗を拭くタオルを持ってくるわね」
じゃあ、なんでこんなに優しいの?
次回 第二話 ヒロインとボスのお茶会 ~骨は拾って!~