第9章76【穏やかな日々、歩み寄る心】
原初の塔の崩壊から数週間が経ち、かおるたちの生活は少しずつ落ち着きを取り戻していた。
日常が戻ってくる――それは、平穏そのものであり、同時に新たなスタートを切ることでもあった。
朝。
静かな村の一角、かおるの家の前には、アリシアとセラがそれぞれの仕事に出かける準備をしていた。
「今日は何か手伝うことあるか?」
かおるが問いかけると、アリシアがにっこりと笑って答えた。
「うーん、今日は市場に行くくらいかな。あ、でも君の手伝いがあれば助かるかも」
「手伝うのはいいけど、また魔法の練習か?」
かおるは少し眉をひそめる。
「もちろん! でも、それだけじゃなくて……君も練習してるし、私ももっと精度を上げたいなって」
アリシアは目を輝かせながら言った。
かおるが笑いながら頷く。
「そうだな、じゃあ今日は練習しながら、一緒にやるか」
その後、二人は自宅の庭で魔法の練習を始めた。
アリシアが風を操り、かおるがそれに応じて剣を操る。
「うん、少しずつだけど、使いこなせてきたかも」
かおるが剣を振るうと、空気を切る音が響いた。
アリシアが真剣にその様子を見守り、何度かアドバイスをしてくれる。
「でも、もう少し力を抜いてリラックスしたほうがいいかも。緊張しすぎてるよ」
「わかってるけど、つい力が入っちゃうんだよな」
かおるは苦笑しながら答えた。
その時、セラが突然家の前に現れた。
「おーい、二人とも! 何かしてるのか?」
「あ、セラか。ちょっと魔法の練習してたんだ」
アリシアが振り返ると、セラは手に持っていた袋を振りながら言った。
「まあ、魔法もいいけど、今日はこれだ!」
そう言って、袋から取り出したのは、大きなパンの塊だった。
「これ、私が作ったんだ。食べてみて!」
セラは笑顔で二人に手渡す。
「おお、これは……! 君が作ったのか?」
かおるが驚きながらも手に取ると、アリシアも興味深そうにそれを受け取る。
「ちょっと不安だけど……どうだろうな」
アリシアは半信半疑に一口食べてみた。
「うーん、ちょっと固いけど……味は悪くない!」
アリシアが微笑んで言うと、セラは得意げに胸を張った。
「でしょ!? これ、私の特訓の成果だ! ちょっとした挑戦だったけど、うまくいったかな?」
「いや、いい感じだよ。これからも作ってくれ」
かおるが笑いながら応える。
「うん! 頑張るから!」
セラは嬉しそうに言った。
その後、三人はのんびりと過ごす時間を楽しんだ。
日常が、何も特別なことがないようで、実はとても大切な瞬間だということを改めて感じる。
穏やかな時が流れ、かおるは心の中で誓った――この平穏を守り続けるために、仲間たちと共に歩んでいこうと。