第8章75【原初の塔へ、記憶の牢獄】
これで、完結…。じゃあありません!次の話から日常が始まる予定です!
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【塔内突入〜クラウスとの対峙】
激闘の末、人形兵たちを打ち倒した三人は、“原初の塔”の内へと踏み込んだ。
中は、まるで時の止まった神殿のようだった。
壁一面に流れる“記憶の光”。それぞれの帯が、誰かの人生を映し出していた。
「これ……まさか全部、転生者たちの記録?」
「ええ。魂の“写し”。思考、記憶、感情……すべてを複製するための装置」
「こんな狂った場所を、人間の手で作ったのかよ……」
かおるは拳を震わせながら、先へ進む。
その奥、ひときわ異質な空間が広がっていた。
玉座。天井まで伸びる水晶柱。
そして、その中心に座っていたのは――
「待っていたよ。かおる」
クラウス・ヴァインベルグ、その本体だった。
「お前が……すべての元凶か」
かおるが剣を抜く。
「いや、私は“道を用意した”だけだ。選んだのはお前たちだよ」
クラウスは立ち上がり、手を広げた。
「私が見たいのは、世界の“終点”だ。転生が破綻し、記憶が塗り潰され、魂が解放される瞬間。そのためには、“君たち”が必要だった」
「ふざけるなッ!」
かおるが突き出した瞬間、空間が歪んだ。
クラウスの周囲が、巨大な魔法陣で覆われる。
「来るがいい、“原初”の力をまとった英雄よ。君の怒りを、世界に刻んでみせろ」
「アリシア、セラ、いくぞッ!」
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【クラウスとの最終戦闘・カナメとの接触】
塔の中心部、空間は歪み、重力が乱れる。
クラウスの放つ魔術は、既にこの世界の理を超越していた。
「これは……魔術じゃない。概念そのものを操ってるの……?」
セラが驚愕する。
「さすが“原初の塔”に適応した男だ。だけど俺たちだって――!」
かおるの剣が閃き、時空を裂くようにクラウスへと迫る。
「貴様の理屈で、俺たちの絆を踏みにじるなッ!」
同時に、アリシアの風が炸裂し、セラの炎が天井を焦がした。三者三様の力が、クラウスを追い詰めていく。
――しかし。
「甘いな」
クラウスが静かに呟くと、彼の身体が霧のように分散した。
「これは“記録”だ。私の真なる核は……“記憶の牢獄”の中にある」
次の瞬間、かおるの視界が白く染まる。
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彼が目を覚ました場所は、何もない虚空。
ただ一人、少年が立っていた。
「カナメ……!」
かおるが駆け寄ると、カナメは振り返る。
「やっと……来てくれたな」
彼の瞳には疲労と悲しみ、そして微かな希望があった。
「ここは……俺の記憶。あいつ、クラウスは俺の魂を“媒体”にして、塔を制御してる」
「助ける。絶対に連れ戻す」
カナメは首を横に振る。
「俺はもう……戻れない。魂が分散しすぎた。でも、かおる……一つ、お願いがある」
「……何でも言え」
カナメは微笑んだ。
「“この世界”を救ってくれ。お前にしかできない。“転生違法”の存在として、終わりを変えられるのは、唯一……お前だけだ」
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その言葉と共に、かおるの身体は光に包まれ――意識が現実へ戻る。
目を開けると、アリシアとセラが必死に叫んでいた。
「かおるっ!!」
「目覚めて……!」
そして彼は、クラウスの核心部――〈記録核〉へと最後の一撃を放つ。
「カナメの願い、受け取ったッ!」
閃光。
塔が崩れ、空が裂ける。
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【世界の決着、そして再会】
クラウスの〈記録核〉が破壊され、世界に静寂が訪れる。
塔の崩壊と共に、“転生記録網”が解放された。
転生者たちの魂は、天へ還り、あるべき輪廻へと導かれていく。
その光景を、かおるは黙って見届けていた。
「……カナメ。俺は、やったぞ」
瓦礫の上、アリシアとセラがゆっくりと近づいてくる。
互いに傷だらけで、服は破れ、顔には煤が付いていた。
「ほんと……無茶ばっかり」
アリシアがぽつりと呟くと、かおるは苦笑した。
「無茶しないと、勝てない相手だったからな」
すると、セラがぽつりと口を開く。
「――私、やっとわかった気がする。かおるの“原点”が……カナメって人との、絆だったんだね」
「……ああ」
セラは静かに頷いたあと、少し俯いて呟いた。
「でも、今のあなたには……私たちがいる」
その言葉に、かおるは目を見開く。
アリシアも、微笑んで手を差し伸べてきた。
「これからは一緒に、ね? 世界を少しずつ――良くしていこう」
かおるは、ゆっくりと頷く。
「……ああ。二人がいれば、どんな未来だって恐くない」
手を取り合い、三人は崩壊する塔を背に歩き出す。
世界が静かに、新たな夜明けを迎えようとしていた。
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エピローグ「星の夜、三人で」
数週間後――
世界は激変の兆しを見せていた。
“転生違法”という禁忌は消滅し、人々は新たな倫理と対話に向かって歩き出していた。
そして今夜、かおるたちは小高い丘に登っていた。
「星、綺麗だね」
アリシアが夜空を見上げながら言う。
「……静か、すぎて怖いくらい」
セラもそっと肩を寄せてきた。
かおるは二人の手を握りながら、優しく微笑んだ。
「この静けさを……守っていこう。俺たち三人で」
彼の言葉に、ふたつの頷きが重なる。
――かおるの旅は、終わったのではない。
ようやく、“始まった”のだ。
記憶に刻まれた無数の別れと、後悔と、祈りを抱きながら。
彼は、未来を生きる。